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第五話兄の覚醒

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 召喚された次の日から私達の訓練が始まりました。

私は魔術師なので、宮廷魔術師ミレーユさんに魔法の使い方を習うことになりました。ミレーユさんは、火・水・土のトリプルマジシャンだそうです。

「まずは簡単な魔法から。さっき説明した通りやってみせるから真似してみて?ーー火よ!」

そう云って人差し指を立てると、その先に日が現れました。

云われたとおりにやってみます。

「火よ!」

しかし何も起こりません。

「・・・?」

「ほのか。さっきも説明しただろう?魔法はイメージが大事なんだ」

ついうっかり何も考えずに魔法を叫んでいた。

(今度はしっかりイメージして・・・)

「火よ!」

すると、今度はイメージ通りに青白い炎が現れた。

「青い炎!?ほのか、これはいったい?」

「ガスコンロをイメージしたのですよ。魔力をガスに見立てて空気を入れる感じで・・・」

「ガスとはいったい・・・すごいなほのかは」

「私達の世界の便利アイテムなのですよ」

こうして私は毎日訓練をしていました。

そしてお兄ちゃんとはなかなか会えない日々が続きました。

そんなある日のこと。

ようやくクラスメイト全員で訓練が行われました。

王国騎士団の皆さんと一緒にダンジョンに潜ることになったのです。

エドガー団長、花山院くん、杉谷くん、さくらちゃん、私といった順に進んでいきます。

サポート職のみんなやお兄ちゃんは後衛です。

団長さんと花山院くんたちが先陣を切り、私が魔法で援護するという形です。

5階層を過ぎたあたりで訓練は終わりになりました。

そして、私たちが引き返そうとした時でした。

杉谷くんが何かを見つけたようでした。

「お、あんなとこに宝箱があるじゃんか」

杉谷くんがそう云いながら、部屋の隅に置かれた宝箱に走り出した。

「バカ!不用意に開けるな!」

団長がそう云いましたが手遅れでした。杉谷くんが宝箱を開きました。

その瞬間、後衛の人たちがいた地面が突然消えました。

「罠だ!みんな離れろ!」

なんと、お兄ちゃんが落下するところでした

「お兄ちゃん!!」

私は急いで飛び出しお兄ちゃんにしがみつきました。

「小鳥遊さん!!」

「ほのか!!」

花山院くんとさくらちゃんの叫び声を最後に私たちは落下していった。

かなりの高さを落ちていきます。

「お兄ちゃんは私が絶対絶対守るのです!」

そして地面が近づいてきました。

このままでは地面に激突してしまいます。

「上昇気流!!」

私は風魔法で勢いを殺してお兄ちゃんを抱いたままゆっくり着地しました。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

私が必死に叫ぶとようやく目を覚ましてくれました。

「良かったのです。痛いとこはありませんか?」

「うん、大丈夫みたい。ほのかは?」

「私も大丈夫なのです。なんとか風魔法で衝突は防げたのです」

「上に戻るのは・・・無理そうだね」

「はいなのです。他の出口を探すしかないのです」

「だね・・。っ!?ほのか危ない!」

お兄ちゃんが叫ぶと何かが飛んできた。

お兄ちゃんのおかげでギリギリかわすことができました。

「今のは電撃・・・?」

放たれた方を見ると、狼のような魔物が体にビリビリと電気を纏わせていました。

私は狼めがけて攻撃しました。

「ファイヤランス!」

すると狼が咆哮をあげました。

その咆哮によってなんと私の魔法がかき消されたのです。

「そんな・・・!」

今のは私の全力の魔法だったのに・・・。

「ほのか!どうやら僕たちの敵うレベルじゃないみたいだ。こいつは僕が惹きつけるから逃げるんだ!」

お兄ちゃんがそう云って走り出しました。

「お兄ちゃん、ダメ!!」

すると狼がお兄ちゃんめがけて攻撃してきました。

「ガルルッ!」

狼が放った電撃はお兄ちゃんを吹き飛ばしました、。

「ぐはっ!」

お兄ちゃんは壁に叩きつけられて血を吐いてしまいました。

「お兄ちゃん!!」

何これ・・・。何が起こっているの・・・?

