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第7話 投降
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頭を上げると、さっきの兵士が見下ろしていた。英語だ。
「どうした? 腹が痛いのか?」
「いいえ、大丈夫です」
「お前、さっき、売店で男に絡まれたんだって? 一撃で倒したって売店の彼女が褒めてたぞ」
兵士が売店の方に目をやる。売店の売り子のおばさんがこちらを向いてうなづいた。
僕は曖昧に笑って立ち上がった。
人がさっきより少なくなっている。観光客は皆、どこかに行ってしまったのだろう。
兵士の肩越しに叔父役の男が恐ろしい顔をしてこちらにやって来るのが見えた。
戻って来たんだ。どうしよう。
その時、閃いた。
「助けて下さい。僕、誘拐されたんです。あの黒いTシャツを着た男に。あいつは解放戦線の男です。僕のリュックには解除された爆弾が入ってるんです」
僕はスワヒリ語で小声で囁いた。
兵士は顔色を変えた。肩越しに振り向く。
叔父役の男は、事態を察したのか、走り出した。
「待て! ピーーーー!」
兵士の吹く警笛が辺りに鳴り響く。
「お前は、ここでじっとしてろ! 動くなよ」
それから、いろいろあって僕は政府軍に連行された。
僕は知ってる事を全部話した。アジトはどこか、ジャングルのどの辺りに基地があるか、軍の規模、持っている兵器、銃、弾薬、支援者、etc。
「何故、爆弾を解除しようと思ったんだ? お前は洗脳を受けていた筈だ」
尋問官は、簡単に洗脳が解ける筈がない、何か使命を帯びて投降したのではないかと疑っていた。
僕は正直に追上選手のファンだからと言った。
空港で追上選手を見かけて、あの人を絶対死なせるわけには、怪我をさせるわけにはいかないと思ったからだと話した。
僕の作った爆弾で怪我したり死なせたりしたら、僕は生きて行けない。
「追上選手? それは誰だ?」
「フィギュアスケート の選手です」
「フィギュアスケート? それはなんだ?」
「氷の上で音楽に合わせて滑る競技です」
「アフリカの片田舎に住んでいるお前が何故、フィギュアスケートなんだ?」
僕は自分の生い立ちを話した。どこでどうしてフィギュアスケートのファンになったか。
「ふーん、追上選手にファンレターを出したんだな。そんな嘘をついてもすぐわかるぞ」
「本当に出したんです。……返事は来なかったけど」
尋問官は僕の調書を見ながら、何か思いついたように言った。
「お前、出身がサバンナのンナアル村だと言ったな」
「そうです」
「解放軍に襲撃された時の様子を詳しく話せ」
襲撃があった時。
思い出そうとしたけど、急に胸が苦しくなった。
「さあ、話せ。どうした? お前が拉致された時だ! 覚えていないのか?」
僕は苦しかった。思い出すのが苦しかった。それでも思い出せと言う。辛い、辛い、辛いよう。あの時、何もかも奪われた時。
「……ヤンカ義父さんが解放軍と話して、解放軍は食料と水をよこせって。それで、……。銃で脅してきて」
僕は息絶え絶えだった。
「僕は母さんと、集会所に隠れてて、パソコンで解放軍の情報集めて、助けを呼ぼうとした、LIVE配信して、カメラ回しっ放しにして母さんと逃げて」
「LIVE配信はお前がしたんだな」
「はい、誰かに助けてほしかった」
「さあ、水を飲め。今日はここまでだ」
苦しい時間は終わった。
もう、思い出さなくていいんだ。
それから、僕は牢屋に入れられて数日を過ごした。その間、何度も何度も同じ質問を受けた。嘘発見機にもかけられた。
これからどうなるんだろう。恐らく国に強制送還されるんだろうなとぼんやりと尋問室で床に目を這わせながら待っていた。両手両足は鎖で拘束されている。
