スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

文字の大きさ
52 / 197

姫田祷

しおりを挟む

(姫田 祷)

 四人掛けのテーブルの隣には要さん、はす向かいには川本かわもとさん。
 川本さんは今日の場をセッティングしてくれた姫田さんのご友人だ。要さんが情報を聞き出した相手でもある。
 そして、私の向かいには画面で見たままの端麗さで微笑んでいる女性が。

 噂の(私が勝手に騒いでいただけだけど)姫田さんだ。

 ブラジルに三週間もいたからか、日焼け対策はしっかりしてそうな印象の姫田さんでも、ノースリーブの肩がほんのり赤くなっていた。


 地球の裏側のブラジルは現在秋の後半にあたるだろうが、旧来の日本の夏くらいの温度にはなるし、紫外線は強い。
 温度に関しては昨今の日本の猛暑も相当なものになるが、年間を通しての気温や紫外線の強さはやはり熱帯雨林のブラジルの方が「強い」のだろう。

 
「川本さん、今日はどうもありがとう。姫田さんも時間つくってもらってありがとうね。ブラジル行ってたんだって? 戻ってきたばかりだよね。疲れてるところ無理させちゃってたらごめんね」
 

 この場で一番年上の要さんが口火を切ってくれる。
 

「こっちが色部。私は普段誉って呼んでいるから、そのまま呼ばせてもらうね。誉がさ、どーしても姫田さんに会いたいって言っててさー」と、こっちを見る要さん。
 
 急に振る! まあそうなんだけど。それに流れで自己紹介できるから良いんだけど。
 
「色部誉です。色部でも誉でも、呼びやすい方で呼んでいただければと。たまたま姫田さんの動画を見かけて……」
 素直な賞賛の言葉を伝えた。
 
 サンバという分野において、派手なダンサーに較べると地味な印象の打楽器。
 その中でも高く軽やかで速いピッチを担う楽器はリズミカルなリズムを奏でたり、身体全体を使って集団で踊るように演奏したりと、派手で楽し気な印象にしやすいが、最も低音を担う重く大きな楽器であるスルドは、やはり実直な屋台骨とした印象だろう。

 そんなスルドを、華やかに優美に演奏していた姫田さん。

 パワフルなソロやテクニカルなソロを観たことが無いでもなかったが、姫田さんの演奏は単純に見惚れてしまう要素があった。確かに長い動画では無かったが、一瞬でつかまれ、最後まで視聴しきることができた。
 技術論で言えばもっと高いレベルにいる奏者はいくらでもいるだろう。
 なんなら、スルド歴で言えば私の方が長い。単純な技術なら私の方が上かもしれない。

 でも、だからこそ、逆にすごい。と思った。

 初球から中級くらいの演奏でも、「画面越しで」ここまで「魅せる」ことができていたことに。


 始めたばかりのジャンルで早々に地球の裏側にある本場に行ってしまう行動力と言い、この人の底は計り知れない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
キャラ文芸
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...