竜の恋人

異世界で愛を呟かれ

異世界で愛を呟かれ

翌日はあの男は来なかった。
虚な瞳のケイトはただ黙々と私の世話をしてくれていた。

時間になると食事が運ばれ、済めば片付けられる。
いつも入浴していた時間には着替えを持って来て手伝われた。

声は出せない。
友人となった精霊達も呼べなかった。

あの男がつけた首輪のせいだろう。
不快感しかないが、取り外すこともできない。

このままどうなるんだろうか…
時間は過ぎていくばかりだった。

次の日は、黒ずくめの男達を連れてあの男が入ってきた。
あの男が近づくと、頭の中が霧に覆われた感じで思考が停止する。

されるがままに拘束されて、急に背中に痛みを感じた。
叫びたいが呻く声しか出ない。
部屋中には鉄錆の匂いと私の呻き声。
そして私の背中の痛みの原因であろう物の音…

痛い…痛い…助けて…
助けて…アル…

そう願った時。

「あぁ、やり過ぎたか。大丈夫、癒してやろう。そして…」

いきなり大きな光とドンと大きな振動とともに爆音が周りを埋め尽くした。
背後から目の前に移動した男や、他の黒ずくめの男達が吹き飛ばされていく。


壁に叩きのめさた男、そう、自分を『私の主人だ』と言っていた男は、プルプルと首を振り、私の背後を見つめる。
手や足の拘束が解かれ、背中にあたたかく柔らかい物をそっとかけられ包み込まれた。
そのまま抱き上げられて…

「それは私のだ！！！」

飛びかかり奪い取ろうと手を伸ばす男を片手で制して、吹き飛ばした。

「先に彼女を！！」

聞いた事のある声が…
あれは姉の…

そっと抱き上げてくれている男の顔を見た。
悲しそうに、心配そうにしている瞳の奥に、怒りが見え隠れして…

「あ…アル…」

それだけ呟いて意識がぷつんと消えた。


次に目を覚ませたのは五日後だと言われた。
ベットの住人とかした私をアルが常に側にいてくれた。

あの時のケイトは、一瞬自我が戻ったらしい。
私が鞭打たれていた時に一瞬戻り、アル達を手伝ってくれたとか…
その彼女が今は帰らぬ人になっていたという最悪の事実を聞き、泣き暮れてしまった…