ドアが開いていつもの尋問官が入って来たのだろうと思った。だけど、気配が違う。
目を上げると、信じられない人が立っていた。
「どうした? 腹が痛いのか?」
「いいえ、大丈夫です」
「お前、さっき、売店で男に絡まれたんだって? 一撃で倒したって売店の彼女が褒めてたぞ」
兵士が売店の方に目をやる。売店の売り子のおばさんがこちらを向いてうなづいた。
僕は曖昧に笑って立ち上がった。
人がさっきより少なくなっている。観光客は皆、どこかに行ってしまったのだろう。
兵士の肩越しに叔父役の男が恐ろしい顔をしてこちらにやって来るのが見えた。
戻って来たんだ。どうしよう。
その時、閃いた。
「助けて下さい。僕、誘拐されたんです。あの黒いTシャツを着た男に。あいつは解放戦線の男です。僕のリュックには解除された爆弾が入ってるんです」
僕はスワヒリ語で小声で囁いた。
兵士は顔色を変えた。肩越しに振り向く。
叔父役の男は、事態を察したのか、走り出した。
「待て! ピーーーー!」
兵士の吹く警笛が辺りに鳴り響く。
「お前は、ここでじっとしてろ! 動くなよ」
それから、いろいろあって僕は政府軍に連行された。
僕は知ってる事を全部話した。アジトはどこか、ジャングルのどの辺りに基地があるか、軍の規模、持っている兵器、銃、弾薬、支援者、etc。
「何故、爆弾を解除しようと思ったんだ? お前は洗脳を受けていた筈だ」
尋問官は、簡単に洗脳が解ける筈がない、何か使命を帯びて投降したのではないかと疑っていた。
僕は正直に追上選手のファンだからと言った。
空港で追上選手を見かけて、あの人を絶対死なせるわけには、怪我をさせるわけにはいかないと思ったからだと話した。
僕の作った爆弾で怪我したり死なせたりしたら、僕は生きて行けない。
「追上選手? それは誰だ?」
「フィギュアスケート の選手です」
「フィギュアスケート? それはなんだ?」
「氷の上で音楽に合わせて滑る競技です」
「アフリカの片田舎に住んでいるお前が何故、フィギュアスケートなんだ?」
僕は自分の生い立ちを話した。どこでどうしてフィギュアスケートのファンになったか。
「ふーん、追上選手にファンレターを出したんだな。そんな嘘をついてもすぐわかるぞ」
「本当に出したんです。……返事は来なかったけど」
尋問官は僕の調書を見ながら、何か思いついたように言った。
「お前、出身がサバンナのンナアル村だと言ったな」
「そうです」
「解放軍に襲撃された時の様子を詳しく話せ」
襲撃があった時。
思い出そうとしたけど、急に胸が苦しくなった。
「さあ、話せ。どうした? お前が拉致された時だ! 覚えていないのか?」
僕は苦しかった。思い出すのが苦しかった。それでも思い出せと言う。辛い、辛い、辛いよう。あの時、何もかも奪われた時。
「……ヤンカ義父さんが解放軍と話して、解放軍は食料と水をよこせって。それで、……。銃で脅してきて」
僕は息絶え絶えだった。
「僕は母さんと、集会所に隠れてて、パソコンで解放軍の情報集めて、助けを呼ぼうとした、LIVE配信して、カメラ回しっ放しにして母さんと逃げて」
「LIVE配信はお前がしたんだな」
「はい、誰かに助けてほしかった」
「さあ、水を飲め。今日はここまでだ」
苦しい時間は終わった。
もう、思い出さなくていいんだ。
それから、僕は牢屋に入れられて数日を過ごした。その間、何度も何度も同じ質問を受けた。嘘発見機にもかけられた。
これからどうなるんだろう。恐らく国に強制送還されるんだろうなとぼんやりと尋問室で床に目を這わせながら待っていた。両手両足は鎖で拘束されている。
ドアが開いていつもの尋問官が入って来たのだろうと思った。だけど、気配が違う。
目を上げると、信じられない人が立っていた。
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