最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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七十八話 ミイナ ⑥

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「僕が戦う……? それに影纏い『マルク=ブラウン』……?」

 影は形を変えた。女の影から男の影へ。臆病から堂々へ。気弱から強気へ。盾から矛盾へ。

「いったい何を言っているのか分からないが、まあいい。もうさっさと終わらせるとしよう」

 マルクの周りに再び二枚の鏡が現れる。一枚はマルクを映し、もう一枚は隣の空間へマルクを映し出すように動く。そして、鏡が映し……

「っ!」
「……知ってますよ。その鏡の弱点。二枚で一組、一枚が映したものをもう一枚が映し出すまでにはほんの少しの時間がかかる。だから、その間に映し出す方の鏡を壊せばいい」

 映し出そうとした鏡が割れ、キラキラと光の粒子が宙を舞い割れた鏡は消え、同時にもう一枚も消えた。

「……やるじゃないか。この短時間でよく見破ったね」
「知ってますから。その鏡の使い方や弱点も」
「……ふうん。思ったより調子に乗りやすいんだね。じゃあ、これでどうだ?」

 マルクが剣先をこちらへ向ける。そして、そこから一筋の光が襲いかかる。
 知っている。これが何を意味するのか。

 私はマルクが光を放つ前に鏡を展開した。一枚は放たれた光を映し出す場所へ。もう一枚はマルクの光の進行ルート、私の真正面へ。映しされた光をもう一枚の鏡が映し出す。そして、放たれた光と同じ熱量と威力を持ってその光がぶつかり合う。

 光の魔法がぶつかり合うことで起こる衝撃。だが、そんなことはどうでもいい。前へ。

「なっ……」

 斜め前へ出る。そして、すぐさま突っ込んで来ていたマルクと鉢合う。知っていた。お前が突っ込んで来ることを。お前の狙いを。

 ナイフを握る手を伸ばす。伸ばした後はすぐ戻しまた伸ばす。突いては引いて突いては引く。躱し躱され防ぎ防がれ。
 そして、現れる四枚の鏡。映し出すは己の腕と武器。

 キィンと一際甲高い音が響く。私のナイフとマルクの剣が交差する。私のナイフを受け止めたマルクの剣。マルクの剣を受け止めた私のナイフ。私の前と後ろでそれぞれ交差する。

「…………光の魔法に鏡の使い方。それにその太刀筋。……ふふっ。ふふははは。あはははっ! すごい! 本当に僕じゃないか! 素晴らしい! まさか本当に僕自身と戦えるなんて!」

 交差した剣を弾きお互い距離を取る。後ろへ下がる時、私の腕と鍔迫り合いしていたマルクの腕を映し出している鏡を破壊して。

「ああなんて楽しいんだ! ふふっ。君の言っていた僕の戦いと言うのは本当だね。僕の持つ技術。僕がする思考。僕の、僕の生き写しが今の君か。さっきのも完全に読まれていたね。光を囮に奇襲をかける。それを読まれて僕が奇襲にかけられたんだけど」

 楽しそうに笑うマルク。それはまるで子供の様に。

「ああいいね。さあもっと楽しもう。ワクワクするよ」
「……戦いがそんなに楽しいんですか」
「ああ。楽しいね。戦って相手を倒してより僕が強くなっていくのが。だから、君……、僕も倒してしまおう!」

 剣の切っ先をこちらへ向ける。今の瞳だけを見れば好青年の様だ。だが、こいつはマルクだ。

「君は楽しくないのかい? 自分が強くなっていくのが。……それにゾクゾクするのが」
「ゾクゾク?」
「そう。ゾクゾクしない? 相手の命を奪う、相手を殺す瞬間は!」

 マルクの瞳に違う色が宿る。

「君も殺した経験ぐらいあるだろう? 人じゃなくても魔物ぐらいなら」
「……ありますが」
「なら、感じたんじゃない? 襲いかかって来た魔物に勝ち、その命を奪う瞬間……! ああ! あの快感! 圧倒的な優越感! 自分は生きて、相手は死んでいく。相手の命を自分が握って、それを潰すという背徳感! ゾクゾクするよね!!」
「…………そうですね」

