魔族殺しの道具だった聖女は、溺愛してくれる魔王と一緒に世界征服いたします!

神野咲音

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第2話 晩餐会の夜

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 人間と魔族との戦いは、数百年に渡って続いてきた。歴史書には「いつしか現れた魔族たちが、人間の生活を脅かすようになった」とある。

 自在に魔法を操る魔族は、人間にとって脅威そのものだった。

 現在魔族たちは、大陸の南端に位置する半島に自分たちの国を作り、ほかの国々とは停戦状態にある。

 パンデリオ王国は魔族の国と隣接する唯一の国だ。魔族の侵攻を食い止める英雄の国と言えば聞こえは良いが、要するに盾だ。ほかの国から援助を受ける代わりに、一番危険な役目を負わされている。

 そんな国に生まれた聖女の存在は、それはそれはありがたいものだっただろう。世論は一気に魔族との全面戦争へと傾いた。

 聖女がいれば魔族になど負けない。魔王など討ち滅ぼすことができる。そうして各国からせっつかれたお父様は、魔王討伐に乗り出すことに決めた。





 魔王討伐の旅、出発前夜。

 私の目の前には、贅を尽くした料理の数々が所狭しと並んでいる。鳥に牛に豚に羊、季節の野菜、それから海の幸。庶民に親しまれている野菜からこの国では取れない珍味まで、あらゆる食材がふんだんに使われている。

 すぐ傍には給仕を務めている専属の騎士がいて、静かな手つきで私のグラスにワインを注いでいた。

 少し距離を置いた隣の席には、数々の猛者を下して勇者に選ばれた男、ルシオンが座っている。ちらちらと投げられる視線が鬱陶しいわ。

 平民の中ではそこそこ珍しい、金髪碧眼。メイドたちが甘いマスクがどうのと盛り上がっていたけれど、やっぱりリダールとは比べるべくもない。あの人の方が、断然美しいわ。メイドたちだって、リダールを前にすればそう思うはずよ。

 そんな本音はおくびにも出さず、私は柔らかく微笑んだ。


「楽しんでいらっしゃいますか、ルシオン様」

「は、はい。こんな宴会を開いていただけるなんて、思ってもみませんでした」


 無言のまま控えている私の専属騎士が、人を刺し殺せそうな目で勇者を見ている。カリオ・トゥーリア、お母様の兄の息子、つまり私の従兄にあたる男よ。私と同じ銀色の髪を短く刈り込み、いかにも真面目そうな雰囲気で、やっぱりメイドたちに人気がある。融通が利かなくて、私としては少し苦手なのだけれど。

 今だって、王女である私に対して馴れ馴れしいルシオンに、ものすごい殺気を向けてるもの。もうちょっと隠しなさい。

 名もない辺境の村から出てきた青年が、王族にも通じるマナーなんて、身に着けている訳がない。それは仕方がないわ。この晩餐会だって、ルシオンが気を遣わなくてもいいようにと、庶民がやるように料理が大皿に盛りつけてある。主催のお父様は、テーブルにすべての料理が並んでいる光景が面白いみたい。さっきからずうっと、気持ち悪いくらいに笑顔だわ。

 軽く咳払いをすると、カリオがはっとして鶏の蒸し焼きを切り分け、皿をこちらに差し出した。

 音を立てないようにナイフとフォークを操り、お淑やかな仕草を意識しながら口に運ぶ。隣では勇者が手づかみで貪っているから、どれだけ私が行儀良くしたところで、意味がない気がするのだけれど。

 王女らしく淑やかに、聖女らしく清らかに。そう意識して取り繕うのはもう慣れたものよ。

 上機嫌なお父様が、ルシオンに料理を勧めながら言った。


「どうだ? 村では食べられなかったものばかりだろう」

「はい! こんなにたくさんの肉が食べられるなんて、夢のようです!」

「はははっ。よく食べて精を付けることだ。君は魔王を倒す英雄になるのだからな!」

「もちろんです!」


 お父様の機嫌がいいのは、この晩餐会が楽しいからという理由だけではない。明日になれば、私たちは魔王討伐の旅に出る。長年続く人間と魔族の争いが、これで終わると思っているのよ。そして、自分こそがその争いを終わらせた王として、崇められるのだと。


「魔族どもを根絶やしにせねばならん! セレステアも、よく奮うように。お前の力が頼りなのだからな!」

「……はい、お父様」


 私はそんなこと、したくないのに。

 食べかけの鶏肉を皿に残したまま、私はカトラリーを置いた。


「セレステア、殿下? どうしましたか?」


 口の周りを肉汁まみれにしたまま、ルシオンが問いかけてくる。

「ふふふ、ルシオン様の見事な食べっぷりを見ていましたら、わたくしの胸が一杯になってしまいましたわ。どうぞ、ルシオン様は遠慮なく食べてくださいな」


 にこにこと微笑みながらルシオンを見つめると、頬を赤くした勇者は力強く拳を握った。


「ありがとうございます! 陛下や殿下の期待に応え、この手で魔族を殺し尽くして見せます!」


 別に期待してないわ。なんて言えるはずもないから、私はただにこにこと笑っていた。
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