スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

文字の大きさ
164 / 197

思い出の中の要さん

しおりを挟む

(上杉 要 高校時代)

 運動部の過半数が結託し、生徒会副会長を抱き込んで押し通そうとしていた「学生生活品質向上計画」。
 一件耳触りの良いその計画は、学校と近隣の大型スポーツジムとの提携を旨としたもので、その資金の源泉は生徒会費となっていた。
 はっきりいえば、運動部に所属している一部の生徒にとってメリットの大きい、学校全体から見れば偏りのある施策だ。

 看過できないと考えた要さんをはじめとした会計委員が主導し、その計画に不公平感を募らせていたほとんどの文化部をまとめあげ、中立だった生徒会長、無関心だった残りの運動部も引き込み、原則生徒会費の運用については生徒会の判断に任せるとしていた教師陣の支持も取り付け、計画を叩き潰したときも、反発する運動部から私や本庄先輩を守ってくれたのは要さんだった。
 まあ、計画の反対勢力の急先鋒もまた要さんだったから、私と本条さんは巻き込まれたと言えなくもないが、要さんの主張は理に適っていたし、私も本庄先輩も要さんと同じ意見だったからそこは構わない。

 
 要さんは助けてくれるだけでなく、しっかり私たちを教育してくれた。

 委員は毎年、前期後期で刷新されるが、都度ノウハウやナレッジが分断してしまうので原則前任者が継続する形をとる。

 一年生で委員になれば、その年の後期、二年生前期後期、三年生の前期、まで同じ委員を務めることとなるのが通例だ。


 私は要さんの教育をしっかり受けたおかげで、要さんが退任した後も会計チームは何とかやってこれた。
 金銭という重要なものを扱う部門だが、ちょっとしたミスを除けば、何の事故も不備も起こさずに任期を終えることができた。後輩のこともきちんと育てられたと思う。三年生の後期に退任して以来今に至るまで、会計委員を継いだ後輩とは時折連絡を取っていたが、細かい愚痴はあるも大きな問題の勃発は聞いたことがない。

 

 
 高校時代の思い出の要さんは、理知的で、論理性を伴ったバランスの取れた正義感に溢れ、牽引力のある頼れる先輩で、憧れの先輩でもあった。

 今、隣をふらふら歩く要さん。

 お酒を飲むようになり、呼び方が上杉先輩から要さんに変わり、成り行きだけど一緒に住むようになり、同じバイトもするようになり、酔って無防備な姿を見せてくれるようになった要さん。
 距離感は近くなっても、目標にしたい先輩であることは変わらない。

 私は要さんのようにできているだろうか。できてきただろうか。
 自信はない。だから、まだ、要さんの近くで、要さんから学びたい。それは、いつか要さんへ恩返しをするためにも。要さんが、私をみて安心してくれるようになるためにも。

 おでん屋の女将さん曰く、今日の要さんの上機嫌は私の成長によるものとの言葉が本当ならば、私も少しずつは成長しているのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
キャラ文芸
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...