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何気ない風景
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「こうやって一緒に歩くの久しぶりね」
しずくの横を並んで歩くしんを、ちらっと見る。中学の時も身長は高い方だったが、また伸びたのか、視線がさらに上げざる得ない。180㎝は超えているだろうか。
「そうだよな。部活に入っていると朝練があるし、放課後も時間合わないから、なかなかね」
中学まではずっと一緒に登下校していたから、そのギャップに寂しさが募る。しんは、1年生にして、野球部では、エースで、周りから大きな期待をかけられている。それに応えようと必死に努力しているわけだから、我慢しないといけないのだろうけど……。
「でも、昨日のラインはうれしかったよ。一緒に朝行こうって言ってくれて…」
あまりマメとは言えないしんから、明日練習がないから一緒に行こう、って連絡がきたのだ。今までなかったことだから、ついテンションがあがって、ベッドの上で愛用の抱き枕をぎゅっと抱きしめ、ゴロゴロ。寝起きはいいのだが、あまりに早すぎの4時に目が覚めしまい、今に至る。
「おっ、今日はやけに素直じゃん。雨降るんじゃないか?」
手を上にかざし、青空を仰ぎ見るしん。冗談じゃないわとばかりに、「いつもだし」と頬を膨らませて、ぷんぷんと怒りのポーズをとる。そんなしずくを、眩しそうに見つめるしんに胸をついドキッとさせてしまう。
「あはは。冗談よ。ぼくもしずくと一緒でうれしいよ」
そういうどきっとするようなことを平気で言えるところが、しずくにとって、しんの唯一の欠点だと思っている。成績は優秀で、本気を出せば東大も狙えると教師が言っていたのを聞いたことがある。もちろん、学年で断トツのトップである。だが、しんの良さはそんなところではない。人づきあいがよく、とにかく優しいのだ。人を大事にするというか、人が良すぎるというのか。そのため、男女問わず慕われ、頼りにされている。女性から好意を寄せられのも昔からだった。そのたびにヤキモキしたが、これまでにしんが、誰かと付き合ったということはない。それは、しんが、わたしに好意を持っているから、と思うのはすこし自惚れだろうか。最近は、しんが、告白されても平然と受け流せるようになってきている。
だが、いざ自分が、勘違いしそうな言葉をかけられると、動揺で心が穏やかではいられないのだが。ねぇ、それは、わたしが好きってこと?心の中でそう呟きながら、真っ赤になった顔を見せないように、顔を背けた。
「夏休み入ってすぐの日曜日。花火大会があるだろう?今年も一緒にいかないか?」
「いいわよ。去年は中止になったからいけなかったけど、今年は去年の分まで楽しみたいわね」
「一昨年は浴衣だったけど、今年も浴衣?」
「そのつもりだけど。どうして?」
「しずくが浴衣を着てきたとき、すごく可愛かったんだ。あの姿を見て、次はぼくも一緒に浴衣を着て、並んで歩けたらなって、そう思ってね。ちょっと恥ずかしいけど…」
いやいや、それはわたしのセリフ出し。でも、しんが言うように、揃って浴衣で歩けたら、それはそれで、幸せだろうなとは思う。
「でも、今からでは間に合わないんじゃない?」
しんは、歩みを止めると、眩しいばかりの爽やかな笑みを見せる。こんな時は、正直長年ずっとそばにいたわたしでも、直視できない。心臓が嘘みたいに動悸し、しんにまで聞こえるのではないかと思ってしまう。
「もう買ってあるんだよ。花火大会が楽しみでさ。このところ、ずっと野球と勉強の生活だったからね。楽しめるときには、楽しまなきゃ」
「そっか。しんも浴衣姿か…」
身長が高く、スタイルの良いしんは、きっと浴衣が似合うだろう。障害があるとすれば、しんを本当の兄のように慕っている、弟の結城だ。一昨年までは、一緒に花火大会に行っていたが、今年は、結城も友達と行くと言っていたのを思い出した。とすると、今年は、2人でゆっくり過ごすことができる。この展開……最高じゃない、と思いっきりテンションが上がった。
