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1話

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「――ぁん」

 そんな艶めかしい声が、生徒会室から聞こえた。


 私は貴族学校に通うリリアンナ。階級で言えば、子爵家の令嬢なので、そこまで権力があるわけではない。
 しかし、実力主義であるこの学校には階級などあってないようなもので、私は生徒会長になることができた。

 そのこともあって、私はとある公爵家の次期当主であるセイバー様と婚約し、順風満帆な学校生活を送っていた。

 ……はずだったのだが…………。


「落ち着いて。さっきのはなにかの間違いよ。そう、なにかの間違い」

 だって、生徒会室は神聖な領域。
 いかなる権力者でも、生徒会に関係がない者は立ち入りが許されてないし、決して穢してはならない。

 という、学校のルールが存在している。

 だから、さっきの喘ぎ声は私の幻聴。
 先週までテスト週間だったから、きっと疲れているのだと思う。

 しかし、

「ああん……っ」

 やっぱり幻聴ではなかった。

 ……き、聞かなかったことにしようかな。
 い、いや……そんなこと恐れ多くてできない。

 前・生徒会長である先輩から、

『生徒会を頼みます』

 と、お願いされてるし……。

 そのときに、私が絶対に守ってみせます……とか、カッコつけちゃってるし。
 しかも、その先輩まだ学校に在籍しているし。

 ……あぁ、気が重い。
 私のせいで、この誉れある学校から退学者が出る。

 いや、まだそれだけならいい。
 だけど、恨みを買って復讐しにくるかもしれない。

 で、でも……やっぱりこのままにしておくわけにもいかないし。

 まずはこっそりと仲を見ることにしよう。

 ゆっくり、ゆーっくり、慎重に。
 物音を立てずに、中の様子を……。

「――きゃあああああぁぁぁぁぁああああああああああ――ッッッ!」

 私はひとしきり叫んだ後、気絶した。



 私が生徒会室で見たものは、婚約者であるセイバーが、女性のあれに、その……打ちつけるところでした。
 
 つまり、浮気現場です。

 しかし、私が感じたのは浮気されたことへの怒りとか、寂しさとかではなく、単純な恐怖だった。

 私、男性恐怖症なんです。
 弟の裸を見ただけで失神してしまうぐらいなんです。

 でも、それじゃあダメだと思って、克服しようと頑張ってはいるのですが、とても無理で……。

 そして、今回の件。完全にトラウマになりました。

 私は今後一生、独り身が確定しました。

 

 ……で、そんな私は今、どこでなにをしているのかと言うと、保健室で寝かされています。
 そして、周りには生徒会のメンバーがいて、彼女たちが私をここまで連れてきてくれたみたい。

「……大変な目に遭いましたね、会長」

「えぇ……。それで、セイバー様はどうなりましたか?」

「即刻退学になりました。相手の方も同様に。
 それで、そのセイバーとやらは、会長の婚約者だとかほざいてましたが、聞く耳を持たれていませんでしたね。
 まぁ、それもそのはずでしょう。自らその地位を放棄したわけですし、なにより……伝統ある生徒会に泥を塗ったのですから、当然です」

「そうですか……」

「大丈夫ですか? あまり顔色がよくないみたいですが」

「杞憂ならいいのですが、不安なのです。私は子爵家の令嬢で、セイバー様は公爵家の次期当主。
 なにか嫌がらせをしてくるのではないか……と」

「……それなら、私に考えがあります」



 それから1ヶ月も経たないうちに、セイバー様は嫌がらせをしてきました。
 が、無事に撃退。というのも、彼はあの一件で家を勘当されていました。

 だから、容易に追い返すことができた。

 せっかく、書紀ちゃんがいろいろとやってくれていたのに、無駄骨になってしまった。

「ごめんなさい。せっかく彼氏のふりをしてくれていたのに」

「これぐらい大丈夫っす。ほかでもない姉貴の頼みだったので」

「……そうですか。なら、いいのですが……」

 ここで会話が途絶え、気まずい雰囲気になる。

 しかし、すぐにお別れのときがやってきて。

「それでは、今日までありがとうございました」

 私はお礼を口にした。

 それで、普通ならここで背を向けるところなのですが、書紀ちゃんの弟――ウォルフはなにか言いたげな様子だったので、帰るにも帰れず口を開くのを待つ。

「……リリアンナさんは、男性恐怖症なんですよね?」

「えぇ。そうですが……」

「でも、俺とは普通に話せてますよね。それって、そういうことだと思っていいんですか?」

「……えっ?」

「それじゃあ、帰ります」

「えっ、それってどういうこと? ねぇ!? ウォルフくん!?」

 
 こうして、元・婚約者の浮気から始まる一連の事件は収束し、次の物語が始まるのでした……。

                  ~完~



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