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命の終わりとはじまり
★ 死に星たちの世界
しおりを挟むお化けがゲロを吐いたような空だ。私はぼやけた頭でそう思った。赤と黒、紫のマーブル色の空が私の前に浮かんでいる。
ここは地獄?それとも夢?体はふわふわと浮いているように軽い。どうでもいい。とにかくずっとこのままこうして、二度と起き上がりたくない。
また目を閉じようとした時、どこからともなくズモモモと地面から何かがうごめく音と感触がした。私は飛び起きる。
「ひっ……!」
股の間の地面がひび割れ、黒い蛇のような物体が一気に突き出てきた。
「ぎゃっ!」
素早く後ずさりをする。怖い、気持ちが悪い!ウヨウヨとうねるそれは蛇じゃなかった。ただ真っ黒い表面がつるつるとした触手。私は生理的な嫌悪感で、吐き気がした。
「な、なんなのこれ。きもっ」
触手は、先端の丸みを帯びた部分を私に向けた。それから、意思を持っているかのようにこっちに向かってきた。
「ひいい!!やだ!」
――星子。
頭の中ではっきりと、私の名を呼ぶ声を聞いた。
この声は確かにどこかで聞いた事がある。
「誰!?」
――僕は君の……。今はそんなことはどうでもいい。近くに黒い星が落ちているだろう?それに触れてくれないか。
「黒い星?」
――うん。
嫌だ、と本能は叫んでいた。でも今はそんな暇はないし、この脳内に話しかけてくる声に従うしかない。後ろを振り向くと、錆びた黒い星が半分だけ地面に埋もれていた。渾身の力で腰を上げて、黒い星の方に向かって這いずるように駆けてく。黒い触手は間一髪で避けたみたいだ。
ほとんど転びながら埃まみれになって、黒い頭の角に、伸ばした手の先でタッチした。
――ありがとう。星子。これで僕はまた生まれ変われる。
その瞬間、黒い星は地面からズプズプと持ち上がって姿を現した。それから全身にミミズのような管が浮き上がり、どくどくと心臓のように脈打たせた。星の内部からボウッと暖かな光が灯りはじめて、辺り一面を一瞬にして照らした。私は目がくらんで、瞼を閉じた。
「ウッ」
――いい子だね。
優しい声は言った。私は真っ白な光に飲み込まれ、体が宙に浮かぶ。
「何これ?」
さっきの星も見当たらない。
――たった今僕と君はリンクした。
「リンク?って……ええ!?」
私は体の周囲にモヤがかかっていくのを見下ろした。セーラー服はなにか特別な力で剥ぎ取られ、裸になる。でも不思議と恥ずかしさは感じない。
人生で一度も肩から下までは伸ばしたことのない髪が、腰の方まで一気に伸びた。私の体、どうなってるの。
網タイツを履いた右足に、スリットが入った真っ赤なタイトスカート。黒地のタートルネックに胸の谷間が空いた服。普段の私なら絶対に選ばないような派手な服装だった。服装……というよりコスプレ?頭の髪飾りにおそるおそる触ってみると、それは星の形をしているようだった。
――それが僕だよ、星子。僕はたった今、君の一部になった。
「は、はぁ?」
問いかける間もなく、黒い触手はまた私を目がけて容赦なく襲いかかってきた。
「いやっ!」
私は頭を庇って座り込む。
――とりあえず説明は後でする。さあ、星子。君の命で、目の前の敵を倒そう。
「そんな、な、なんで私が?」
気持ち悪すぎて、目に入れるのも嫌だ。虫を見た時の嫌悪感に似ている。心臓が輪ゴムで縛られたみたく、気持ち悪い。
――見なくても大丈夫。妄想して。奴を殺す妄想を。一番嫌いな奴を想像すればいい。
一番嫌いな奴……?とにかく私は考える前にやった。目を閉じながら嫌いな奴を脳みその中で――殺した。ぐちゃり。生肉を刺すような柔らかな感触がする。片目をめちゃくちゃ薄く、開いてみた。いつの間にか目の前の触手を、私はナイフで刺していた。
――うん星子。よく出来ました。
優しく、温かい声が私の内側を全て抱きしめてくれたように思えた。心臓が熱い。それはとても、心地よく懐かしかった。
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