愛理の場合 〜レズビアンサークルの掟〜

本庄こだま

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6.狩るものと狩られるもの

伝説の夜



 20分の制限時間を終え、愛理とハルミは4ー4の引き分けだった。

 試合前、圧倒的に実力優位と称されたハルミ。

 その圧倒的なセックス・テクニックを武器に愛理を連続アクメへ導き、早々にノックダウンへと追い詰めたが、予想を超えた愛理のスタミナと、本能で求める〝情念のセックス〟によって次第にリズムを狂わされ、終了1分前に土壇場での同点を許してしまった。

 「……ねぇ、愛理ちゃん」

 「?」

 延長戦に向けたステージセッティングが行われている間、ハルミが愛理に囁きかける。

 「私、El Doradoエルドラードに参戦してホントによかった。あなたみたいな可愛くて、美しくて、そして強いと……こんなレベルの高いセックスができるなんてね」

 「ハルミ……」

 突然の内なる告白に愛理は戸惑ったが、ハルミの真っ直ぐな瞳を見ると、何も言わずに耳を傾ける。

 「10代で100人斬りとか、カリスマ女竿師なんて言われて浮かれていた時もあるけど、そんなのは昔の話……今はその時の体験や失敗を糧に、性の悩みを抱えた女性たちに〝セックスの喜び〟を知ってもらう活動をしているの」

 「……」

 この時初めて、愛理はハルミが何者であるかを知った。

 あのケイが「ヤバすぎる相手」と恐れ、棄権の可能性すら思案したこと。
 入場時、ハルミの名を聞いた時の観客たちの反応と、その後の熱狂的な大歓声。
 一般的なセックスとは一線を画す、確かな知識と技能に裏打ちされた超絶的なセックス・テクニック。

 ハルミ自身の告白によって、点と点がすべて繋がった。

 (……とんでもない相手と戦っていたのね)

 愛理は無意識に唾を飲み込む。ひとすじの冷たい汗が背中を伝うのが分かった。

 それは恐怖によるものでもあり、同時に興奮によるものでもあった。

 そんな〝ヤバすぎる女〟と、互角以上に渡り合った自らの成長と、勝ち得た自信……。

 「でもね」

 「えっ……?」

 ハルミは先程までの自嘲気味な笑みをやめ、真剣な眼差しで愛理を見つめた。

 「あなたとのセックスで、今日は私が学ばせてもらった。理論やテクニックだけじゃない、自分の〝性欲〟〝エロい〟をとことん追求するのも、セックスには大事なんだな……ってね!だから……ありがとう、感謝してる❤︎」



 最終決着の舞台──。

 両者の最大の急所に、〝卑猥な仕掛け〟が施されていた。

 ラテックス製の極小ハイレグショーツは愛理の局部に鋭い角度で食い込み、内部に仕込まれたローターのシルエットがプックリと浮かび上がり、対するハルミのペニスにも、結束バンドで固定されたローターが亀頭の裏筋に硬く当てがわれている。

 2人はステージ上、観客席に向かって横並びに立ちに備えていた。

 眩ゆいばかりのライトが両者の裸体を余すところ無く照らし出し、異様な装備の女たちを好奇の衆目にさらけ出す。

 「……なんかコレ、セックスよりも恥ずかしいよね?」

 「……そうね、言えてる」

 ハルミの言葉に愛理が小さく頷く。
 
 この「見世物」のような惨めな心境を分かち合えるのが今はただ一人、雌雄を決するべき敵同士とは何という皮肉だろうか。

 『完全決着、絶頂耐久バトルッ!ルールは明解、先にイッたら負けのサドンデスッ!泣いても笑ってもこれが最後の戦いですッ!』

 ドワァァァァァ!!

 恭子が芝居掛かった口調で語気を強めながら観客を煽ると、それに応えて大歓声と万雷の拍手が巻き起こる。

 「愛理!愛理!!愛理!!!」

 「ハルミ!ハルミ!!ハルミ!!!」

 贈られる声援は五分と五分。

 2人の女の本気が、酔狂な観客の心さえも動かし始めていた。



 『それでは、開始します!構えてッ!』

 愛理とハルミは、両脚を肩幅に開いて腰を落とす。

 「ハルミ……」

 「ん?」

 先程とは逆に、今度は愛理がハルミに話しかける。ハルミは顔を正面に向けたまま、愛理の立つ右側へ大きな瞳をギョロッと向けた。

 「ありがとう、って言ってくれたけど、それは私も同じ。身体が溶けちゃいそうになるくらい、こんなに気持ちよくなれるセックスがあるなんて、知らなかった……〝伝説の女竿師〟は伊達じゃなかったってコトね……ハルミ、ありがと」