 否定はしない。私も感じたことがあるから。私が初めて勝利した時。ギリギリの戦いでゴブリンに勝利したあの瞬間。あの時私は命を賭けた戦いに勝利したという優越感を感じていた。

「だよね! だから、僕は戦うんだ! 戦って、勝って、奪って。壊して、殺して、手に入れる!」

 楽しそうに笑う。綺麗に汚れたその瞳で。

「……だから、あの日は最高だったよ。師匠に命じられたあの日」

 瞳に宿った色が濃くなっていく。そして、

「君の村を壊滅させた日は」

 塗り潰した。

「あの日が初めてだったんだよね。人を殺したの。それまでは魔物ばかりだったからさ、人を殺すのは初めてで。躊躇もしたよ。何の罪も無い人を殺すことを。だから、申し訳なく思ってるのは事実さ。胸が痛むよ。でもね」

 口角が上がる。瞳見開き、妖しく光る。

「最高だったんだよ。平凡な日常を崩して壊していく爽快感。同じ人を殺すという、あの命を奪う優越感! そして、僕の弱い心まで殺せたんだ! あの日、僕の弱い心は涙を流しながら死んでいった。それにより、完全な存在へ、より高みへと僕は行けたんだ!」

 さも愉快そうに声を張り上げる。

「……そうですか」
「……反応が薄いね。僕が言うのもなんだけど怒ったりしないのかい?」
「怒ってます」
「本当に?」
「本当です」
 
 自分の村を、友を、親を殺され怒らない人間などいるのだろうか。ドス黒く煮えたぎったマグマの様に私の心を燃やすこの感情を怒りと言わずに何と言うのか。

 だが、そんな私の心を鎮め冷静にさせる師の教え。人としては信用出来ないけど、武人としては信用出来るそんな師から教わった「心得」。

 明鏡止水に先手必奪。コウジさんから教わった心得。それにその心得だけじゃない。心の底から楽しそうに笑い、可愛く見る者を癒やす様に笑い、自分のを信じて止まず賞賛する様に笑う。私のちっぽけな心なんて笑われて終わりだ。そんな風に考えるとマグマの様な怒りだってコントロール出来る。

「……私は恵まれていたんだって」

 ナイフを構える。一歩踏み出し一度突く。その突きは防がれたが、マルクの体勢を少し崩し追撃のチャンスを与える。
 もう一度突く。さっきより強く。それも防がれる。だが、さっきよりマルクの体勢を崩させた。でも、追撃は出来ない。マルクが強引に攻撃をしてきて、それを避けるため距離を取ったから。

「本当に防御だけはすごいね。防御だけなら僕より君の方が上だ。攻撃は僕の方が上だけど」

 今度はマルクから。細い剣を風の如きスピードで突く。速さだけでも一級品なのに、細い剣をしならせる様に扱い軌道を自由に変えてくる。何とも高度な攻撃。私はそれをいなし、避け、守りに徹し防ぐ。

「……私の師匠は、シオンさんは攻撃の仕方なんて全然教えてくれなかった」

 私に刻まれたシオンさんの教え。身体に、頭に、心に。私が私である為に、私の為に刻み込まれた師の教え。

「教えてくれたのは逃げるに避けるに守る。攻撃なんて欠片も教えてもらってない」
「酷い師匠だね。まるで弟子に勝ってほしくないみたいだ。守るだけじゃ勝てないと言うのに」
「酷い? ええ、確かに。私をおもちゃみたいに扱って、私が泣き喚ているのを見てゲラゲラ大笑いして。最低の師匠です」

 今思い出してもいつ思い出しても酷い師匠だ。どんな場面を思い出そうとも、浮かんでくるのは笑い顔。まったく最低だ。でも、

「でも、その師匠のお陰で私が勝てる」
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