156 / 197
クレーム
しおりを挟む
入ってきたふたりの男子生徒に見覚えはない。
サイドを刈り上げたショートヘアの方が、予算の件で訊きたいことがあるのだと私に詰め寄った。
ふたりは硬式テニス部だそうだ。
「説明で部員や実績で割り振ってるって言ってたけど、人数は去年と変わらないし、実績は団体戦で一昨年県大会一回戦敗退だったけど去年は一回戦超えてるんだから、むしろ増えてなきゃおかしくね?」
これもままある問い合わせだ。
絶対値ではなく相対値なのだから、その部の実績のみで評価されるわけではない。評価の仕方も内訳を知っている生徒の方が少ないだろうから、この手の問い合わせが起こるのは無理ないのだが、実際は年度初めに各部へ資料を配布しているし委員会で説明もしている。
それだけ、委員会の活動について、日常に於いては気にしている生徒はほとんどいないということだろう。
そうだとしても、同じ時期に同じような内容の質問をする前に、同じ事例があった過去どうだったのかをまずは部内で共有しておいてもらいたいところだが、昨年部費が上がっていて満足していた場合、不満に依る問い合わせはしていないだろうから、通常最長三年でメンバーが入れ代わる学校の部活という環境では、経験に伴う継承がなされないことも仕方ないのかもしれない。
「ええと、毎年の部費は生徒会費を源泉にしていますので、生徒会費の額の影響を受けるんです。生徒会費が必ず同額や増額になるとは限らないので減ることもあります」
「生徒会費って去年より減ってんの?」
「いえ、同じくらいです……」
「じゃあ……!」
「あ、あと、実績や人数も他の部活との兼ね合いもありますので、極端な例ですけど、ずっと地区大会一回戦負けだった部がインターハイ出場っていう躍進を遂げたとしても、他の部活が全部インターハイ優勝をしていた場合、他の部活の方が評価は高くなります」
「一昨年と去年でそれぞれの部の実績にそんなに差あったか?」
「い、いえ、そこまで大きな差や偏りはなかったですけど……」
「なんだよっ、意味の無い例えださないでくれる⁉︎ 結局減ってる理由ないじゃん」
「い、いえ、細かい評価方法もありまして、インターハイや県大会出場は、その時点で評価されます。次に評価値が上がるのは入賞した場合で、一回戦や二回戦の細かい差は評価値に変動は無いんです」
結構複雑な仕組みについて、多少手元資料を確認しつつのたどたどしくはあっても正しく説明できたと思う。
でも男子硬式テニス部のふたり組は全く納得した顔をしていなかった。
「なんだよそれ! 一回戦と二回戦が同じって、県大会舐めてんのか? 一回戦越えるのが簡単じゃないこと理解してる? わけのわからん基準で評価されんの納得いかないんだけど!」
私だってかつては競技者だ。大会のシビアさくらい理解してる。
この基準は私が決めたわけじゃないって言いたいけど責任逃れしても仕方ない。そもそも努力や難易度に基準を引くということ自体が難しい。細かく分けてしまえばキリがない。ある程度のラインでざっくり分けざるを得ないことくらい想像できないものだろうか。
「まあ、それがルールだからってんだろ? くそみてぇな言い分だけどルールそのもののことをこいつに言ってもしょうがねぇよ」
ベリーショートの方が私を見下したような目で一瞥してからサイド刈り上げに諭すように言う。
ルールだから従えとか、そんな言い分私言ってないじゃない……。
「一回戦も二回戦も一緒っていう、戦ったことも無い委員会様の雑な考えはわかったわ。だとして、評価が同じならせめて同額じゃねーの? 減ってんのはおかしくない?」
だからっ……極端な例はわかりやすく示す目的のもので、その都度の質問の「一昨年と去年における大きな差」は無かったけど、細かい差を積み重ねた結果、同じ程度の評価値の部活でも微増微減が発生するのはおかしいことじゃないでしょう?
