1 / 1
1話
しおりを挟む
彼と婚約して、同棲を始めてから日に日に体調が悪くなっていった。彼というのはとある伯爵家の次期当主でアレスといい、私のために奔走してくれているみたい。
病院に行こうとすると、俺が頑張って原因を見つけてみせるからって言ってもらえたし。
最近では、妹のマリーも様子を見に来てくれるし、私って恵まれているんだなって思えてた。
でも、それが私の勘違いだったことを知ったんです。
というのも、アレスは私のことを想って奔走しているわけじゃなかったし、マリーも私を心配して会いに来てくれていたわけでもなかった。
何が言いたいかって、アレスは私という婚約者がいるのにマリーと浮気していたということ。
マリーは私がアレスの婚約者だと知っているのに、寝取ったということ。
……今思えば、私は馬鹿だった。
本当に私のことを大事にしてくれていたなら、病院に連れて行ってくれていたはず。
体調不良でボーッとした毎日が続いていたとはいえ、どうしてこんな簡単なことに思い至らなかったんだろう。
病院に行こうとすると、アレスとマリー二人して引き止めてきたりしてたのに。
多分、アレスやマリーは病院に行かれてはマズイことがあるんだろう。
だから、私は二人の目を盗んで病院に行ったんです。
「……とても言いづらいことなのですが、ルミア様の体内から大量の毒物が検出されました」
そこで私が聞いたのは、驚愕の事実でした。
しかし、その瞬間すべてを理解した。
私が体調を崩し続けていたのは、毒を盛られ続けていたからで。毒を盛り続けていたのは、私が病院に行こうとしたら必死に引き止めてきたアレスとマリー。
きっと、二人にとって私は邪魔者だったのだろう。
だから、毒殺することにしたんです。
そのことがわかった私は、騎士団に助けを求めた。
アレスとマリーが毒を盛っているという証拠はないが、私が毒を盛られ続けていた証拠はあるので、簡単に取り合ってもらえた。
「……大変だったな。もう大丈夫だから」
そう騎士団を束ねる、少し変わった騎士団長――この国に四つしか存在しない公爵家の三男の言葉に、私は張り詰めていた緊張が切れてしまったのか、泣いてしまった。
そんな私をアレスの屋敷に帰らせることはできないと、アイゼンは屋敷に客として迎え入れてくれたんです。
その日から、私の体調は見る見る良くなっていった。
ずっと青白かった肌も健康的な肌に戻りつつあって、眠っているときに吐血をすることも無くなった。
たとえ、吐血をしてシーツを汚してしまっても、咎められることはなかったし、精神的にも楽になった。
それで、アレスとマリーはと言うと……。
「完全に黒だったよ。君がいないと知ったあの二人は、見つけるのではなく、暗殺することにしたみたいだ。
だから、今はまだ外に出ない方がいい。暗殺者が君の命を狙っている。
俺がそれを許しはしないが」
アイゼンからそう聞かされ、私は本当に殺されそうになっていたのだと改めて実感した。
しかし、もうアレスとマリーの尻尾も、その雇われたという暗殺者の尻尾を掴んでいるらしく、もう少しで事件は収束するとアイゼンは言っていた。
そして、それから――数日が経過した頃、アレスとマリーを逮捕したとアイゼンから聞かされた。
これで、ようやくあの二人から解放されるのだと知って、私は喜びを覚えた。
もう体調も完全に回復したし、近いうちに実家に戻るつもりだったのだけど……。
「今はまだ、友達という関係でもいい。君の心もまだ癒え切っていないと思うから。
でも、俺は君が好きだ。たったの数日でなにを言っているんだってそう思うかもしれないけど、俺は君と出会った瞬間に一目惚れをした。そうじゃないと、今まで誰も入れたことのない屋敷に、君を迎え入れたりはしない。
だから、さっきも言ったけど、まずは友達から……」
そんなことをイケメンの男の人に言われて、ドキッとしない女の人はいない。
それに、まずは友達からと、彼も言っているみたいだし、そこから始めるなら……。
「いいですよ。私なんかでよければ……ですけど」
「き、君がいいんだ!」
ぱあぁっと、表情が明るくなるアイゼンを見て、私も微笑みを浮かべた。
もちろん、初めてできた恋人に裏切られたわけで、男の人が怖くないと言ったら嘘になるけど、彼なら大丈夫。
私は何の根拠もないけれどそんな気がして、少しからかってみるのだった。
「それなら、私のことは『君』ではなく、ルミアと……そう呼んでください。……アイゼン様」
~完~
病院に行こうとすると、俺が頑張って原因を見つけてみせるからって言ってもらえたし。
最近では、妹のマリーも様子を見に来てくれるし、私って恵まれているんだなって思えてた。
でも、それが私の勘違いだったことを知ったんです。
というのも、アレスは私のことを想って奔走しているわけじゃなかったし、マリーも私を心配して会いに来てくれていたわけでもなかった。
何が言いたいかって、アレスは私という婚約者がいるのにマリーと浮気していたということ。
マリーは私がアレスの婚約者だと知っているのに、寝取ったということ。
……今思えば、私は馬鹿だった。
本当に私のことを大事にしてくれていたなら、病院に連れて行ってくれていたはず。
体調不良でボーッとした毎日が続いていたとはいえ、どうしてこんな簡単なことに思い至らなかったんだろう。
病院に行こうとすると、アレスとマリー二人して引き止めてきたりしてたのに。
多分、アレスやマリーは病院に行かれてはマズイことがあるんだろう。