なんでお兄ちゃんが血を吐いちゃってるの?

呆然としている私に狼が迫ってきます。

その時でした。

「おい、犬っころ!」

お兄ちゃんが狼に向かって叫びました。

すると、再び電撃がお兄ちゃんに向かいます。

それをお兄ちゃんはいとも簡単にかわしました。

「もうそんな攻撃は当たらねえよ」

よかった・・・お兄ちゃんが無事で・・・。

私は思わず涙を流しました。

「俺の大切な妹を泣かせたのはお前か?ほのかを傷つけるやつは誰であろうと殺す!」

あれが本当にお兄ちゃん?

今までとは口調も性格も変わっていました。

そしてお兄ちゃんが手を伸ばすと水の塊が飛んでいきます。

高圧の水はあっけなく狼を貫きました。

すると突然・・・。

「ぐあっ・・・・!」

お兄ちゃんが倒れて苦しみだしました。

「お兄ちゃん!!しっかりして!」

私は慌てて駆け寄ります。

「ほのかっ・・・あの水を・・・」

お兄ちゃんが指差す先には大きな水たまりがありました。

「待ってて、お兄ちゃん!」

私は急いで水を汲んできました。

「お兄ちゃん!持ってきました!飲んでください!」

しかし、意識がないのか苦しむだけで飲もうとしてくれません。

「お兄ちゃんは私が助けます!んっ」

私は水を口に含むとお兄ちゃんに口移しで飲ませました。

「ファーストキスがこんな形なのは残念なのです・・・もう1回!んっ」

するとようやく目を覚ましました。

「お兄ちゃん!よかった、目を覚した!」

「ほのか?俺、どのくらい気絶してた?」

「・・・俺?えと、5分位でしょうか」

「そうか、とにかくお前が無事でよかった」

すると、突然声が聞こえてきました。

『おめでとう、太一!魔力障害を乗り越えた太一はみごと私の力を使えるようになりましたー』

目の前には羽の生えた水色の服を着た可愛い女の子が宙に浮いていました。

「なんだお前?」

『なんだとは失礼ね!さっき名乗ったじゃないの。私は水の精霊ウンディーネよ。ディーネって呼んでね』

「精霊・・・だと?」

「ディーネちゃん・・・可愛い」

『でしょでしょ?妹ちゃんはよく分かってるじゃないの!そう、精霊よ。太一、あなたは精霊魔術師なの』

精霊魔術師?

初めて聞きました。

「精霊魔術師だって?」

『そうよ。今のはあなたは私と契約して私の力を使えるようになっているわ。その証拠にステータスプレートを見てみて?』

そう言われてお兄ちゃんはステータスプレートを確認しました。

名前 小鳥遊太一

職業 魔術師(精霊魔術師)

レベル25

体力5860

魔力21000

力9530

素早さ10350

スキル なし

と表示されてました。

私なんかとは比べ物にならない数値でした。

『あ、そうそう。さっき太一が飲んだ回復の水だけど、貴重だから持っていってね。水なら魔法でいくらでも収納できるから。ここの食料は魔物しかないから食べる時は絶対回復の水を飲むんだからね。じゃあ私は疲れたからちょっと寝るねー、おやすみー』

ディーネはそう告げて消えてしまいました。

「お兄ちゃん!とにかく無事でよかったのですよー。それにしても精霊魔術師なんてすごいのです」

「まぁ、ほのかを助けるのに必死だったからな。お前が無事で何よりだ」

お兄ちゃんはそう云いながら私の頭を撫でてきました。

「ふえぇ、お兄ちゃん?」

私の心臓はドキドキしっぱなしでした。

優しいお兄ちゃんは優しくてかっこいいお兄ちゃんになってしまいました。

そしてその後、魔物の肉を食べてパワーアップした私たちは出口を探すため先に進むことにしたのです。

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