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2章 感動の再会から王都を死守するまで

44話 王都壊滅について話します

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 あれから数十分、いや……数時間の間、俺はアメリアに『アルトちゃん成分』を補給するため抱きつかれていた。
 実際にはたった数分しか経っていなかったが、早く終わってほしいという想いが強すぎるあまり、体内時計がめちゃくちゃに狂っていたらしい。

 そして今現在、俺は実の妹であるアイリスに詰め寄られていたのだった……。

「――どうしてお兄ちゃんがここにいるの! カインさんと冒険者になったはずでしょ!?」
「どうして俺がここにいるのかは姉貴とラインハルトにだけ話す。お前はここにいなくていい。それに冒険者はやめた」
「冒険者をやめた……? 何で! お兄ちゃんはカインさんと一緒に有名になって……」
「どうでもいいだろ、あいつのことは。それに言ったはずだ。お前はここにいなくていい。邪魔だ」
「どうでもよくない! それにまた仲間外れ! いつも私は邪魔者扱い!」

 ……はぁ。アイリスも相変わらず頑固だな。
 まだ子どものお前に王都壊滅の話をしても仕方ないし、カインの話をお前にはしたくない。
 お前の初恋の相手が犯罪者で、ましてや俺をパーティーから追い出すような薄情者だとは流石にな……。

 それに。

「俺はお前を邪魔者扱いしていない。ただ、もうみんな教室に帰ったのにお前だけいるのはおかしいだろ」
「それはそうかもしれないけど! それとこれとは別なの! それで、お姉ちゃんとラインハルトさんに話そうとしていることは何なの!」
「……聞いて後悔しないか?」
「しない!」
「……はぁ。仕方ないなぁ」

 俺は諦めてアイリスにも話すことにした。
 まあ今のうちに聞いておけば、いざそれが起きたとき、冷静に動けるかもしれない。

 そう自分を説得していると、ノエルが俺の方を見ていた。

「アルトさんは妹さんに甘いですね」
「うるせぇ。別に俺は甘くない」

 そう俺は甘くはない。

 本当に俺がアイリスに対して甘いなら、今すぐにでもここから遠ざけようとするだろう。
 だが、俺はそうしない。時間的にできないのもあるが、勇者としての責務を全うするためにしないのだ。

 だからアイリスには王都壊滅の現場にいてもらう。
 俺はアイリスの兄だが、今は勇者だ。アイリスだけを守るなんてことはできない。
 そう……たとえ死ぬかもしれないとしてもな。

「それでアルト。俺に話したいことってのは何だ?」

 ラインハルトが本題について聞いてきた。

「本当は姉貴に聞いてほしくはなかったが……まあいいか。……王都は50時間後に壊滅する。信じられない話かもしれないが、事実だ。俺が最も信頼する冒険者が言っていた」
「王都が壊滅だと?」
「ああ。敵は五万を超える魔物と聖獣四体だ」
「……聖獣だと?」
「そうだ。白虎を除く四体の聖獣が王都を襲う」
「そうか……」

 そう言うラインハルトは……笑っていた。
 何故だかは分からない。だが、オルガの言っていたことが何となく分かった。
 恐らく、ラインハルトは聖獣と何らかの因縁がある。

「だが、申し訳ないがそれだけじゃない」
「……ぇ? まだ、何かあるの……?」
「後悔しないんじゃなかったのか? アイリス」
「こ、後悔なんて、別にしてないし!」

 俺は強がるアイリスの頭をポンポンと叩いた後、話を続け――ようとしたとき、姉貴が遮ってきた。

「女?」
「え? 何?」
「だから女? その信頼する冒険者って……」
「そうだけど、それが何だ?」
「そんなぁ……。お姉ちゃんっ子だったアルトちゃんが、私以外の女と仲良くなってるなんて……っ。……渡すもんかっ! アルトちゃんは私のなんだから! いい? アルトちゃんは私の!」
「は、はぁ……」

 えっ、そっち? 心配するところ間違ってない?
 さっきまで妙に静かだなと思っていたけど、まさか魔物と聖獣じゃなくて、ミストを敵対視してたの?

 しかもノエルにも流れ弾が飛んでいったぞ。

 流石は姉貴だ。後、俺はお姉ちゃんっ子でも何でもない。勝手に記憶を改竄するな。
 俺は姉貴にべったりだったことは一度もない。むしろ、姉貴の方がべったりだった。

 暑苦しいぐらいに……。

 いや、そうじゃなくて。俺はこんな話をしたいわけじゃない。

 俺は再び本題に入る。
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