スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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(色部 誉)

「えっ⁉︎ ほんとですか⁉︎ わー、言ってみるもんだー。言ったもん勝ちだー」


 にこにことしていたらアキちゃんも笑ってくれた。

 
「それはちょっと違う気がするけど。まあ俺にも弟居るし、多少その辺りの感覚もわからなくもないしさ」

「やったぁ、じゃあ企画、まずは形にしなきゃ!」
 
「そーだよ誉。私も協力するんだから、まずは協力するためのものつくってよ。それにしてもアキちゃん、弟さんいたんだねぇ。アキちゃんの弟さんってことは、地元だよね? 今度連れて来てよー」

「あいつなぁ……彼女いるし、どうなんだろう」

「彼女いたって飲みに行くのは良くない?」

「女性が接客するお店だからなぁ。嫌がる子は嫌がるんじゃないかい?」


 アキちゃんと私のやりとりは、気づけば要さんが加わり、たーくん軍団の面々も巻き込んで広がっていった。


「うち、健全なのにー」


 要さんはプロ意識が高く、キャストとしてお客様にも仕事にも真摯に向き合う。要さんなりの矜持も持っていた。
 一方で、公私は明確に切り分けていて、要さんの本音と本質の部分では、キャストの女性としての在り方、この手のお店に来る男性の在り方について、「個人の好みと主観だからそれを否定はしない。私個人としては完全に共感してはいなく、好ましいとも思っていない」と言ったモノだった。
 だけど、「うち」という要さんから出た言葉は、「プロ意識」が故の言葉としては妙に馴染んでいて、しょーちゃんが以前何かの時に言っていた、「要はクールぶってるけど、実は愛情深い」という要素が現れているようだった。


「女性が付くこと自体が嫌がられる場合はなぁ」

「アキちゃんは弟さんの彼女知ってるの? そういうタイプ?」

「知ってるよ。おおらかなタイプだとは思うけど、結構一途な感じもするから……どーだろうなあ。あまりそういう話しないしなぁ」

「や、そんなことよりさ、彼女いるから連れてこれないってことは、アキちゃん彼女いないってこと?」

「……あー、そうだけど……」

「えっ、えっ、まじでー⁉︎」

「なにが、『そうだけど』だっ! クールに決めてる場合じゃねーわ! 俺が紹介したるぞ!」

「ちょっとたーくん。お店の美容師さんやスタッフさんとかで考えてない? 経営者なんだからパワハラとかセクハラにならないよう気を付けてよ?」

「だーいじょーぶ! 本人の意思を第一優先にするなんて当たり前だろ?」

「え、俺の意思は……?」


 たーくんを中心とした場に於いて、ある意味ゲスト的な立ち位置のアキちゃんは、しかしかつてクライアントとしての付き合いから始まったその立場を意識してなのか、常にサポート役に回っていた。
 元々こういう場で飲むのが好きなのはたーくんたちで、アキちゃんはあくまでも付き合い。
 つまらないわけではないだろうが、女性の接客を伴うお店でアルコールを楽しむという行為に特別の価値は感じていないようだったから、どうしても「付き合い」でその場に居るという以上の意味は発生しなかったのだろう。

 しかし今、場の主役はアキちゃんだ。

 その流れを受けて、尚一歩引いた立ち位置を貫くほど無粋では無かったアキちゃんは、好き勝手言っているたーくん軍団に適切かつするどめの突っ込みで対応していた。

 
「へー、アキちゃんノリ良いじゃない」

 
 不敵に笑う要さんにも、「なんでちょっと上からの感じなんだよ」と処理していた。
 だんだん素というか、アキちゃんの下地が出てきている気がした。
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