つい自分の頬がだらしなく緩みそうになる。
「よぉ。今日は2人仲良く登校か?朝から熱いね」
後ろを振り向くと、高校から家の近くに引っ越してきた御門義人が、ニヤニヤしている。しんは、顔を黙って顔を赤くし、わたしは「そんなんじゃないわ」って、強がってみせた。
「へぇーー。で、2人は付き合ってるの?」
真顔で聞いてくる義人に、わたしとしんは、顔を合わせた。付き合っているかというと、直接、しんから付き合おうと言われたことはない。好意を感じることはあるし、一緒にいるのが当たり前といった感じなので、特別な存在ではあるが、だからと言って彼女ということではない。今のところは…。
「付き合ってはいないわよ」
そう答えるしかなかっった。だが、付き合うならしんしかいないし、いずれ恋人同士になるだろうとは思っている。しずくとしては、できたら、それが早いに越したことはない。しんは、わたしの言葉を聞いて、何かをじっと考えているようだった。
「付き合ってないんだ。なら、オレが立候補してもいいよな」
義人は、ちらっとしんを向いた。オレが手を出してもいいよな、って言っているようだった。それに、むかっと腹が立った。
「あのね、義人。あちこちいろんな女に手を出してるでしょう?あなた評判悪いわよ。女をとっかえひっかえして、飽きたら捨てるって」
「あーー、それ過去の話な。今は心を入れ替えて、付き合ったら一途だよ」
「だが、しずくはやらないぜ。ぼくの大事な幼馴染だからな」
ムッとして表情で、明らかに怒っている。「大事な幼馴染」って。そんなこと今まで口にしたことないのに、すぐ目の前で言われると、どんな表情したらいいか分からなくなる。先頭に立って無言で前を進むことにした。
「でも、付き合ってないんだろう?」
「付き合っていないが、誰にもやらん」
「訳分かんないな」
「分からなくてもいい。とにかくしずくはやらない」
「まぁ、どうするかはしずくが決めることだけどな」
義人としんが、後ろで熱くやり合っているのが聞こえる。義人は問題外として、滅多に怒りを見せたことのないしんが、わたしのことで、真剣になっているが、無性にうれしかった。
しずくの横を並んで歩くしんを、ちらっと見る。中学の時も身長は高い方だったが、また伸びたのか、視線がさらに上げざる得ない。180㎝は超えているだろうか。
「そうだよな。部活に入っていると朝練があるし、放課後も時間合わないから、なかなかね」
中学まではずっと一緒に登下校していたから、そのギャップに寂しさが募る。しんは、1年生にして、野球部では、エースで、周りから大きな期待をかけられている。それに応えようと必死に努力しているわけだから、我慢しないといけないのだろうけど……。
「でも、昨日のラインはうれしかったよ。一緒に朝行こうって言ってくれて…」
あまりマメとは言えないしんから、明日練習がないから一緒に行こう、って連絡がきたのだ。今までなかったことだから、ついテンションがあがって、ベッドの上で愛用の抱き枕をぎゅっと抱きしめ、ゴロゴロ。寝起きはいいのだが、あまりに早すぎの4時に目が覚めしまい、今に至る。
「おっ、今日はやけに素直じゃん。雨降るんじゃないか?」
手を上にかざし、青空を仰ぎ見るしん。冗談じゃないわとばかりに、「いつもだし」と頬を膨らませて、ぷんぷんと怒りのポーズをとる。そんなしずくを、眩しそうに見つめるしんに胸をついドキッとさせてしまう。
「あはは。冗談よ。ぼくもしずくと一緒でうれしいよ」
そういうどきっとするようなことを平気で言えるところが、しずくにとって、しんの唯一の欠点だと思っている。成績は優秀で、本気を出せば東大も狙えると教師が言っていたのを聞いたことがある。もちろん、学年で断トツのトップである。だが、しんの良さはそんなところではない。人づきあいがよく、とにかく優しいのだ。人を大事にするというか、人が良すぎるというのか。そのため、男女問わず慕われ、頼りにされている。女性から好意を寄せられのも昔からだった。そのたびにヤキモキしたが、これまでにしんが、誰かと付き合ったということはない。それは、しんが、わたしに好意を持っているから、と思うのはすこし自惚れだろうか。最近は、しんが、告白されても平然と受け流せるようになってきている。
