時の女神~魔導天使外伝~

坂崎文明

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魔法都市ルナ

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マジャール・フランとの遭遇により、お先真っ暗になった一行であったが、とりあえず、白い街道を馬で駆けながら魔法都市ルナへの道を急いでいた。   

「完敗だわ、さすが魔導騎士団最強の男ね」

 フェアリー・フェリスはあまり気落ちしてなかったが、サニアの反応は辛辣しんらつだった。

「カノン、こいつ、全く反省してないよ」

「すまん、俺も連続攻撃忘れてた」

 カノンも自分の非を詫びた。

「カノンはいいのよ。こいつ、もう役に立たないからここに置いていこうよ」

「それはなあ、さすがに……」

 適当に誤魔化すカノンだったが、深刻な問題なのは確かだった。

「そういえば、マジャールは『蛇神祭』がどうとか言ってたよな?」

「思いっきり罠の香りがするのは私だけじゃないよね」

 サニアはカノンの側にいると上機嫌だった。
 声が弾んでいる。

 ちょっと話を逸らしたカノンの後ろ姿を一瞥いちべつして、フェアリーはひとり思案に沈んでいた。
 マジャール・フランの時間魔法は特定の空間に結界を張り、その範囲に侵入した敵に対して作用するものらしい。

 視界がモノクロに変化するという特徴的な現象もあるし、発動条件は大体、掴めた。
 問題はフェアリーの【アルカナ・ストライク】も相殺されることで、そのあたりは何か対策を立てていかなければいけない。

 時間を加速する【シルバー・アクセル】も相殺されるというのは、マジャールの時間魔法が”時間遅延”である可能性が高い。しかも、フェアリーの予想を超える能力を発揮したし、フェアリーの技との相性は最悪である。

 とはいえ、ぐじぐじ考えても仕方ないので、何とかなるだろうと楽観的に考えることにした。

 マジャール・フランの言っていた百年に一度の『蛇神祭』とリナ・フランの戦巫女の洗礼。
 二つの事象がフェアリーの頭の中でぐるぐると巡るのだが、いいアイデアは浮かばないし、今の情報だけではどうも判断しずらかった。

 本来、当たって砕けろ派のフェアリーとしては、難しいことを考えるのは苦手であり、そこはカノンにでも任せおくとする。

「カノン、ルナに着いたら、リナ・フランに会いに行ってみましょうか」

 フェアリーの言葉に不快そうな顔のサニアが振り返り、じっとにらみつけた。

「そうだな。それぐらいしか手ががりはないしな。『蛇神祭』の謎が解けるかも知れない」

カノンも頷く。
淡い期待であったが、それに賭けるしか無さそうだった。



 フェアリーたちはさらに三日間をかけて、ムーア王国最西端の魔法都市ルナに到着した。

 商都パルスでのマジャール・フランとの戦闘で少し時間を取られた三人であったが、途中の宿場町で替え馬をして乗り潰しながら、一週間の予定より一日早く着いていた。
 魔法都市ルナは高い壁に囲まれた城塞都市になっていて、フェアリーが城門の衛兵に通行証をかざすと、すんなり中に入れた。

目指すはルナの戦巫女の本陣があるルナの北部にあるオルレインの丘である。

 南国ムーア王国の北部は中原の大国レムリア聖国との間にダイナー山脈が東西に走っており天然の要害となっていた。
 事実上、魔法都市ルナ北部のオルレインの丘のみが、ムーア王国への侵入路となっていて、この小高い丘が数々の歴史上の激戦の舞台となっていた。

 ムーア王国のルナの戦巫女の本陣はそこに位置していたが、ムーアの歴史上、この本陣を突破できた敵国の部隊は皆無で、ルナの戦巫女の不敗伝説の源となっていた。

「ここから地下通路に入るから、各自、明かりをつけてついていてきてね」

 城門をくぐると円形の広場に出たが、そこに濃紺の魔法陣が描かれていて、フェアリーの呪文の詠唱によって地下への階段が現れた。

 フェアリーは左手をかざして中空に淡い光を放つ光球を出現させた。
 サニアは赤い鬼火、カノンは青白い光で地下への階段を照らした。

 三人が階段を下りて地下通路を入った時、音もなく階段の入口は閉じてしまい、外界の光も消滅した。
 しばらく、といっても10カル(約十分)ぐらい通路を進むとすぐに出口への階段が見えた。
 光の方に進んでいって、地上に出るとそこはまた、広場のようになっていて魔法陣が描かれていた。
 周囲は円筒形の壁に囲まれていて、天井は半球状になっていて、床と同じ魔法陣が見えた。

 フェアリーが再び、呪文の詠唱すると、正面に小さな扉が口を開けた。
 扉を出ると白い回廊が続いていた。

 三人は回廊をしばらく歩いていたが、大きく右に回り込むようなルートを辿った先に扉が現れた。
 扉を開けると階段が続いていた。
 階段を上った先には扉があって、そこには広大な空間が広がっていた。

 半球形のドームのような壁と天井は透明になっていて、外には草原が広がっており全てを見渡せた。

「おお! 広いわね。ウィーゼ草原ってやつね。向こうはレムリア聖国の領地か。地下迷宮なんか通って来たから気分が晴れるわ」

 サニアの第一声である。

「フェアリー! おかえりー」

 声の主は女性であり、ドームの片隅にぽつんと作られたカフェスペースで座っている三人の騎士のひとりだった。フェアリーと同じ白銀の甲冑をまとっていた。
 彼女こそ、魔法都市ルナの戦巫女の長であるフォーリア・オーディン伯爵令嬢であった。
 美しい流れるような金髪に、涼やかな碧眼が細められている。

「フォーリア! ただいまー。あれ、メイスナー先生に、コーシ・ムーンサイトまで!? げげ!」

 ムーア王国正規軍指南役メイスナー・ローゼンクロイツ、今年度のムーア王国騎士大会において優勝し、フェアリーの宿敵になった聖騎士のコーシ・ムーンサイトもいた。 
 メイスナー・ローゼンクロイツはフェアリー、カノン、コーシ・ムーンサイトの共通の剣の師匠であり、剣聖でもあった。

「フェアリー、この前の騎士大会は惜しかったな」

 メイスナー・ローゼンクロイツは薄青色の瞳を悪戯っ子のように細めて労いの言葉をかけた。
 黒髪に黒いローブを身にまとい、魔導士のような出で立ちで椅子にゆったりと腰かけていた。
 自分の教え子の同門対決となったムーア王国騎士大会の決勝戦のことを言ってるらしかった。
 私の記憶からは何故か抹消されてるけど。

「ええ、そちらの、コーシ・ムーンサイトさんが優勝者ですし、私は惜しくも優勝でございますよ」

 少しふて腐れ気味に、消えたはずの記憶を呼び戻してみた。

「ルナの戦巫女の十二連覇を阻止されて、おまえの【アルカナ・ストライク】もかわされたと聞いたぞ。ムーアの聖騎士団の士気が十倍に上がってるらしいぞ(笑)まあ、気落ちするな、勝利より敗北から学ぶことは多いからな」

 何という意地悪な師匠なんだろう。
 ここぞとばかり、サニアが追い打ちをかけた。

「先程もマジャール・フランに惨敗でした。いや、これからフェアリーは強くなりますね!」

 いちいち気に障る女である。
 赤毛の魔導士は軽口を叩きながらも、剣聖であり、魔導も究めたムーア王国魔導騎士団の設立者でもあるメイスナー・ローゼンクロイツに両指を組み合わせた「魔導士の礼」をとった。

「これはお久しぶりです。サニア殿。魔導士ギルドのル・ロイ殿は息災ですか?」

 メイスナー・ローゼンクロイツも軽く会釈を返した。

「ル・ロイは壮建にしております。また、一度、魔導士ギルド【クルド】の星辰せいしんの塔までお越しください」

 サニアはいつになく丁寧に接していた。

「了解しました。また、折を見て参上します」

 メイスナー先生もサニアに対してというより、その所属組織である魔導士ギルド【クルド】とその長であるル・ロイに対して敬意を払ってるという感じである。

「では、カノンさんもサニアさんもお疲れと思いますし、こちらでお茶でもいかかがですか?」

 フォーリアは三人をカフェスペースに案内すると、エネルハーブが配合されている甘いお茶をふるまった。
 私の席は何故か宿敵のコーシ・ムーンサイトの隣だった。運が悪い。
 コーシ・ムーンサイトは黒髪と黒い瞳、白銀の聖騎士の甲冑はフェアリーとお揃いである。
 「ルナの戦巫女」とか「白い魔女」は通称で、正式名称はムーア王国第零番聖騎士団であり、コーシ・ムーンサイトは新設された第十三番聖騎士団の聖騎士団長として抜擢されたばかりで、それは仕方ないことだった。
 でも、嫌な感じだ。

 実は魔導騎士団所属のカノンも第十三番騎士団に編入されたようで、魔導士、ムーアの魔導技術者である『聖導士』をも含む特殊部隊的編成になってるらしい。

「今日は先ほども話が出たマジャール・フラン対策の話をしてたんだが、『蛇神祭』の手がかりがリナ・フランからもたらされた」

 さすがにメイスナ―先生、素早い対応です。
 何でも知ってるメイスナ―先生である。

「それによると、マジャール・フランの時間停止能力の源泉が異世界から召喚される『蛇神』らしく、それを討伐することにより、能力がその血脈に付与されるらしい。詳細はリナ・フランにも分からないそうだ。フラン家の当主を継いだマジャール・フランにはその内容に関しての口伝が伝えられてる可能性が高い。その能力は100年ごとに更新が必要で『蛇神祭』によって、当主による『蛇神』討伐が必要になるようだ。その『蛇神祭』が三日後に迫ってる」

 メイスナ―先生はそこでエネルハーブティーを一口飲み、一息ついた。
 一同からもため息がもれた。
 隣のコーシ・ムーンサイトは瞑目して何か考え事を―――してるように見えて寝てるんじゃない?

「そこで、この魔法都市ルナの多重封印結界ザクルィトエが利用される恐れがあり、フォーリア聖騎士団長と相談してたところだ」 

 魔法都市ルナの多重封印結界ザクルィトエ―――そもそも、魔法都市ルナは、このパノティア大陸の大地のエネルギーの結節点である龍脈穴上に位置し、そのエネルギーを多重封印結界ザクルィトエで捉えることで膨大なエネルギーを得て都市を駆動している。
 そのあたりはムーアの魔導技術者である『聖導士』にでも聞いてみないと原理は分からない。
 かつて研修で行った魔導騎士団の講義によるとそういうことだったように思う。
 正直、講義は半分寝てたので曖昧な知識しかない。 

「メイスナ―先生、マジャール・フランはどういう男なんですか?」

 ようやく、目を覚ましたらしいコーシ・ムーンサイトが素朴な疑問を口にした。
 黒い瞳に好奇の色が浮かんでる。

「義に篤く、妹想いの優しい男だった……」

 メイスナー先生の声に心なしか悲哀が含まれていた。
 マジャール・フランは次期魔導騎士団長として将来を嘱望されていたし、メイスナー先生にとっても愛弟子のひとりだったのだ。

「そうですか。誰かが止めてやらないといけないですね。それと、この件には何か裏がありそうですね」

 コーシ・ムーンサイトは答えを探るような視線をメイスナー先生に向けた。

「私にもわからないことはあるのだよ、コーシ」

 メイスナー・ローゼンクロイツは無念そうに薄青色の瞳を伏せた。

 その時、フォーリア聖騎士団長の側に白銀の甲冑姿の伝令が現れて何かを耳打ちした。
 フォーリアの顔が心なしか青ざめていた。

「リナ・フランがさらわれました! 魔導士部隊に結界を張り巡らせて警備を厳重にしていたけど、時間停止を喰らったみたいです」

 フォーリアは口惜しげに唇を噛んだ。

「予想されたことだ。では、マジャールを追うぞ。リナ・フランには私の使い魔を張り付けてある」

 さすが、メイスナー先生である。
 用意周到、深謀遠慮だ。

「蛇神討伐戦を想定して、第一級装備『熾天使セラフ』を各部隊に指示。魔導士、聖導士部隊も編成に加えて。逃走ルートは魔法都市ルナの地下迷宮だ」

「了解です。各部隊に指示伝達して出動します」

 フォーリアはメイスナー先生の指示の下、約千人の部隊を編成した。
 魔法都市ルナの巨大な地下迷宮といえども、それ以上の数での部隊運用は難しいと思われた。
 本来なら百人ぐらいの小回りの利く人数が望ましいが、地下迷宮を掌握している「邪神級」の敵を想定すればそれぐらいの戦力は必要と思われた。 

「役者と舞台は揃ったわね。最初から私、どうも嫌な予感がして仕方ないのよ、カノン」

 フェアリーは珍しく不安を口にした。

「いや、あんたの予感は満更ではないよ。マジャールに誘導されてる気がするよ」

 何故かコーシ・ムーンサイトがつぶやきに答えた。
 嫌いな男だが、今回だけは奴の読みは正しいとアルマがフェアリーに囁きかけていた。






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