スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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電話連絡

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 待ち合わせの指定の場所からは少し移動しなくてはならない化粧室に行って、身だしなみをチェックしたり、ちょっとリップを塗りなおしたり、なんてことをしているうちに、待ち合わせまで十分を切った。
 小国さんもちゃんとしている感じだから、そろそろ到着するかもしれない。

 着いたら連絡があるかなと思いスマホを取り出した。
 画面にはメッセージの受信を示す通知の窓が表示されていた。
 開くと、要さんとしょーちゃんの三人で組んでいるグループには応援のメッセージだった。

 もう。なにも応援することなんてないのに。

 それとは別に、要さんからは注意事項みたいな内容のメッセージも入っていた。

 心配性だなぁ。
 私、そんなに頼りないかな。

 それはそうなのだろうけど、でも、それだけではないことを、本当は知っている。

 要さんは、本気で私を心配し、本気で私の幸せを案じてくれている。私は要さんに受けた以上のものを返していきたい。いつになるかわからないけれど、いつか必ず。それが今すぐではないのなら、今のところは、与えてくれるものを、大切に受け止めたいと思った。

 少しじんわりとした気持ちを抱えつつ、画面を操作する。

 小国さんとも一応IDを交換していた。交換時に確認を意図する挨拶のやりとり以外の履歴は未だない。
 公私で言えば公寄りのスタンスを取っている小国さんは、基本的には電話とメール、電話のショートメッセージを使う。今のところ、そのどれもに連絡が入った様子は無い。

 到着していることを伝えようと思った。
 向かっているなら電車内だろうから、電話や通話は不適切。メッセージなら差し支えないだろう。ショートメッセージより、せっかく交換したんだし、他の人とのやり取りの作業も同時に行えるから、アプリで連絡してみようと思った。

 
≪今日はよろしくお願いします。到着しました≫

≪改札を出たところでお待ちしています。求人のフリーペーパーが入ったラックのある太い柱のところにいます≫


 二通のメッセージを送り、お辞儀をしているネコのスタンプを送る。
 
 素っ気なくはなく、馴れ馴れしすぎない、自然な感じで送れてる、よね?
 
 画面を閉じると同時に着信を示すメロディが流れた。トークアプリではなく、電話への着信だ。

 
 
「はいっ、色部です! ……え……はい、はい……そうなんですか、それは……はい、いえ、はい……それは大変でしたね……お疲れ様です。いえ、はい……いえ、そんな。いえ……はい、わかりました……いえ、お気になさらず……はい、はい、失礼します」

 
 
 ちょうど電車が到着したのか、開放された堰を通過する水流のような人の流れに、私は影響のない位置にいたつもりだったが、押し流されるようにその場から移動していた。

 ふらふらと流れに沿って歩いている私は、水流に流される枯葉のそのものだ。
 
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