大器晩成型の魔導書使い!?

O.R氏

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2章 アマントラスダンジョン編

13話 九つの首

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九つの首を持ち上げ今にも襲いかかろうとしている『ヒュドラ』。
それに対峙する円華はヒュドラの伝説を知っていた。
円華は前の世界では俗に言う神話オタクだった為である。
「首を切り落とすと二つに分かれる為、傷口を火で炙らなければならない。」
「真ん中の首は不死身である。」

などと言った伝説を数多く知っている。
しかし、英雄ヘラクレスの様には行かない。
何故なら彼女は強いとは言えついこの前まで読書好きだった只の少女だからだ。

(首を火で炙るのは出来るとして、不死身の首はどうしよう…。)

襲ってこないのを察知したヒュドラは九つの首を一斉に円華の方へ向ける。
そして、一気に加速させ円華に九つの首が襲いかかる。
両手に持つ剣で迎撃するが少しづつ押されているのは素人の目にも分かる程、力の差は歴然だった。
円華が3人の中で劣っているのではなく、純粋にヒュドラが4体の中でトップクラスに強いのだ。

「クッ…!」

横に転がりながら移動し一度距離を離す。

「絶対天野君の方が適任じゃないの!!」

そう嘆きながらスキルを発動すべく構える。

『戦技:不知火の焔』

そう言ってスキルを発動すると、円華の身体から魔力が放出されて剣に集約する。
『戦技:不知火の焔』
それは、燃え始めると周囲の魔力を吸い続ける事で消えなくなると言う彼女の持つ『戦乙女』と言う固有スキルの初級スキル。

「ふぅ…。」

そう一息ついて覚悟を決めると、ヒュドラの目の前に再び立つ。

「行くわよ!!」

そう叫んでスキルを発動させる。

『戦技:神燈火炎の舞』

そう言った瞬間、神々しいまでの魔力を纏った円華はまるで神が乗り移っているかのように動き出した。
地面を軽く蹴りヒュドラの頭の位置まで跳躍した円華はまるで豆腐でも切るかの様な動きで首を一つ易々と切り落とす。
地下100階にヒュドラの悲痛の叫びが広がる。
しかし、そんな物は聞こえないかのように着地し次の攻撃態勢にはいる。

「意外と弱いのね、貴方。」

妖美な口調でヒュドラを挑発する。
その口調は円華のものでは無かった。
スキル『戦乙女』とは、過去に存在した伝説の戦乙女の記憶を自らの頭にインストールする事でその戦闘能力を得るスキルだ。
その為、スキル発動の間は人が変わってしまうのである。
彼女が2度目の跳躍をする頃にはヒュドラの気は完全に変わっていた。
1つの首元が燃え続け再生が出来ないと焦っている中でさえ、自分が目の前の少女に恐怖している。
その事実に気付かないほど伝説の怪物は愚かではなかった。

再び来る跳躍。
ヒュドラも牙を剥き出しにして対抗する。
しかし、円華は空中でくるりと身体を拗らせ襲いかかった首に張り付いた。

「細切れにしてあげる。」

そう猟奇的なことを言ってヒュドラの首の位置から更に跳躍し、急降下する。

『戦技:神速連斬の舞』

円華が地面に着地した時には円華の頭上でヒュドラは首1つ分頭から首に掛けてバラバラになっていた。
更に、着地した円華の周りには無数の剣が浮遊している。
浮遊している剣は次々にヒュドラの首に襲いかかる。
まるで自らの意思で動くかの様に。

数秒後には全てのヒュドラの首は切り落とされていた。

最後の首は中央にある不死身の首。

「さて、どうやって切り落とそうかしら!」

そう言って高々と跳躍し、首に剣を差し込み豆腐の様に切り落とした。

…しかし、討伐によるレベルアップの音は鳴らない。

九首の不死ヒュドラー』。

切り落とされた最後の首が咆哮を上げたかと思った次の瞬間。

その首は、最初からそこにあったかのように最後に切り落とした筈の首は繋がっていた。

既にヒュドラの纏う魔力も先程とは桁違いの魔力で円華は舌打ちを鳴らす。

(やっぱりそう簡単には行かないのね…。)
(自らを無条件に蘇生させているなら絶対消費魔力は桁違いに多い筈だわ。)

そう思って無数の剣に司令を出し最後の首を落そうとすべく剣を向かわせる。
しかし、先程の様には行かなかった。

金属同士がぶつかる音と共に向かわせたはずの剣が地面に落ちる。

別に円華の魔力がなくなったわけでも使えなくなったわけでもなかった。
単なる力技。
しかし、それは円華に対して焦燥感を生ませるのには十分だった。

(さっきとは魔力も耐性もまるで違うというわけね。厄介な相手だわ。)

そう考えながらも円華はまだ戦意を無くしてなかった。

(あんまり使いたくは無かったけれど、奥の手を使うしかないわね。)

そう言うと技を全て解除しスキルを発動姿勢を取る。

「武装解除!!」

そう言って彼女は両手に持つ剣を投げ捨てた。

「スキル発動!『伝承限定使用』!」

すると、円華の右手が淡い青色を纏って光り出す。

天羽々斬剣あまのはばきり』!!

すると円華の右手に淡い色を放つ青色の青銅の剣が現れた。
『天羽々斬剣』。
通称、十束剣。
スサノオが八岐大蛇を打倒した際に使用した伝説の剣。
この世界において、語り継がれる事や信じられるという事は最も存在を強固にする。
例え異界の伝承だとしても。
だからこそ目の前にいる神格級の魔物はトップクラスの強さを誇っているし、尋斗のレーヴァテインは最強クラスの神器なのだ。
そしてこの剣は竜殺しの剣。
相手が竜であった時、例え不死であったとしても存在する魂ごと切り裂く。

「さて、覚悟はいいかしら。私のスキルは神器を生み出すことが出来る代わりに攻撃出来るのは1度だけなの。だから…。ちゃんと死んでね。」

『伝承限定使用』というスキルは異世界よから来た勇者に超低確率で発生する『寵愛スキル』。
神が力を与えるべきと判断した者に与える文字通りの寵愛。
ただの一度しか攻撃出来ない代わりに、伝説をそのまま再現する。

円華はそう言って剣を構えるヒュドラに向き直る。

「真名偽証。」

「我が名は須佐之男。」

「此処に契約と伝承において一撃を担う者。」

そう円華が唱えたと同時に剣に魔力が集まり始める。

「真名立証。」

「我が名はルーナ・アスフェルト。」

「此処に契約と信頼において器に纏う者。」

そう唱えて剣を構えて最後にこう告げる。

「契約履行。今此処に伝承は認められた。」

『神器解放:大蛇絶つ偉大なる神剣アマノ・ハバキリノツルギ

…。

………。


「なんだ。着く前に終わったじゃん。」

円華の所に加勢する為に駆け付けた悠樹はただ2つの音と共に終わりを悟った。

金属が肉を軽く絶つ音。
剣を鞘にそっとしまう音。

このたった2音が鎮魂歌レクイエムであるかの様に、静かにこの戦いは終わりを告げた。

一撃と言う仕事を終えた剣の消滅と共に…。



窓渕  円華
Lv:51           職業:戦乙女(見習い)

・基礎値
体力:6100
筋力:7630
魔力:4240
敏捷:5260
幸運:4050

・スキル
『戦士』:7
『英雄』:3

・固有スキル
『戦乙女』:4

・習得スキル
『両手剣』:7
『直感』:6
『高速化』:4

・寵愛スキル
『伝承限定使用』:2
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