お前らに絶対 Aliceの血は喰わせねぇ

楪 伊緒

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Two phrase.*・゚ .゚・*.

2nd

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 翌朝。
 コンコンと扉が鳴った。
 その音に目を覚ますと、大きく伸びをして体を起こす。
 見上げると、天蓋の美しいレースが重なっていた。
 そうだ、アタシ。お婆ちゃんの家に来たんだった。
 枕元にあるスマホの時計を見ると、もう9時を指している。
 まだぼんやりとする頭を抱えて起き上がると、扉に向かって歩き出した。
 夏なのにひんやりと冷えているドアノブに手をかける。
 ーガチャリ
 「あ・・・・・・、お婆ちゃん」
 そこにはシンプルだが、とても品を感じる無地のドレスを着たお婆ちゃんが立っていた。
 「おはよう、煽姫。よく寝れた?」
 優しい笑顔にこくんと頷く。
 「よかったわ。さて、じゃあ今日から女を磨いて行きましょうね」
 そう言うと、お婆ちゃんはアタシの腕を引っ張り、歩き出した。
 何処に行くのだろうと辺りをキョロキョロしていると、真っ直ぐな廊下を進んで、どうやら外に向かっている様。
 「えっ、お婆ちゃん! まだアタシ、パジャマだよ!」
 流石に女子高生たる者、パジャマで外に出るなんて言語道断。お婆ちゃんを説得しようとするも、どうも通じて無いようだ。
 「大丈夫よ。行きつけの洋服屋さんなんだから」
 こちらを一瞬向いて、うふふと笑う。
 洋服屋さん?
 服なら沢山持ってきた筈だけれど。
 そんな事を考えていたら、もう玄関の扉は開き、気持ちの良い日差しと、緑の芝生が、アタシの目に飛び込んで来た。
 「門の向こうに使用人を待たせているわ。そこから車で行きましょう」
 やっと腕からお婆ちゃんの手が離れたかと思うと、お婆ちゃんはさっさと早足で煉瓦の道を先行く。
 ま、待って!
 小走りでついて行こうとするも、なかなか距離は縮まらない。お婆ちゃんそんなに急いでるのかな?
 夏の朝9時。もう充分暑い。なのに、こんなに走らされて、視界が陽炎の様に揺れた。実際、陽炎だったのかも知れない。
 お婆ちゃんの背中を追いながら走っていると、もう扉を開けて外に出ていた。
 そのまま扉の外に出て、例の使用人さんの車に乗り込むと、いつかの時の様に猛スピードで発進する。


 
 車の中で。
 「お婆ちゃん、何処に向かうの? 洋服なんて沢山あるよ?」
 お婆ちゃんは助手席に乗っていて、こちらに背を向けたまま答えた。
 「あら、全然無いわよ」
 「えっ」
 昨日あれ程沢山の大荷物を抱えてきた。それの殆どが服だったというのにまだ足りないというのか。今もベッドの上に山積みになってるはず。
 「あの服は品が無さ過ぎるわ。奥の部屋に仕舞っておいたからね、全部」
 「えぇ!?」
 そういう勝手にやっちゃう辺り、やっぱりお母さんの母だなぁと思った。
 ゆらゆらの揺れる車に身を任せ、窓にコツんと頭を付ける。
 外は森林が広がっていた。
 お婆ちゃんの別荘は人里離れた森林の中にあって、だからあれだけの土地があるんだろうけど、女子高生にしてはちょっと不便だった。


 
 ーキキッ
 車が急停車したかと思うと、もう目的の場所に着いた様で、お婆ちゃんと使用人は黙々と車から降りている。
 慌ただしくアタシも降りると、その建物に愕然とした。
 くらりとする様な高いビル。入口は綺麗に取り繕われたホテルの様な造り。ここ、ホテルか?
 「お婆ちゃん此処何?」
 そう問うと、うふと笑ってこちらを向いた。
 「此処の25階にある洋服屋さんが良いのよ」
 びゅおっと突風が吹く。お婆ちゃんのドレスと、アタシの髪をゆらゆらと揺らした。それと同時にアタシの心も揺れる。
 ここの25階なんて、そんなん高級に決まってるじゃん。



 案の定、ビルに渋々入り、25階に登り、その店の前に着いてみると全てが思った通りである事を実感した。
 ショーウィンドウから見てみるに、そこの洋服屋さんというのは、洋服というよりドレスが置いてある。お婆ちゃんが着てるような大人っぽい落ち着いたドレスや、子供が着るようなフリルいっぱいの可愛いドレスもあった。
 「さて、煽姫選びましょう?」
 お婆ちゃんは、堂々と店へ入って行く。
 溜息をつきながら、こんなアタシがパジャマでこの店入っていいのか、という思いに苛まれつつ、重い足を引き摺りながら進んだ。
 「わぁ・・・!」
 中に入って、まず最初に目を奪われたのは、店の中央に佇むガラスのケース。まるで、展示品のように飾られたそのドレスは、水色で腰には可愛いフリルのエプロンが付いている。
 「あれは、この店1番の高級品ね。なかなかお目が高いじゃない? 煽姫」
 おばあちゃんが隣に寄ってきて、一緒にそのドレスを眺めながらそう言った。
 「あれ、いくらするの?」
 水色のエプロンドレスが、アタシにはそんなに高いようには思えない。
 「150万」
 「はぁ!?」
 思わず大きな声が出てしまい、こちらを向いた店員にペコペコを頭を下げた。
 「150万って、なんで!?」
 「おいで」
 おばあちゃんは手招きをして、ドレスの後ろに回った。アタシもついて行くと、150万の理由にはっ、と気付く。
 背中のエプロンを結んだリボンの真ん中。煌びやかなダイヤモンドが付いていた。水色のドレスに反射して、美しく空色に輝いている。
 「これ、欲しいの?」
 アタシは、びっくり目を大きくして、激しく首を振った。こんな高い物、買えない。
 「・・・・・・そう」
 おばあちゃんは何故かガッカリした様子で、その場を離れて他のドレスを見て回り始めた。
 あれ、アタシなんか悪い事したかな。
 取り敢えずアタシもその場を離れ、必死に安いドレスを探す。



