スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

文字の大きさ
179 / 197

『confusão』実演

しおりを挟む

(柳沢 望)

 ステージ上では楽器のセッティングが終わったようだ。

「次は『confusão』! だっ! 全員が専門外のパートにチャレンジするぜ。
フロアー! 彼女らの『caciqueando』でカオスに盛り上がれぇっ!」
 DJの勢いのある紹介を受けそのまま演奏に入る。


 のんちゃんのギターソロ。
 経験者でもない。
 単一のメロディパート。
 演目の切り込み役。


 練習の状況によってはギターの演奏は諦めてアカベラで歌うという選択肢も持ちながら進めてきた計画は、結果フルパッケージでの実施にこぎつけた。

 こと、このパフォーマンスに於いては、のんちゃんは超えたハードルの数も高さも、私のものよりも遥かに上回っていたことだろう。

 
 たった独りで戦っているのんちゃんの姿が。
 私に勇気をくれる。

 徐々にパートが合流していくような構成にしてあった。
 ダンサーは最後だ。私たちが出ていくときは、私たちがのんちゃんを奮わせるように力強く踊ろう。感情を出して!

 
「Olha, meu amor
Esquece a dor da vida
Deixa o desamor!」

 
 のんちゃんの歌唱が始まる。こちらも不慣れなポルトガル語での歌だ。
 不慣れなギターを弾きながら、不慣れなポルトガル語の歌を歌う。

 すごいのんちゃん! 全然できてるじゃん!


 みことのパンデイロがリズムを添え、華やかさが増してくる。
 のんちゃんの歌も伸びやかだ。

 
「のんーっ!」

 
 客席に観に行っているマレが歓声を上げた。
 
 その歓声に合わせるかのように、カイシャのルイとほづみのスルド、ひいのタンボリンが合流する。

 ひとつずつとは言えそれぞれバテリアの楽器だ。音が大きく迫力がある。
 負けないようのんの声が一段階大きくなった。

 バテリアの音が、のんの軸を支えているのかもしれない。

 
「みんな、いこうっ」
「「「おー!」」」

 
 私の呼び声に、いのり、がんちゃん、アリスンが応える。私もみんなも、あまり体育会系っぽい掛け声はできなかったが、気合は入ったと思う。

 
「ふぉ――――――――――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 
 トップをきる私は思いっきり大きな声で場に躍り出た。

 
「いえーーーーーーーっっ!」


 いのりも続いてくれる。

「わー!」「やーっ」がんちゃんとアリスンも振り切れてはいないががんばってくれている。

 
「わーっ! ほまれちゃーん! みんなーっ」

 マレが目を輝かせて手を叩き、身体を揺らしている。

 
 私ができなかった感情のダンス。マレが得意としていたダンス。
 今こそ私は、マレに倣おう。

 
 私はマレのバレエの先輩だった。
 だから、マレを教え、導く役割を持っているつもりだった。

 やがてマレがバレエの才能を開花させ、私を凌駕したときは、素直にその業に感嘆し、成果を称賛した。

 同じバレエの演者として尊敬もしたし憧れもした。

 でも、師として見做して取り入れようという意識は、なぜか抜けていた。
 教え導くという最初の関係性が、私を盲目にしてしまっていたのかもしれない。

 
 今更だけど。

 今こそ、私は。

 マレをお手本に、マレに学び、マレに倣い、自らの感情や想いをダンスに乗せる。

 主張を、訴えを、欲を、剥き出しにして。

 バレエをやっていた時に、これができていれば。なんて後悔は無い。
 その挫折を経て、屈折を得たからこそ。この私があるのだから。


 
 マレに届けたい想い。
 マレから学んだものでマレの知らない私を表現できる私。

 マレが普段観客に見せているものの一部をマレ自身が見られるように。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
キャラ文芸
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...