戦ったことがないと言う決めつけも腹が立つ。
目の前の人物を委員会の生徒としてしか見ず、その生徒がどのような背景を持っているかなど想像もしない。委員会の人間が、現在や過去で競技者ではないとなぜ思い込めるのか。
そのような狭い視野だから、外部のあらゆる要素との因果関係になど思いも馳せられず、単純に成績の昨年比だけで予算が決まるなんて思えてしまうのだ。
全部活が全て昨年の成果を上回ったら全部活の予算が上がるとでも思っているのだろうか。
お金は勝手に増えたりはしない。源泉が変わらないのならば総予算が劇的に増えるわけもないのに。
サイドを刈り上げたショートヘアの方が、予算の件で訊きたいことがあるのだと私に詰め寄った。
ふたりは硬式テニス部だそうだ。
「説明で部員や実績で割り振ってるって言ってたけど、人数は去年と変わらないし、実績は団体戦で一昨年県大会一回戦敗退だったけど去年は一回戦超えてるんだから、むしろ増えてなきゃおかしくね?」
これもままある問い合わせだ。
絶対値ではなく相対値なのだから、その部の実績のみで評価されるわけではない。評価の仕方も内訳を知っている生徒の方が少ないだろうから、この手の問い合わせが起こるのは無理ないのだが、実際は年度初めに各部へ資料を配布しているし委員会で説明もしている。
それだけ、委員会の活動について、日常に於いては気にしている生徒はほとんどいないということだろう。
そうだとしても、同じ時期に同じような内容の質問をする前に、同じ事例があった過去どうだったのかをまずは部内で共有しておいてもらいたいところだが、昨年部費が上がっていて満足していた場合、不満に依る問い合わせはしていないだろうから、通常最長三年でメンバーが入れ代わる学校の部活という環境では、経験に伴う継承がなされないことも仕方ないのかもしれない。
「ええと、毎年の部費は生徒会費を源泉にしていますので、生徒会費の額の影響を受けるんです。生徒会費が必ず同額や増額になるとは限らないので減ることもあります」
「生徒会費って去年より減ってんの?」
「いえ、同じくらいです……」
「じゃあ……!」
「あ、あと、実績や人数も他の部活との兼ね合いもありますので、極端な例ですけど、ずっと地区大会一回戦負けだった部がインターハイ出場っていう躍進を遂げたとしても、他の部活が全部インターハイ優勝をしていた場合、他の部活の方が評価は高くなります」
「一昨年と去年でそれぞれの部の実績にそんなに差あったか?」
「い、いえ、そこまで大きな差や偏りはなかったですけど……」
「なんだよっ、意味の無い例えださないでくれる⁉︎ 結局減ってる理由ないじゃん」
「い、いえ、細かい評価方法もありまして、インターハイや県大会出場は、その時点で評価されます。次に評価値が上がるのは入賞した場合で、一回戦や二回戦の細かい差は評価値に変動は無いんです」
結構複雑な仕組みについて、多少手元資料を確認しつつのたどたどしくはあっても正しく説明できたと思う。
でも男子硬式テニス部のふたり組は全く納得した顔をしていなかった。
「なんだよそれ! 一回戦と二回戦が同じって、県大会舐めてんのか? 一回戦越えるのが簡単じゃないこと理解してる? わけのわからん基準で評価されんの納得いかないんだけど!」
私だってかつては競技者だ。大会のシビアさくらい理解してる。
この基準は私が決めたわけじゃないって言いたいけど責任逃れしても仕方ない。そもそも努力や難易度に基準を引くということ自体が難しい。細かく分けてしまえばキリがない。ある程度のラインでざっくり分けざるを得ないことくらい想像できないものだろうか。
「まあ、それがルールだからってんだろ? くそみてぇな言い分だけどルールそのもののことをこいつに言ってもしょうがねぇよ」
ベリーショートの方が私を見下したような目で一瞥してからサイド刈り上げに諭すように言う。
ルールだから従えとか、そんな言い分私言ってないじゃない……。
「一回戦も二回戦も一緒っていう、戦ったことも無い委員会様の雑な考えはわかったわ。だとして、評価が同じならせめて同額じゃねーの? 減ってんのはおかしくない?」
だからっ……極端な例はわかりやすく示す目的のもので、その都度の質問の「一昨年と去年における大きな差」は無かったけど、細かい差を積み重ねた結果、同じ程度の評価値の部活でも微増微減が発生するのはおかしいことじゃないでしょう?
戦ったことがないと言う決めつけも腹が立つ。
目の前の人物を委員会の生徒としてしか見ず、その生徒がどのような背景を持っているかなど想像もしない。委員会の人間が、現在や過去で競技者ではないとなぜ思い込めるのか。
そのような狭い視野だから、外部のあらゆる要素との因果関係になど思いも馳せられず、単純に成績の昨年比だけで予算が決まるなんて思えてしまうのだ。
全部活が全て昨年の成果を上回ったら全部活の予算が上がるとでも思っているのだろうか。
お金は勝手に増えたりはしない。源泉が変わらないのならば総予算が劇的に増えるわけもないのに。
1
あなたにおすすめの小説
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スルドの声(共鳴2) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。
夢も、目標も、目的も、志も。
柳沢望はそれで良いと思っていた。
人生は楽しむもの。
それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。
でも、熱中するものに出会ってしまった。
サンバで使う打楽器。
スルド。
重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。
望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。
それは、望みが持った初めての夢。
まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる