7 / 8
第7話 投降
しおりを挟む
頭を上げると、さっきの兵士が見下ろしていた。英語だ。
「どうした? 腹が痛いのか?」
「いいえ、大丈夫です」
「お前、さっき、売店で男に絡まれたんだって? 一撃で倒したって売店の彼女が褒めてたぞ」
兵士が売店の方に目をやる。売店の売り子のおばさんがこちらを向いてうなづいた。
僕は曖昧に笑って立ち上がった。
人がさっきより少なくなっている。観光客は皆、どこかに行ってしまったのだろう。
兵士の肩越しに叔父役の男が恐ろしい顔をしてこちらにやって来るのが見えた。
戻って来たんだ。どうしよう。
その時、閃いた。
「助けて下さい。僕、誘拐されたんです。あの黒いTシャツを着た男に。あいつは解放戦線の男です。僕のリュックには解除された爆弾が入ってるんです」
僕はスワヒリ語で小声で囁いた。
兵士は顔色を変えた。肩越しに振り向く。
叔父役の男は、事態を察したのか、走り出した。
「待て! ピーーーー!」
兵士の吹く警笛が辺りに鳴り響く。
「お前は、ここでじっとしてろ! 動くなよ」
それから、いろいろあって僕は政府軍に連行された。
僕は知ってる事を全部話した。アジトはどこか、ジャングルのどの辺りに基地があるか、軍の規模、持っている兵器、銃、弾薬、支援者、etc。
「何故、爆弾を解除しようと思ったんだ? お前は洗脳を受けていた筈だ」
尋問官は、簡単に洗脳が解ける筈がない、何か使命を帯びて投降したのではないかと疑っていた。
僕は正直に追上選手のファンだからと言った。
空港で追上選手を見かけて、あの人を絶対死なせるわけには、怪我をさせるわけにはいかないと思ったからだと話した。
僕の作った爆弾で怪我したり死なせたりしたら、僕は生きて行けない。
「追上選手? それは誰だ?」
「フィギュアスケート の選手です」
「フィギュアスケート? それはなんだ?」
「氷の上で音楽に合わせて滑る競技です」
「アフリカの片田舎に住んでいるお前が何故、フィギュアスケートなんだ?」
僕は自分の生い立ちを話した。どこでどうしてフィギュアスケートのファンになったか。
「ふーん、追上選手にファンレターを出したんだな。そんな嘘をついてもすぐわかるぞ」
「本当に出したんです。……返事は来なかったけど」
尋問官は僕の調書を見ながら、何か思いついたように言った。
「お前、出身がサバンナのンナアル村だと言ったな」
「そうです」
「解放軍に襲撃された時の様子を詳しく話せ」
襲撃があった時。
思い出そうとしたけど、急に胸が苦しくなった。
「さあ、話せ。どうした? お前が拉致された時だ! 覚えていないのか?」
僕は苦しかった。思い出すのが苦しかった。それでも思い出せと言う。辛い、辛い、辛いよう。あの時、何もかも奪われた時。
「……ヤンカ義父さんが解放軍と話して、解放軍は食料と水をよこせって。それで、……。銃で脅してきて」
僕は息絶え絶えだった。
「僕は母さんと、集会所に隠れてて、パソコンで解放軍の情報集めて、助けを呼ぼうとした、LIVE配信して、カメラ回しっ放しにして母さんと逃げて」
「LIVE配信はお前がしたんだな」
「はい、誰かに助けてほしかった」
「さあ、水を飲め。今日はここまでだ」
苦しい時間は終わった。
もう、思い出さなくていいんだ。
それから、僕は牢屋に入れられて数日を過ごした。その間、何度も何度も同じ質問を受けた。嘘発見機にもかけられた。
これからどうなるんだろう。恐らく国に強制送還されるんだろうなとぼんやりと尋問室で床に目を這わせながら待っていた。両手両足は鎖で拘束されている。
ドアが開いていつもの尋問官が入って来たのだろうと思った。だけど、気配が違う。
目を上げると、信じられない人が立っていた。
「どうした? 腹が痛いのか?」
「いいえ、大丈夫です」
「お前、さっき、売店で男に絡まれたんだって? 一撃で倒したって売店の彼女が褒めてたぞ」
兵士が売店の方に目をやる。売店の売り子のおばさんがこちらを向いてうなづいた。
僕は曖昧に笑って立ち上がった。
人がさっきより少なくなっている。観光客は皆、どこかに行ってしまったのだろう。
兵士の肩越しに叔父役の男が恐ろしい顔をしてこちらにやって来るのが見えた。
戻って来たんだ。どうしよう。
その時、閃いた。
「助けて下さい。僕、誘拐されたんです。あの黒いTシャツを着た男に。あいつは解放戦線の男です。僕のリュックには解除された爆弾が入ってるんです」
僕はスワヒリ語で小声で囁いた。
兵士は顔色を変えた。肩越しに振り向く。
叔父役の男は、事態を察したのか、走り出した。
「待て! ピーーーー!」
兵士の吹く警笛が辺りに鳴り響く。
「お前は、ここでじっとしてろ! 動くなよ」
それから、いろいろあって僕は政府軍に連行された。
僕は知ってる事を全部話した。アジトはどこか、ジャングルのどの辺りに基地があるか、軍の規模、持っている兵器、銃、弾薬、支援者、etc。
「何故、爆弾を解除しようと思ったんだ? お前は洗脳を受けていた筈だ」
尋問官は、簡単に洗脳が解ける筈がない、何か使命を帯びて投降したのではないかと疑っていた。
僕は正直に追上選手のファンだからと言った。
空港で追上選手を見かけて、あの人を絶対死なせるわけには、怪我をさせるわけにはいかないと思ったからだと話した。
僕の作った爆弾で怪我したり死なせたりしたら、僕は生きて行けない。
「追上選手? それは誰だ?」
「フィギュアスケート の選手です」
「フィギュアスケート? それはなんだ?」
「氷の上で音楽に合わせて滑る競技です」
「アフリカの片田舎に住んでいるお前が何故、フィギュアスケートなんだ?」
僕は自分の生い立ちを話した。どこでどうしてフィギュアスケートのファンになったか。
「ふーん、追上選手にファンレターを出したんだな。そんな嘘をついてもすぐわかるぞ」
「本当に出したんです。……返事は来なかったけど」
尋問官は僕の調書を見ながら、何か思いついたように言った。
「お前、出身がサバンナのンナアル村だと言ったな」
「そうです」
「解放軍に襲撃された時の様子を詳しく話せ」
襲撃があった時。
思い出そうとしたけど、急に胸が苦しくなった。
「さあ、話せ。どうした? お前が拉致された時だ! 覚えていないのか?」
僕は苦しかった。思い出すのが苦しかった。それでも思い出せと言う。辛い、辛い、辛いよう。あの時、何もかも奪われた時。
「……ヤンカ義父さんが解放軍と話して、解放軍は食料と水をよこせって。それで、……。銃で脅してきて」
僕は息絶え絶えだった。
「僕は母さんと、集会所に隠れてて、パソコンで解放軍の情報集めて、助けを呼ぼうとした、LIVE配信して、カメラ回しっ放しにして母さんと逃げて」
「LIVE配信はお前がしたんだな」
「はい、誰かに助けてほしかった」
「さあ、水を飲め。今日はここまでだ」
苦しい時間は終わった。
もう、思い出さなくていいんだ。
それから、僕は牢屋に入れられて数日を過ごした。その間、何度も何度も同じ質問を受けた。嘘発見機にもかけられた。
これからどうなるんだろう。恐らく国に強制送還されるんだろうなとぼんやりと尋問室で床に目を這わせながら待っていた。両手両足は鎖で拘束されている。
ドアが開いていつもの尋問官が入って来たのだろうと思った。だけど、気配が違う。
目を上げると、信じられない人が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる