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第5話 空港
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その日は体がだるくて立っているのもやっとだった。ところが、将軍が来るというので僕たち少年兵も広場に整列させられた。僕は殴られるのが嫌で列に並んだ。偉いさんが兵士達の前を歩いて来る。体が燃えるように熱い。熱くて熱くて唾を飲み込むけど足りない。水が欲しい。水、水と思っていたら誰かが僕に水をかけた。いつのまにか、僕は地面にひっくり返っていて、水をかけられていた。
「病気のようです。殺しますか?」
「殺すのはいつでも出来る。解放軍に穀潰しはいらん。こいつに決めさせよう」
将軍が僕を見下ろして言った。
「おい、お前。お前は解放軍にどうやって貢献する?」
「貢献?」
「そうだ、お前を一人前の兵士にしてやった解放軍にどう恩を返す?」
兵士にしてやっただと!!!
そんなもんなりたくなかった。村を返せ! 元の生活に戻せ!
喚こうとした瞬間、頸(うなじ)に豹の息吹きを感じた。ジャングルの中で何が起きたか、急に思い出していた。豹の餌にはなりたくなかった。
「ぼ、僕は英語が話せます。後、フランス語とロシア語も少し。だから、外国人と取引できます」
部隊には時々ヨーロッパ人が来ていた。武器を仕入れていたんだと思う。だから、言葉が話せたら殺されない筈だ。
「ほー、三カ国語が話せるか。だったら、試してやる」
将軍は英語で何か言った。
「さあ、何といったか、答えろ」
「『我らの人民は声を上げた、“もう十分だ”と。』」
将軍は黙った。しばらく考えて言った。
「その言葉を誰がどこで言ったか知っているか?」
どうしよう、知らない。殺されるんだろうか?
「早く答えろ!」
「し、知りません」
将軍が黙ったまま、僕を見下ろしている。
このまま死ぬのか生きるのか、長い。
気絶しそうだ。早く決めて!
「ふん、いいだろう、お前を助けてやる、その能力で軍に貢献しろ」
僕はほっと息を吐き出した。
将軍の一言で僕は手厚く看護され、元気になった後は諜報活動の部隊に配属になった。
諜報活動の部隊は待遇が全然違った。まず、食べ物がまともだった。薬の量が減らされた。色々覚えないといけないので、薬でボーッとしてたらいけないらしい。
僕はテストされてアメリカ人の少年になると決まり、ポール・ウィリアムズという名前を与えられた。Tシャツとジーンズを支給され、アメリカで流行っている音楽や遊び、スラングを覚えアメリカ人になる訓練を受けた。体術や射撃の訓練は相変わらずだった。
僕の初仕事は、空港の破壊だった。不思議だった。僕はきっとアメリカに行ってそこで生活しながら情報を軍に送るのだと思っていた。所が違った。アメリカ人観光客を装って空港に潜入、破壊活動を手伝うのだという。僕は両親を交通事故で亡くし、転地療養をする為、叔父さんにアフリカに連れて来て貰った可哀想な少年という設定だった。
何かあった時は「両親を亡くしたばかりで」と言って俯けば大抵誤魔化せると、僕の叔父役になった男が言った。空港のどこかにプラスチック爆弾を置いて来て、遠隔からスイッチを押す。それだけだ。
爆弾入りのリュックを持たされ、ポール・ウィリアムズ名義のパスポートとドルを渡された。
首都にある国際空港は警備が厳重だった。僕は叔父役と一緒に空港の出口に待機した。
「出口なの?」
「ああ、アメリカからおばさんが来るんだ」
そういう設定なのだろうけど、僕は聞かされていなかったので驚いた。
「もうすぐ、アメリカからの便が着く。ここで待ってろ。いいか動くなよ。次の指令が来るまで絶対にここを動くな。俺たちの仲間がお前を見張ってるからな。逃げたら撃ち殺す。わかったな」
僕はコクコクとうなづいた。あれだけ忠誠心を誓う訓練を受けたのだ。逃げ出す筈ないじゃないかと思ったが、まだまだ信用されてないんだなとがっかりした。僕は柱に背を持たせたままぼんやりと座りこんだ。ここにいる普通の人達がこれから僕の仕掛けた爆弾で死ぬのだとはとても思えなかった。遠い出来事のように感じた。僕は生き延びたいんだ。サバンナで敵わない猛獣に出会ったら逃げるしかないのと同じように解放軍には敵わない。彼らの言うことを聞いて生き延びるしかないんだ。
叔父役の男は手にカードを持って出てくる人を待っている。周りに似たような人がたくさんいる。みんなカードを持って出てくる人を待っている。ああ、そうか、観光客を待つ旅行会社の人なんだ。
叔父役の男は何故、観光会社の人間みたいなふりをしているのだろう?
「おい、将軍が暗殺されたぞ!」
「嘘だ、解放戦線がそんな簡単にやられるわけない」
「いや、本当だ。今度こそ、殺された。これで平和に暮らせるぞ!」
「一体何が起きたんだ?」
「内紛があったらしいと記事に出ていた」
途端に豹の息吹きを頸(うなじ)に感じた。
将軍が死んで、何か方針が変わったんだ。あの男は、飛行機から降りて来た誰かと一緒にどこかへ行きそこでスイッチを押すんだ。僕はリュックごと吹き飛ばされる。
恐らく、僕の後ろの柱を破壊したら建物全体が崩れ落ちるんだろう。
それとも、僕の思い過ごしだろうか?
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
僕は見張られているだろうか?
逃げ出さないように?
試しに売店で水を買ってみよう、そしたら、何か動きがあるかもしれない。
僕は一番近くにあった売店に行って水を買おうとした。
「おい、坊主、一人か?」
食べ物の汁で汚れた青いTシャツを着た男が片言の英語で話しかけてきた。
「いえ、叔父と一緒です」
僕は流暢なアメリカ英語で返した。この男が見張り役だろうか? これはテストだろうか?
「へえ、どこにいる?」
「あそこに」
叔父さん役の男を指さした瞬間、その男は僕のリュックを引っ張った。反射的にリュックの紐を掴む。
「大人しく寄越せ! 殺すぞ!」
僕は振り返り様、男の顔に蹴りを入れた。男がリュックを離し後ろ向きにひっくり返る。男は僕が反撃するとは思ってもいなかったのだろう。鼻血の出た顔を抑えながら、走って逃げて行った。
僕はミネラルウォーターを買って元の柱の側に戻った。叔父役の男を見ると、相変わらず人が出てくるのを待っている。
僕は恐らく見張られていない。今の出来事でよくわかった。もし、見張られていたら、リュックを取られそうになった時点で動きがある筈だ。だけど、何もなかった。
どうしようと思ったその時、ガラス越しにどこかで見た事のある足が見えた。
あれは! まさか、そんな、何故彼がここに?
「病気のようです。殺しますか?」
「殺すのはいつでも出来る。解放軍に穀潰しはいらん。こいつに決めさせよう」
将軍が僕を見下ろして言った。
「おい、お前。お前は解放軍にどうやって貢献する?」
「貢献?」
「そうだ、お前を一人前の兵士にしてやった解放軍にどう恩を返す?」
兵士にしてやっただと!!!
そんなもんなりたくなかった。村を返せ! 元の生活に戻せ!
喚こうとした瞬間、頸(うなじ)に豹の息吹きを感じた。ジャングルの中で何が起きたか、急に思い出していた。豹の餌にはなりたくなかった。
「ぼ、僕は英語が話せます。後、フランス語とロシア語も少し。だから、外国人と取引できます」
部隊には時々ヨーロッパ人が来ていた。武器を仕入れていたんだと思う。だから、言葉が話せたら殺されない筈だ。
「ほー、三カ国語が話せるか。だったら、試してやる」
将軍は英語で何か言った。
「さあ、何といったか、答えろ」
「『我らの人民は声を上げた、“もう十分だ”と。』」
将軍は黙った。しばらく考えて言った。
「その言葉を誰がどこで言ったか知っているか?」
どうしよう、知らない。殺されるんだろうか?
「早く答えろ!」
「し、知りません」
将軍が黙ったまま、僕を見下ろしている。
このまま死ぬのか生きるのか、長い。
気絶しそうだ。早く決めて!
「ふん、いいだろう、お前を助けてやる、その能力で軍に貢献しろ」
僕はほっと息を吐き出した。
将軍の一言で僕は手厚く看護され、元気になった後は諜報活動の部隊に配属になった。
諜報活動の部隊は待遇が全然違った。まず、食べ物がまともだった。薬の量が減らされた。色々覚えないといけないので、薬でボーッとしてたらいけないらしい。
僕はテストされてアメリカ人の少年になると決まり、ポール・ウィリアムズという名前を与えられた。Tシャツとジーンズを支給され、アメリカで流行っている音楽や遊び、スラングを覚えアメリカ人になる訓練を受けた。体術や射撃の訓練は相変わらずだった。
僕の初仕事は、空港の破壊だった。不思議だった。僕はきっとアメリカに行ってそこで生活しながら情報を軍に送るのだと思っていた。所が違った。アメリカ人観光客を装って空港に潜入、破壊活動を手伝うのだという。僕は両親を交通事故で亡くし、転地療養をする為、叔父さんにアフリカに連れて来て貰った可哀想な少年という設定だった。
何かあった時は「両親を亡くしたばかりで」と言って俯けば大抵誤魔化せると、僕の叔父役になった男が言った。空港のどこかにプラスチック爆弾を置いて来て、遠隔からスイッチを押す。それだけだ。
爆弾入りのリュックを持たされ、ポール・ウィリアムズ名義のパスポートとドルを渡された。
首都にある国際空港は警備が厳重だった。僕は叔父役と一緒に空港の出口に待機した。
「出口なの?」
「ああ、アメリカからおばさんが来るんだ」
そういう設定なのだろうけど、僕は聞かされていなかったので驚いた。
「もうすぐ、アメリカからの便が着く。ここで待ってろ。いいか動くなよ。次の指令が来るまで絶対にここを動くな。俺たちの仲間がお前を見張ってるからな。逃げたら撃ち殺す。わかったな」
僕はコクコクとうなづいた。あれだけ忠誠心を誓う訓練を受けたのだ。逃げ出す筈ないじゃないかと思ったが、まだまだ信用されてないんだなとがっかりした。僕は柱に背を持たせたままぼんやりと座りこんだ。ここにいる普通の人達がこれから僕の仕掛けた爆弾で死ぬのだとはとても思えなかった。遠い出来事のように感じた。僕は生き延びたいんだ。サバンナで敵わない猛獣に出会ったら逃げるしかないのと同じように解放軍には敵わない。彼らの言うことを聞いて生き延びるしかないんだ。
叔父役の男は手にカードを持って出てくる人を待っている。周りに似たような人がたくさんいる。みんなカードを持って出てくる人を待っている。ああ、そうか、観光客を待つ旅行会社の人なんだ。
叔父役の男は何故、観光会社の人間みたいなふりをしているのだろう?
「おい、将軍が暗殺されたぞ!」
「嘘だ、解放戦線がそんな簡単にやられるわけない」
「いや、本当だ。今度こそ、殺された。これで平和に暮らせるぞ!」
「一体何が起きたんだ?」
「内紛があったらしいと記事に出ていた」
途端に豹の息吹きを頸(うなじ)に感じた。
将軍が死んで、何か方針が変わったんだ。あの男は、飛行機から降りて来た誰かと一緒にどこかへ行きそこでスイッチを押すんだ。僕はリュックごと吹き飛ばされる。
恐らく、僕の後ろの柱を破壊したら建物全体が崩れ落ちるんだろう。
それとも、僕の思い過ごしだろうか?
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
僕は見張られているだろうか?
逃げ出さないように?
試しに売店で水を買ってみよう、そしたら、何か動きがあるかもしれない。
僕は一番近くにあった売店に行って水を買おうとした。
「おい、坊主、一人か?」
食べ物の汁で汚れた青いTシャツを着た男が片言の英語で話しかけてきた。
「いえ、叔父と一緒です」
僕は流暢なアメリカ英語で返した。この男が見張り役だろうか? これはテストだろうか?
「へえ、どこにいる?」
「あそこに」
叔父さん役の男を指さした瞬間、その男は僕のリュックを引っ張った。反射的にリュックの紐を掴む。
「大人しく寄越せ! 殺すぞ!」
僕は振り返り様、男の顔に蹴りを入れた。男がリュックを離し後ろ向きにひっくり返る。男は僕が反撃するとは思ってもいなかったのだろう。鼻血の出た顔を抑えながら、走って逃げて行った。
僕はミネラルウォーターを買って元の柱の側に戻った。叔父役の男を見ると、相変わらず人が出てくるのを待っている。
僕は恐らく見張られていない。今の出来事でよくわかった。もし、見張られていたら、リュックを取られそうになった時点で動きがある筈だ。だけど、何もなかった。
どうしようと思ったその時、ガラス越しにどこかで見た事のある足が見えた。
あれは! まさか、そんな、何故彼がここに?
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