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【幕間】 マレ 〜湖面に映る一番星の輝きは〜
しおりを挟む(柳沢 希)
削りに削り先鋭化したわたしに貫けないものなどない。
などと嘯いても、実際に必須要素以外のすべて完全に削ぎ落せるものではない。わたしとて、孤独というわけではなかった。
わたしがこの世界に入ることを決めたのは、わたしを魅入らせたダンサーがいたからだ。
追いかけるように同じ教室に入会し、同じ練習場で練習できるときはできるだけ近くで、彼女を真似るように踊った。
隙があれば話しかけ、機会があれば教えを請うた。
やがて。
彼女の方もわたしを気にかけてくれるようになった頃には、甘えるようなことを言ったりもしていたと思う。
バレエを始めて以降、道行きが別たれた妹とは、あまり遊ばなくなっていた。というより、わたしには遊ぶ時間がなくなっていた。
妹には当時姉のように慕っていた友だちがいた。夕食の時など、友だちと遊んだ話を嬉しそうに話す妹を、正直羨ましいと思っていたわたしは、自分にも同じような存在ができたと嬉しかったのを覚えている。
実際、彼女は同じ教室に通う後輩に過ぎないわたしに、本当に良くしてくれていたと思う。
妹への対抗心は、もしかしたらあったのかもしれない。
わたしにだって、素敵な姉のような存在の人が居るんだ。可愛がられているんだ。なんて、主張したかったのかもしれない。
もしそれが動機だったとしても、わたしが彼女に抱いた思慕の情になんの瑕疵もない。
削り磨き鋭く尖らせた先端は、狙った獲物を必ず貫けるとしても、鋭ければ鋭いほど、脆くもある。
わたしにとって、もしかしたら余分だったかもしれないけれど削り切れなかったものは、わたしを包み、補強してくれていた。
結果、わたしが折れずにここまで来られたのは、削り切れなかったもののお陰なのかもしれない。
美しかった。
観客として見ていたわたしは、その美しさに呼吸すら忘れて魅入った。
幻想世界から具現化した妖精のような少女は、年齢相応に可憐で、年齢不相応に妖艶だった。
嫋やかで穏やかな仕種に、儚さと妖艶さが混在した雰囲気が外見からは滲み出ていて,その美しさを神秘的なまでに引き上げ、観る者に時を忘れさせた。
彼女は確かに、この世界にあって輝ける者のひとりだった。
多くの観客を魅了し。並居る競合を制し。錚々たる審査員を感服させ。
絢爛たる実績を持ち、綺羅星の如き多数の生徒を抱える先生たちからの期待を、一身に背負っていた一番星。
その星が翳った原因の一端。
その要因。
輝く星を翳らせた罪が、自分にもあるのではという思いに捉われて剥がせなくなったわたしは、常にチリチリと心をゆっくりと焦がされているような感覚がついて回ることになった。
罪は償わなくてはならない。わたしには、どんな罰が相応しいのだろう。
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