 「あはは、そう?愛理ちゃんエロかわで私のタイプだから、ちょっとだけサービスしちゃった❤︎」

 「……ふふっ」

 ハルミの笑い声に、愛理もつられて笑い返す。

 今から戦いに挑む2人の間に、いつしか不思議な〝友情〟が生まれていた。

 ふと、ハルミが右手を愛理に差し出す。

 「手、握ってくれない?」

 「……ええ」

 差し出された手を、愛理は左手で握り返す。

 エナメルのロンググローブ越しにも分かるほどにグッショリと湿った互いの手が、この戦いの苛烈さを物語っている。

 暫し笑顔を向け合った2人だが、どちらともなく前を向き直すと、互いに眉間に力を入れて〝戦闘モード〟へと表情が切り替わった。

 『Ready……』

 恭子が手を挙げて開始を示唆する。
 
 「愛理ちゃん、負けないから!」

 「私も……絶対負けないッ!」

 握り合う互いの手が、指を絡めて一層固く結ばれる。

 ここは狂宴、El Doradoエルドラードのステージ。

 女同士の、観客との、自分自身との戦いの舞台。

 そのステージで愛理とハルミは今、さらなる高みを目指す為の〝共闘〟を誓った。



 『Fight!!』

 《ヴィィィィィィィィ》

 「はァンッ!?❤︎」

 「あォッ!?❤︎」

 恭子の号令と同時に、局部に取り付けられたピンクローターが始動する。

 遠隔操作のローターは無機質なモーター音を奏でながら、2人の〝一番弱いトコロ〟を微弱な振動で愛撫していた。

 「ふーッ❤︎ふーッ❤︎くゥッ……❤︎」

 (うァァァッ❤︎おゥッ❤︎こッ❤︎これッ❤︎ヤバッ……❤︎)

 性的興奮により肥大した陰核に、ダイレクトに突き刺さる容赦のない刺激。

 だがその威力は絶妙に抑制され、オンナが欲しがる快楽への到達を決して許しはしない。

 生殺しのような歯痒い責めに、愛理は思わず腰を前後に動かしてしまう。

 (何よコレッ❤︎こんな弱いのッ❤︎いっその事、とっととイカせてくれれば……ッ❤︎)

 「んはぁッ❤︎あゥゥッ❤︎ほォォッ❤︎嫌ァッ!❤︎いじわるッ❤︎いじわるしないでッ❤︎こんなのッ❤︎こんなのじゃ嫌ァッ!❤︎」

 ハルミも同じく、腰を前後にカクカクと振り射精欲に身を焦がしている。
 亀頭の鈴口からは、だらだらと牛の涎のように凄まじい量のカウパー液が糸を引き、ハルミのペニスとマットの間を繋げていた。

 握った手から、互いの〝我慢〟を感じ取る。

 (イキたいッ!❤︎イキたいイキたいイキたいイキたいッ!!❤︎)

 (イケないッ❤︎イケないイケないイケないイケないィィ……ッ❤︎)

 〝イッたら負け〟の勝負で、〝イキたい〟と願う矛盾。

 だがその矛盾こそが、両者の尋常ならざる性欲と、その発散の為ならば公衆の面前での恥辱すらもいとわない〝淫乱なオンナ〟の証明であった。

 愛理とハルミはひたすらに、その艶めく美貌をクシャクシャに歪めながら残酷な快楽に耐え忍ぶ。



 『10秒経過!』

 「……はッ!」

 時間経過を告げる恭子のアナウンスに、項垂うなだれていた愛理が顔を起こす。

 (まだ10秒!?長い……気が狂いそう……!!)

 永遠にすら感じる、無慈悲なローター責め地獄。

 その時──。

 《ヴィィィィィィィ……!!》

 「おッ!?❤︎ほォッ!❤︎」

 「いぎッ!?❤︎んォォ……ッ❤︎」

 突如としてローターの振動が強まる。どうやら時間の経過によって、強度が増してゆく設定のようだ。

 「あひィッ❤︎あッ❤︎ヤバッ❤︎んぐッ……❤︎」

 ハルミの上体が、徐々に前屈みに倒れ込む。

 反射的に離れそうになる手を、愛理が強く握り返す。

 (ハルミ!しっかりして!私に勝つんでしょ!?)

 (あっ……当たり前……ッ!!)

 愛理は無言のまま、握る手の強さでハルミを鼓舞し、ハルミもそれに応じて2度大きく頷くと、上体を元に戻した。

 「フーッ❤︎フーッ❤︎フーッ❤︎」

 ハルミは目を閉じて、鼻で大きく深呼吸をする。顔中の発汗を拭う事すら忘れて、意識を保つことに全神経を集中させる。

 「ふゥー……ッはぁ❤︎はぁ❤︎うゥッ❤︎」

 何とか持ち堪えたハルミは、愛理の顔を横目で見て、コクリと頷いた。

 (OK!大丈夫!)

 (よし……!)

 ハルミの意思を、愛理もやはり横目で見て小さく頷き返す。

 対決であるが、対決ではない。

 高度なセックス・プレイによって知らずのうちに両者の間に育まれた〝愛〟と〝友情〟が、さらなる快楽の高みを目指して〝共闘〟を選ばせたのだろう。

 だが、ピンクローターはそんな2人の心情などお構いなしに、性的絶頂オルガズムを誘発する機械振動をひたすらに両者の性器に浴びせ続けていた。



 『20秒経過ッ!!』

 フロアの観客は絶え間なく両者に声援を贈り続ける。
 だが、その声は2人の耳には届いていない。

 前後不覚の性感に思考はほとんど混沌に陥り、肉体の劣情はもはや爆発寸前まで張り詰めていた。

 《ヴィィィィィィィィッ!》

 「ふァァァァッ!?!?❤︎」

 「ひぎィィィッ!?!?❤︎」

 さらに追い討ちをかけるようにローターの強度が増され、限界極まる2人の性器を徹底的にいじめ抜く。

 「うァァァァッ!❤︎おォォォォッ!❤︎」

 堪らず愛理が天を仰いで叫んだ。

 (ヤバいッ❤︎クリ壊れるッ❤︎立ってられないッ❤︎)

 ガクンッ!

 愛理の両膝が崩れ、後方に倒れ込みそうになる。

 (愛理ッ!)

 尻餅をつきそうになる寸前で、ハルミが握り合った手で愛理の身体を引っ張り上げた。

 (ハルミッ❤︎もうッ❤︎もう無理ッ❤︎限界ッ❤︎イキそうッ❤︎)

 (愛理ッ❤︎私もッ❤︎私もだよッ❤︎出したいッ❤︎でも……あと少しッ❤︎あと少しだけッ❤︎あなたとこうしていたいのッ❤︎)

 (わッ、わかったッ❤︎あと少しッ❤︎これがッ❤︎最後の勝負よッ❤︎)

 2人の間に言葉はない。だが、目線を交わせば互いに相手の心中を理解できた。

 上質なセックスは、どんな言葉よりも饒舌じょうぜつに心理を語る最高のコミュニケーション──。

 死闘を経た2人だからこそ到達できた、愛と欲望の世界。

 その刹那的甘美の世界に、いよいよ終わりの時が近づいてきた。



 「ひィッ❤︎ひィィッ❤︎クリッ❤︎クリがッ❤︎ひァァァッ❤︎イキたいッ!❤︎無理ィィィッ!❤︎」

 愛理は髪を振り乱し、全身を震わせて快感を耐え抜く。

 ギリギリで抑えていた絶頂への願望も、遂に口から漏れてしまう。

 愛理の脳裏に浮かんだのは、ケイとの〝セックス漬けの一夜〟だった。

 肉体と精神をとことんまで追い詰められ、〝マゾ豚〟と人格を否定され、女として愛される事すらも認められずにオナニーを強いられたあの日……。

 大きな瞳に涙を一杯に溜めながら、愛理は叫び続ける。

 だが、その瞳には〝執念の炎〟が未だ消えてはいなかった。

 (あの屈辱……あの恐怖に比べたら……!)

 『30秒経過ッ!!』

 《ヴヴヴヴヴィィィィィン……!!》

 「おォォォォォォォォォォォォォッ!?!?❤︎❤︎」

 とどめとばかりに、最大威力のローター振動。

 愛理とハルミ、両者の叫びが共鳴し、2人同時に大きく上体を仰け反らせる。

 おぉぉ……!

