最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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六十六話 コウジ ①

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「お待ちしておりましたわ」

 扉を開けたその先からかけられた一言。その一言でその男は涙を流した。

「おおおおおおおぉぉぉ…………!! わ……、私もお待ちしておりましたわああぁぁぁぁ!!!」

 歓喜の涙を流し両手を空へ突き上げ喜びを爆発させる男、その男の名はコウジ=ウォーカー。またの名を変た……似非紳士。



「……こ、光栄ですわ……」

 コウジのあまりのキモさもとい勢いに若干いやかなり引きながらもメイドとして振る舞うはアデリーヌ。だが、その引きつった表情からはハズレを引いたと気持ちが隠しきれていない。

 そんな彼女とは対照的に気持ちを隠す気などサラサラなく大当たりを引いた喜びを爆発させているコウジはひたすら叫んでいた。

「よーしよーし!! 流石は私! レディを愛しレディに愛された神をも超えし博愛の使者にして愛の狩人であり孤高の親愛なる私にして世界最高の隣人! 神よ! 今日は貴様に感謝してやろう! だが、私は神を超えた存在なのだ! 神よ! 私に感謝されることに感謝したまえ! グワハハハハ!!」

 延々と一人で意味不明な言葉で自分を褒めちぎるコウジの姿は彼女の瞳にはどのように映っているのだろうか。それが分からなくともどのようにそれを見ているのか分かる程に彼女は間抜けに口を開け突っ立っていた。人は理解不能なものを目撃した時こんな顔をするものだ。

「はっ! す、すまない。私としたことがつい嬉しすぎて舞い上がってしまった。いついかなる時でも落ち着いて冷静であれ私。何故なら私は紳士なのだから」

 すーはーすーはーと深呼吸をして自分を落ち着かせるコウジ。紳士とは彼にとってこういうものらしい。

「……ふう。すまないね。見苦しいところを見せてしまって」
「い、いえ。大丈夫ですわ……」
「そうか、ふむ。この紳士たる私のあんな姿を見れたのだから得をしたと考えるか素晴らしい!」
「………………」

 開いた口が塞がらない。その言葉を見事に体現しているアデリーヌ。そして、コウジも開いた口が塞がらないを体現していた。一度開いた口からはひたすらに自己賞賛の言葉が発され塞がらない。五月蝿いことこの上ない。


「……であり、……であるのだ。どうだね? そうは思わないかい?」
「え? あっ、そ、そうですわね……」
「だろう!? 君もそう思うだろう! ハハハハ!!」
 
 開いた口が塞がらないコウジから発せられる自己賞賛の言葉の濁流にアデリーヌはただ流されるだけだった。だが、これでは不味いと気を取り直し彼女も言葉を発する。

「そもそも私というのは……」
「お言葉ですが。そろそろ始めましょう。時は金なりと言うものです。時間を無駄にするのは終わりにしましょう」
「ふむ? そうかね? まあ、君が言うならば仕方ない。レディのワガママも黙ってきいてやるのが紳士と言うものだ」

 いったいどの口がそんなことを言うのか。レディのワガママ以上に我が儘な似非紳士だというのに。アデリーヌは呆れつつもようやくあの五月蠅さから解放されることにほっと一息息が漏れる。

「先手は譲ろう。レディファースト。紳士の基本だ」

 何も持たずスッと両手を広げ受け入れるかのような姿勢を取るコウジ。そんなコウジの姿を信用した訳ではないだろうがアデリーヌは得物を抜き構える。長い棒の先に反り返った刃が付いている余り目にすることの無い武器を。

「ほぉ。薙刀とは。素晴らしいセンスの持ち主だ!」
「…………では、お言葉に甘えて。…ハッ!」

 アデリーヌはコウジの言葉を流し、スッと距離を詰め長い得物を振り上げる。

(むっ! 見える!!)

 アデリーヌが得物を振り上げると同時に彼女の短めのスカートもまた浮き上がった。そして、その下から覗きそうで覗かないものが。それは神のみぞ知る神秘の布。その神秘を一目見ようとコウジの視線、いや身体全てがそこへと集中する。振り上げられたものなど全く意に介さず。

「はっ! ぬう!!」

 間一髪のところで視線を上げ固まった身体を動かし躱し距離を取るコウジ。だが、その頬には一筋の赤い線が。

「……ふっ。やるではないか。あまりの美しい太刀筋に見惚れてしまったよ」
 
 全く見もしてない太刀筋を賞賛し、自らの傷を正当化する。浅ましい考え程見抜かれやすいと言うのに。

「その割には視線や身体が下に向いてましたわね?」
「…………影すらも美しい。美しさは上だけにあるとは限らないのだよ」

 わざとらしく地面を見つめるコウジ。自分の足元へ伸びている彼女の影を凝視する。ふむ、自分で言っておいてなんだが確かに美しいなとばかりに軽くうなずいてから顔を上げる。

「さて。では、次はこちらから……、……?」

 レディファーストを完了し満足気に刀を抜くコウジ。長い刀を抜き、一歩踏み出そうした時コウジの動きが止まる。

「どうされました?」
「……いや。何でもない。それよりも君が私を気遣ってくれたとは! 残念ながら今は敵である私に対して! 嬉しいではないか!!」

 この程度何でもないと言うふうに止めた身体を動かし出す。だが、一歩、また一歩と近づいていく程に感じる違和感。その答えをコウジは見つけられずにいた。

(なんだ? なんだこの違和感は? そこまでではないが急に身体が重くなったような気が。まるで病にかかったかのようだ)

 自らの身体に感じる小さな違和感。違和感は小さくとも人の思考を奪うのには大きすぎる。気がつけばもう既にアデリーヌの目の前にまで来ていた。

(いかんいかん。集中せねば。美しきレディに美しい私を見せねば)

 さっきのお返しとばかりにコウジは長い刀を片手で上へと振り上げる。元々背の高いコウジが腕、そして、長い刀を上に振り上げるのはかなりの迫力があった。その迫力があったからか、動き出しやすいようにかアデリーヌは腰を落とし迎撃の構えをとる。

「安心したまえ。痛くはしない」

 振り上げた腕を、刀を振り下ろす。このまま振り下ろすだけでも私の太刀筋は美しいものだが更に美しさを付与しようではないか。そう考えたコウジが選択したのは三の太刀「雷」。

 振り下ろす途中で軌道を変えるこの太刀は弟子であるリンが得意とし、リンからミイナへと伝授された技でもある。この二人が会得した技は元はコウジから教え、伝えられたもの。そのコウジが出来ないはずもなく、二人以上に高い完成度を誇るのは当たり前だった。だから、当然この技は美しく決まり力を発揮する。

 ……はずだった。

「……は?」

 地面と金属とがぶつかり合う音が響いた。振り下ろした太刀はアデリーヌを斬ることも軌道を変えることもなくただただ地面に叩きつけられた。アデリーヌは何もしていない。単純にコウジが振れなかったのだ。自身の太刀を。

「な、何故……、」
「ガラ空きですわよ?」
「ぐわっ!」

 コウジ胸に一本の横の線が入る。そして、そこから噴き出す赤い鮮血。

「あら。あの状態からもすんでのところで避けられるなんて。すごいですわ。おじさま」
「……ははっ。おじさまか。お兄様でもまだいけるとは思わないかね?」

 軽口を叩いているがコウジの内心は動揺で溢れかえっていた。三の太刀「雷」の不発。それどころか太刀の重さに振り下ろすことすらまともに出来ずあろうことか床に太刀を叩きつけてしまったこと。普段なら有り得ない己の失態。胸に深く付いた傷がそれを物語る。

(何故だ? 何故私があんな失態を……? それになんだこの感じは? さっきよりも更に身体が重い。これは最早違和感ではない。確かに身体が重い。なんだこれは? まるで本当に病でもかかったかのような……)

 自分の見た目は変わらない。だが、身体が重い。最早違和感ではない。確かに身体が重い。あの扉に入る前までは何も無かったのに今は身体が重い。

(毒を盛られたか? いや、そんなことはない。魔法? 違う、彼女が何か魔力を発したというのは感じていない)

 様々な原因を考えるがどれも当てはまらない。毒を盛られたこともなく魔法を受けたこともない。あの扉に入る前までは元気だったのだ。人一倍己にこだわるこの男は己の外見だけでなく中身も常に把握している。それがこんなに急激に変化することなど普通有り得ない。魔法なら出来るかもしれないが魔法を受けたのなら絶対に分かる。


(…………まさかっ……!)

 そして、考えた末にコウジの頭は一つの答えを導き出した。

(こ、これが……)

 様々な仮説を立て、検証し遂に見つけたその答え。これしかないと確信を持てる答えを。


(これが『恋の病』なのかっ……!)


 素晴らしいコウジの頭は素晴らしい答えを導き出した。
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