だが、いざ自分が、勘違いしそうな言葉をかけられると、動揺で心が穏やかではいられないのだが。ねぇ、それは、わたしが好きってこと?心の中でそう呟きながら、真っ赤になった顔を見せないように、顔を背けた。
「夏休み入ってすぐの日曜日。花火大会があるだろう?今年も一緒にいかないか?」
「いいわよ。去年は中止になったからいけなかったけど、今年は去年の分まで楽しみたいわね」
「一昨年は浴衣だったけど、今年も浴衣?」
「そのつもりだけど。どうして?」
「しずくが浴衣を着てきたとき、すごく可愛かったんだ。あの姿を見て、次はぼくも一緒に浴衣を着て、並んで歩けたらなって、そう思ってね。ちょっと恥ずかしいけど…」
いやいや、それはわたしのセリフ出し。でも、しんが言うように、揃って浴衣で歩けたら、それはそれで、幸せだろうなとは思う。
「でも、今からでは間に合わないんじゃない?」
しんは、歩みを止めると、眩しいばかりの爽やかな笑みを見せる。こんな時は、正直長年ずっとそばにいたわたしでも、直視できない。心臓が嘘みたいに動悸し、しんにまで聞こえるのではないかと思ってしまう。
「もう買ってあるんだよ。花火大会が楽しみでさ。このところ、ずっと野球と勉強の生活だったからね。楽しめるときには、楽しまなきゃ」
「そっか。しんも浴衣姿か…」
身長が高く、スタイルの良いしんは、きっと浴衣が似合うだろう。障害があるとすれば、しんを本当の兄のように慕っている、弟の結城だ。一昨年までは、一緒に花火大会に行っていたが、今年は、結城も友達と行くと言っていたのを思い出した。とすると、今年は、2人でゆっくり過ごすことができる。この展開……最高じゃない、と思いっきりテンションが上がった。
つい自分の頬がだらしなく緩みそうになる。
「よぉ。今日は2人仲良く登校か?朝から熱いね」
後ろを振り向くと、高校から家の近くに引っ越してきた御門義人が、ニヤニヤしている。しんは、顔を黙って顔を赤くし、わたしは「そんなんじゃないわ」って、強がってみせた。
「へぇーー。で、2人は付き合ってるの?」
真顔で聞いてくる義人に、わたしとしんは、顔を合わせた。付き合っているかというと、直接、しんから付き合おうと言われたことはない。好意を感じることはあるし、一緒にいるのが当たり前といった感じなので、特別な存在ではあるが、だからと言って彼女ということではない。今のところは…。
「付き合ってはいないわよ」
そう答えるしかなかっった。だが、付き合うならしんしかいないし、いずれ恋人同士になるだろうとは思っている。しずくとしては、できたら、それが早いに越したことはない。しんは、わたしの言葉を聞いて、何かをじっと考えているようだった。
「付き合ってないんだ。なら、オレが立候補してもいいよな」
義人は、ちらっとしんを向いた。オレが手を出してもいいよな、って言っているようだった。それに、むかっと腹が立った。
「あのね、義人。あちこちいろんな女に手を出してるでしょう?あなた評判悪いわよ。女をとっかえひっかえして、飽きたら捨てるって」
「あーー、それ過去の話な。今は心を入れ替えて、付き合ったら一途だよ」
「だが、しずくはやらないぜ。ぼくの大事な幼馴染だからな」
ムッとして表情で、明らかに怒っている。「大事な幼馴染」って。そんなこと今まで口にしたことないのに、すぐ目の前で言われると、どんな表情したらいいか分からなくなる。先頭に立って無言で前を進むことにした。
「でも、付き合ってないんだろう?」
「付き合っていないが、誰にもやらん」
「訳分かんないな」
「分からなくてもいい。とにかくしずくはやらない」
「まぁ、どうするかはしずくが決めることだけどな」
義人としんが、後ろで熱くやり合っているのが聞こえる。義人は問題外として、滅多に怒りを見せたことのないしんが、わたしのことで、真剣になっているが、無性にうれしかった。
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