 ステージ上の2人による〝卑猥すぎるシンクロ〟に、観客からは誰ともなく感嘆の声が上がった。

 「この2人凄すぎ……」

 「ヤバいよ……なんだろ、泣きそう……」

 観る者の心を揺さぶるセックス。肉体と魂、すべてを捧げる儀式にも似た女同士の性行為。

 その終焉をフロア内の全員が、いつしか祈りのような感情で見守っていた。



 「あッ❤︎あッ❤︎あッ❤︎クるッ❤︎」

 突如、ハルミが嬌声を上げる。

 叫び続ける愛理の横で、安定していたように思われたハルミだが、一度スイッチの入った射精の兆候は容易にはおさまらない。

 「やだッ❤︎まってッ❤︎私もッ❤︎イクッ❤︎イクからッ❤︎」

 だが、ハルミの声に触発されるように、続け様に愛理の肉体にもスイッチが入る。

 き止め続けた絶頂の波動が、理性の壁に亀裂を作り始めた。

 もう〝相手〟は関係ない。自己の性欲の爆発を、1秒でも理性で押さえ込む──!

 「あァ────ッ❤︎ダメぇ────ッ❤︎イクぅ────ッ❤︎チンポイクぅぅ────ッ❤︎❤︎❤︎」

 ハルミは僅かでも射精欲から意識を遠ざけようと、マットに激しく地団駄じだんだを踏む。

 いよいよ射精を宣言したハルミ。

 だが、愛理もすでに絶頂へのカウントダウンに突入していた。

 「おぉゥッ❤︎イグッ❤︎イグイグイグイグッ❤︎クリ死ぬッ❤︎下品なデカクリ見られながらッ❤︎オモチャに散々遊ばれてイグぅぅぅッ!!❤︎❤︎❤︎」

 卑猥な言葉を連呼しながら、愛理もまた全身を狂ったように前後左右に踊らせて絶頂の到来から逃げ惑う。
 
 2人は繋いだ手を離さぬよう、指を絡めてガッチリと繋ぎ直した。

 今や、互いに戦いの中で実力を認め合い、同じ感動を分かち合った友……。

 肉体を交えずとも彼女たちは今、いただきへと昇り詰めた。

 (愛理ッ❤︎イクよッ❤︎)

 (ハルミッ❤︎私もイクッ❤︎)

 「おォォォォォォォォォォッ❤︎クるッ❤︎濃いの出るッ❤︎出る出る出るッ❤︎❤︎…………イッッッ❤︎グッ❤︎❤︎❤︎」

 ビクンッ!

 ビュ───ッ!❤︎ビュルッ❤︎ブリュッ❤︎❤︎❤︎

 「うァァ出てるッ❤︎ハルミイッてるッ❤︎ガマンの特濃ザーメンッ❤︎イグッ❤︎臭いでイグッ❤︎ほォォォォォ❤︎イィグぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ❤︎…………んおォッ!?❤︎❤︎❤︎」

 ビクッ!

 プッシャァァァァァァァ……❤︎❤︎❤︎

 固く繋いだ手がスルリとほどけて、2人は同時に尻餅をついて後方へと倒れ込む。

 ドサァ……

 『しょッ……勝者……』

 恭子の声が震える。

 歓喜を帯びたその声は、高らかに勝者の名を叫んだ。

 『愛理ィッ!!!』

 ゴォォォォン……!ゴォォォォン……!

 「はッ❤︎はッ❤︎あ、愛理ちゃん……❤︎」

 「あ……❤︎ハァッ……❤︎ハッ、ハルミぃぃ……❤︎」

 (凄い……私たち……こんなに気持ちよくなれるなんて……)

 2人にとって、勝敗などはもはや瑣末さまつな事にも感じる共鳴の快楽。

 互いに頬を寄せ合い、健闘を讃え合うかのように、2人はねぎらいのキスを交わすと、やがてゆっくりと目を閉じ、再び指を絡め合った。



 パチパチ……パチパチパチ……

 観客席の後方から一人の女の拍手が聞こえる。

 壁際で一部始終を見届けたケイは、激闘を演じた2人の戦士を讃えていた。

 (愛理……あんたってホントに〝セックスの天才〟ね。こんなもの魅せられちゃ、認めざるを得ないよ)

 パチパチパチパチパチパチ……!!

 ケイの拍手を皮切りに、フロアは万雷の拍手に包まれてゆく。

 「愛理おめでと──ッ!!」

 「ハルミお疲れ様ッ!!」

 「2人ともありがとうッ!!」

 今宵女たちが観たものは、セックス・ショーの域を超えた、甘く、深く、神聖な「愛のドラマ」……。

 誰もが予想だにしなかった結末。〝有り得ない〟の連続。

 「伝説の女竿師」を相手に堂々と戦い抜き勝利を掴んだ愛理に、この場にいる誰もが〝新たな伝説の始まり〟を予感していた。



 鳴り止まぬ拍手と歓声の中央で、愛理がゆっくりと立ち上がる。

 「はぁッ❤︎はぁッ❤︎はぁッ❤︎」

 未だ意識のはっきりしない、夢見心地のようにぼんやりと紅潮した顔は、ライトの光に照らされて眩しそうに目を細める。

 (勝った……ハルミに……勝った……)

 「うっ……うぅン……」

 少し遅れて、ハルミも顔を起こして立ち上がろうとする。
 だが、下半身に力が入らず上手く体勢を変える事ができない。

 「ハルミ、ほらっ!」

 愛理がハルミに手を差し伸べる。

 ハルミはその手を握り返すと、愛理に肩を抱かれながらなんとか立ち上がった。

 「はぁッ……ありがとッ❤︎」

 試合前にばっちりと決めたメイクもヘアスタイルも、今や2人ともグシャグシャの有り様だ。

 だがそんな事は気にも止めず、互いの顔を見合って2人は微笑み合う。

 「愛理ちゃん、改めて言うね……ありがとう、すっごく楽しかった❤︎」

 「うんっ、私も……ハルミと戦えて最高に楽しかったわ❤︎ありがとっ❤︎」

 相手への感謝を述べると、どちらともなく固く抱き合い、健闘を讃え合う。

 交わった者同士にしか分からない、愛理とハルミだけの世界。

 2人の目には涙が溢れ、はにかみながら互いの頬を拭い合う。

 『今一度、両者に盛大な拍手を!!』

 ワァァァァァァァァァァァァ!!!!

 恭子の声が震えていたのは、興奮だけのせいではない。

 2人の女が魅せた奇跡の夜は、El Doradoエルドラードの歴史の1ページに確かに刻まれた──。



 かつてない熱気に包まれるフロアを、2階のVIP席から見下ろす影。

 ARISAは喜色満面に大きく頷くと、彼女の小柄な身体には大き過ぎる程の牛革のチェアに、倒れるようにして身体を預けた。

 「堪らない……こんなに興奮することってないわ……やっぱりが違う……愛理……あぁ……❤︎」

 何度も両手で自らの肩をさすりながら、心底ウットリとした表情で唇を噛み締めるARISA。

 今宵の戦いに大満足の絶対女王は、プレイの余韻をさかなにシャンパングラスを傾けていた。

 ガチャッ

 突如、入口のドアが開く。

 「……ノックくらいしたら?」

 ARISAは一瞥もせず祝杯を続けつつ、背後の人影に言葉を投げた。

 「ARISAちゃん、上機嫌でなによりだわ……♪」

 後ろには、いつもと変わらぬクシャっとした笑みの史織がいた。

 だが、普段の彼女の特徴的な鼻に掛かったような甘い声は幾分暗く、そして鋭さを持っていた。

 「史織、今日は随分盛り上がったわね。あなたの読み通り、やっぱりお客は愛理を求めていたわ❤︎新規会員もここ最近は増えてるし、新たなイベントも企画しないと……」

 「ARISAちゃん」

 ARISAの話をさえぎり、史織がARISAの眼前に立つ。

 「面倒だから単刀直入に聞くわ……愛理ちゃんに……?」

 あくまで笑みは絶やさず、だがその語気には静かに怒りを宿す。

 それは、すでに絶対女王に対する〝戦線布告〟の態度とも言えた。

10

 ARISAと史織は微笑んで対峙し、しばし無言のまま互いを見つめ合う。

 しかし、先程ステージ上で見た愛理とハルミの微笑み合いとはまるで意味が異なる、真剣で斬り合うような殺気を帯びた冷徹な微笑……。

 ARISAは鼻で息を吐き、小首を傾げながら答える。

 「何……って?私は何もしてないけど」

 「ウソよ」

 ついに史織の表情から笑顔が消えた。

 「今日の愛理ちゃん、先週とはまるで別人みたいだったわね?あーんな精液ザーメンまみれで泣き喚いて無様晒したマゾ豚が、ハルミを相手に一歩も引かない粘り勝ち!スゴーイ!」

 史織は身振り手振り大袈裟なジェスチャーを交えながら、わざとらしい大声で捲し立てる。

 それを見るARISAは呆れたように苦笑しながらも、史織の目から視線を逸らす事はない。

 「もう一度だけ聞くわ。この1週間〝ARISA女王様〟は〝マゾ豚愛理ちゃん〟に何をして差し上げたのかしら?……♪」

 史織はさらに一歩前へ歩み寄り、チェアに座るARISAの前に立ちはだかり、腰に手を当て仁王立ちに見下ろした。

 「史織、一度だけ言うわ」

 ARISAは右手の人差し指を立て、それを史織に見せながら返答する。

 「私は1週間前の試合後、このサークルの主催者として、愛理にEl Doradoエルドラードで戦う為の〝心構え〟をアドバイスしただけよ。それ以降は会ってもいないわ」

 「だったらこんな……!」

 「ただしッ」

 反論しようとする史織を声で制止し、ARISAは続ける。

 「史織も知っての通り、あの愛理という女は〝セックスの天才〟なのよ……抱かれるたびに、けがされる程に進化する〝真正の淫乱〟なの。そんな女がこの環境にいれば、1週間前とは当然違う顔を見せる……そうでしょ?」

 ARISAの言葉に史織は黙り、恨めしげな表情で睨みつける。

 「……このサークルの新人教育は私の領分よ。管理も、人事も、私の裁決で動いているの。それは愛理も同じこと……いくらARISAちゃんのお気に入りでも、特別扱いはしないわ」

 史織は語気を強めて絞り出すように主張するが、ARISAは執り成す様子もなく肩をすくめて苦笑する。

 「だーかーら、私はたった一度アドバイスしただけよ。教育なんてモンじゃないわ。何なら愛理に聞いてみれば?」

 「くッ!……あぁ、そう!」

 飄々ひょうひょうとしたARISAの態度に業を煮やし、史織はきびすを返してドアへと向かうが、ARISAは気にする素振りもなく、何事も無かったかのように再びグラスに口を付けて美酒に酔う。

 部屋を出る間際、史織は振り向くとARISAの背中に向けて話しかけた。

 「ARISAちゃんが何を考えているか、私には分かるの。それはきっと、愛理ちゃんに対する想いが私と〝おんなじ〟だから……♪」

 いつもの笑顔といつもの声色。

 だが、爪が食い込むほど強く握られた拳は、ARISAに対する史織の明確な〝反抗〟の意思表示だった。

 「だから、ARISAちゃんももっと私を信用してほしいな~って♪愛理ちゃんを、ちゃんと一人前の……」

 その時、ARISAが立ち上がり史織の方へ振り返る。

 「で?その最適解が、愛理をEl Doradoエルドラードへ参戦させることだったの?」

 「……ッ」

 射抜くような鋭利な眼光。腹にずしりと響く声。

 猛獣と対峙したような威圧に、思わず膝が震える。

 決別すら覚悟の上で乗り込んだ史織だったが、「絶対女王」と呼ばれる女の真の恐ろしさを最も間近で見てきたのもまた、史織であった。

 ARISAは、史織が無断で愛理をEl Doradoエルドラードへ参加させた事を、決して許している訳ではなかった。

 「ふっ、ふふっ……それは愛理ちゃん自身が望んだことよ?私は本人の意思を尊重してあげただけ。その決断が彼女に何をもたらすのか、その結果はじきに分かるわ……それじゃ、お疲れさま♪」

 ガチャ……

 史織はドアを開けると、ARISAから視線を外さず背中向きのままゆっくり部屋を後にした。

11

 「……やれやれ、ってカンジ。せっかくのイイ気分だったのにね」

 ARISAは溜め息をひとつ吐くと、振り向いてフロアを眼下に見る。
 いつまでも冷めやらない熱狂の輪の中心には、誇りに満ちた笑顔の愛理が立っている。

 「愛理、勝ち続けなさい。何としてでも……まで登ってきなさい」

 愛理が未だ知ることのない、女たちの思惑と策略。

 この戦いの先にあるものは君臨か、それとも堕落か……。

 その答えは、愛理自身が見つけ出す。
 
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