 だいぶ時間が経っても、まだアタシは安いドレスを探し続けていた。すると、後ろから肩をトントンと叩かれる。
 「っ・・・、はいっ!」
 反射的に返事をして、後ろを振り向くと、おばあちゃんが立っていた。
 「もうドレスは選んだわ。帰りましょう」
 えっ、もう選んじゃったの?
 その買ったドレスの値段も知らないまま、せっかくピックアップした安いドレスもほったらかして店を出る。
 安いドレスって言っても、10万20万の世界だった。アタシもあんな店に居たら金銭感覚おかしくなるわ。



 家に帰ると、自分の部屋の大きな鏡の前で待つよう言われた。
 じきにおばあちゃんが入ってくる。そして、持っていた大きい白い箱を私の前で開けた。
 そこには、黄緑色のドレスが入っていた。
 大きく広げて見せてくれると、意外と丈は短くて、何段ものフリルが重なっている。一段一段色が微妙に違って、オーロラの様に美しい。
 それをおばあちゃんはアタシに着せた。なんだかとても窮屈で、着づらいんだけど、まあそれはアタシが痩せればいい話。
 ドレスを着たアタシは違和感満載。ヤンキー臭いピアスに、雑に切った半分だけぱっつんの前髪。後、生まれつきなんだけどまるでカラコンを入れたような水色の瞳。そして、鋭い目付き。
 「おばあちゃん、似合わなく無いかな?」
 そう言うと、アタシの肩を叩いて微笑んだ。
 「全然、このドレスが似合うようにおばあちゃん必死に頑張るから。確かに今は合ってないわね」
 ふふふと笑い部屋を出て行く。え、おばあちゃんこのドレスどうするの?
 そう聞く暇も与えずにおばあちゃんは出ていった。がくりと肩の力が抜ける。
 「アタシ、こんなドレス毎日着なきゃなの?」
 鏡の奥のアタシに問いた。けど、鏡の奥のアタシは変に顔を歪めてるだけで、返事してくれる事は無い。ただ、これから先の苦労が身に染みて分かる。今まで性別を気にせずに生きてきたアタシに、女を極めさせようとしている。
 豪華な家に舞い上がっていた。そんな事ない、この先は苦労なんだなぁ。



 時は夜。
 「あ、もしもし。久しぶり凪絆」
 スマホからは感極まった相手の声が響いた。
 「煽姫!?」
 そんなに大声上げること無いじゃんか、と笑いが零れる。そう思うアタシも、なんだか久しい親友の声に落ち着かず、ぐるんと激しい寝返りを打った。
 「そうだよ、煽姫」
 「そんなに久しぶりでも無いのになんか懐かしいわ」
 落ち着いたのか、いつもの凪絆らしい声になる。
 「そーだよ!昨日じゃん引越したの!」
 「アハハッ、ところでそっちどうよ?なんか引越し先が超お嬢様校って噂だけどまじ?」
 え、バレてんのかよ。
 「ん、まぁまじ」
 「それ、アンタやってけんの?」
 一番俺が悩んでる所を・・・!
 「む、無理そう。毎日ドレス」
 「ひぇ!?こりゃ無理だわ」
 高らかに凪絆は笑うけど、此方はそれどころじゃねんだよ。
 「ていうかさ、アンタ知ってた?本当のアンタの異名」
 「吸血妃ヴィンパイアだろ?ったく、厨二臭いったらねぇよな」
 電話の奥、微かにクスリと笑う声。
 「違うのよ。本当は紫眼の吸血妃シガンノヴィンパイア
 「紫眼の吸血妃ぁ!?アタシ目は青じゃん!」
 そう、アタシは目が青い。そして肌白い。それは、父親がフランス人だったから。アタシはハーフで、青い水晶のような瞳と肌の白さだけを受け継いだ。性格は完全に母寄り。
 でも実は、アタシは父のことをあまり覚えていない。まだ年齢も1桁だった時に亡くなってしまったから。
 元から転勤気味で、海外にいたもんだから尚更。顔も覚えて無い。
 そんな事を、思い出していると凪絆の嬉々とした声がアタシの意識を取り戻してくれた。
 「アンタの目綺麗な水色じゃない!?だから、そこに血が映ると・・・?」
 「え!?じゃあアタシ喧嘩中ずっと紫色じゃん!」
 「そう、だから紫眼の吸血妃!」
 「・・・はぁ」
 呆れたと言うか、なんと言うか。
 「まぁ、とりあえず頑張れよ。また電話頂戴、又はしますね電話」
 「おう、ありがと。凪絆」
 「おやすみ」
 「おやす」
 電話を切ると髪が濡れたまま寝てしまった。まぁ明日もどうせ休みだし、と気にすることも無く。
 
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