スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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高梨さんとの話

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 ふと空いた撮影の合間の時間。
 控え室や休憩所に行くほどではない時間と思われ、現場のパイプ椅子で待っていたら思いの外長い待ち時間となっていた。
 何となく慌ただしく行き交うスタッフさんたちを眺めていたら、不意に高梨さんに話しかけられた。主に一方的に質問されたことに、答えるだけのやり取り。

 話題はなぜか、私のバイトについて。夜の仕事なのかと問われたがーー


 営業時間は夜だし、一応接待を伴う飲酒店だから、いわゆる「夜の仕事」ではあるのだけれど、いわゆる夜の仕事が持っているイメージ通りの仕事かと言えば、決してそんなことも無いかなと思うものの、それを説明しても仕方ないし、客観的に見れば、やっぱりいわゆる夜の仕事なのはその通りだし……。
 
 なんて考えの堂々巡りも、妃夜さんのペースには関係がない。
 
「なんでその仕事してるの? お金?」
 
 んんんんんんん……まさに時給に惹かれて、というか、生活費だの自分で払うことにした学費だのの事を考えたら、一定水準以上のバイト代が無いとやってけないことが判明して、要さんとしょーちゃんに相談したうえで選んだ仕事だから、まさにお金のためではあるんだけどぉ……よくある「いわゆる夜の仕事」と、「その仕事に就くことになった動機」の関係性とは、微妙に違うつもりなんだよなぁという思いはありつつも、やっぱり客観的に評価すれば、決して違うと言い切れる内容ではない気もするかもなんて思いがぐるぐる回る。
 言葉としてはその通りなんだけど、ニュアンスが若干違う。けれど、それを上手く説明できないし、しても仕方ないのかなとも思う。
 
「うん、まあ……」
 
 巡り巡った思考の百分の一くらいの回答。
 
「楽しい?」
 
 きついことも結構ある。嫌な思いすることだって無いわけじゃない。でも。
 
「うん、楽しいよ!」
 
 この答えは、自信を持って言える。
 
 確かに夜の仕事だし、お金のための仕事だし、時給が高い分それなりの苦労もあるけれど。
 自分がそういう世界に向いているなんて未だに思ってもいないけれど。
 そんな私でも、お店のお陰で、お客様のお陰で、「楽しい」と思って仕事をさせてもらっている。
 
 
「ふーん。誉は、人が好きなんだね」
 
 おぉ……そういう評価になるのか。なんというか、独特だなぁ。
 
「妃夜さん……は、どうして俳優のお仕事はじめたの?」
 
 思い切って名前で呼んでみたが、妃夜さんからは特にリアクションは無い。嫌がられていないなら、このまま行ってみよう。
 
「気付いたらやってた」
 
 子役からこの世界に居たんだったっけ? 幼かったなら、動機を覚えていないこともあるだろう。意思がまだはっきりしない頃から、親が積極的になって活動しているなんて話だって珍しくは無い。私がバレエをやり始めたのだって、おおよそそんな感じだった。
 
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