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ゾンビマスター

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 地獄の扉が開いたように、地面から光の柱のようなものが持ち上がってくる。 
 人狗じんくと呼べばいいのか、黒毛、赤毛、銀色など様々な体毛をもつ獣人が次々と立ち上がっていく。
 おそらく、元は死人であったものがゾンビとして蘇ってくる。
 その数は百を上回るだろう。

(安堂君、波奈、何とか生き延びるのよ)

 神沢優は衛星軌道上の妖星≪クルド≫から放たれる高密度レーザー砲<天照アマテラス>が、何故、かわされたのか考えていた。

(お姉さま、波奈、役立たずでごめんなさい)

 月読波奈は涙声で答えたが、魔女ランダの方が上手うわてだったとしか言えない。
 波奈の時空間能力を無効化する力を持ってるとしか思えない。
 それが何なのか、今の所、全く見当がつかなかった。
 魔女ランダはゾンビマスターと呼ばれていて、地獄ゲヘナから死者を蘇らせることができる。
 それと何か関係があるのかもしれなかった。 

(<月読ツクヨミ>を使いますか?)

(あまり使いたくないわ)

(奴には通用しない?)

(たぶん)

(おそらく、時空間魔法の使い手だから)

(物理攻撃の方が有効よ)

(波奈、行きます!)

 月読波奈が特殊合金製のビームトンファーを構える。
 
(え?) 

 月読真奈が驚く。
 
(俺が援護する!)
 
 安堂光雄も月読波奈の背後を護るように動く。
 <黒鋼クロガネ>は腰から日本刀を抜く。
 <黒羽刀くろばとう>、少し湾曲した短い刀剣である。
 それで人狗じんくたちを次々と斬り捨てるように屠っていく。
 凄まじい切り返しに重点をおいた湾刀である。
 一方、月読波奈のビームトンファーも高いレーザー音を放ちながら人狗じんくを両断していく。
 ふたりはひとつの回転する刃のように獣人たちの屍を量産していった。
 そして、波奈のビームトンファーは早くも魔女ランダに迫りつつあった。

「あらあら、意外とやるわね」

 赤い瞳の魔女ランダはセーラー服姿で、ふわっと高層ビルから飛び降りた。
 もちろん、地面に激突することはなく直前で浮遊する。

「では、私もちょっと本気出しちゃおうかな」

 可愛らしい表情で両手でハート形をつくる。

「どきどき」

 波奈は一気に空間転移して、魔女ランダの懐に飛び込んだ。
 起死回生のビームトンファーが魔女ランダの華奢な腰を両断した。

(やったか?)
 
 波奈は手ごたえを感じていた。
 油断なく残心を解かずに振り返る。
 魔女ランダの姿は忽然と消えていた。

「なかなかだったけど、残念でした」

 魔女ランダは高層ビルの上にちょこんと座って微笑んでいた。

(時空間魔法の使い手…)

 その意味を噛み締めるように波奈は魔女ランダを見上げた。
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