だから、私は二人の目を盗んで病院に行ったんです。
「……とても言いづらいことなのですが、ルミア様の体内から大量の毒物が検出されました」
そこで私が聞いたのは、驚愕の事実でした。
しかし、その瞬間すべてを理解した。
私が体調を崩し続けていたのは、毒を盛られ続けていたからで。毒を盛り続けていたのは、私が病院に行こうとしたら必死に引き止めてきたアレスとマリー。
きっと、二人にとって私は邪魔者だったのだろう。
だから、毒殺することにしたんです。
そのことがわかった私は、騎士団に助けを求めた。
アレスとマリーが毒を盛っているという証拠はないが、私が毒を盛られ続けていた証拠はあるので、簡単に取り合ってもらえた。
「……大変だったな。もう大丈夫だから」
そう騎士団を束ねる、少し変わった騎士団長――この国に四つしか存在しない公爵家の三男の言葉に、私は張り詰めていた緊張が切れてしまったのか、泣いてしまった。
そんな私をアレスの屋敷に帰らせることはできないと、アイゼンは屋敷に客として迎え入れてくれたんです。
その日から、私の体調は見る見る良くなっていった。
ずっと青白かった肌も健康的な肌に戻りつつあって、眠っているときに吐血をすることも無くなった。
たとえ、吐血をしてシーツを汚してしまっても、咎められることはなかったし、精神的にも楽になった。
それで、アレスとマリーはと言うと……。
「完全に黒だったよ。君がいないと知ったあの二人は、見つけるのではなく、暗殺することにしたみたいだ。
だから、今はまだ外に出ない方がいい。暗殺者が君の命を狙っている。
俺がそれを許しはしないが」
アイゼンからそう聞かされ、私は本当に殺されそうになっていたのだと改めて実感した。
しかし、もうアレスとマリーの尻尾も、その雇われたという暗殺者の尻尾を掴んでいるらしく、もう少しで事件は収束するとアイゼンは言っていた。
そして、それから――数日が経過した頃、アレスとマリーを逮捕したとアイゼンから聞かされた。
これで、ようやくあの二人から解放されるのだと知って、私は喜びを覚えた。
もう体調も完全に回復したし、近いうちに実家に戻るつもりだったのだけど……。
「今はまだ、友達という関係でもいい。君の心もまだ癒え切っていないと思うから。
でも、俺は君が好きだ。たったの数日でなにを言っているんだってそう思うかもしれないけど、俺は君と出会った瞬間に一目惚れをした。そうじゃないと、今まで誰も入れたことのない屋敷に、君を迎え入れたりはしない。
だから、さっきも言ったけど、まずは友達から……」
そんなことをイケメンの男の人に言われて、ドキッとしない女の人はいない。
それに、まずは友達からと、彼も言っているみたいだし、そこから始めるなら……。
「いいですよ。私なんかでよければ……ですけど」
「き、君がいいんだ!」
ぱあぁっと、表情が明るくなるアイゼンを見て、私も微笑みを浮かべた。
もちろん、初めてできた恋人に裏切られたわけで、男の人が怖くないと言ったら嘘になるけど、彼なら大丈夫。
私は何の根拠もないけれどそんな気がして、少しからかってみるのだった。
「それなら、私のことは『君』ではなく、ルミアと……そう呼んでください。……アイゼン様」
~完~
31
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。
百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」
バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。
妻である私を。
「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」
そんな事をしたら、領民が死んでしまう。
夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。
実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。
国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。
すると……
「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」
「は、はい?」
「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」
そう。
童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。
国王陛下は私に夢中。
私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。
そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる……
========================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した
無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。
静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる