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第二章 フカフカな日々
しっかりな一日・その八
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シーマ十四世殿下一行は、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」が映し出した緊急事態に、ちょっとうろたえていたのだった。
「姫子さんがいなくなってしまうなんて……、いったいなにが……」
絵美里が不安げに呟くと、はつ江が画面を指さして首をかしげた。
「シマちゃんや、『にこにこよい子ボード』で、姫子ちゃんの居場所を見つけられないのかい?」
はつ江の問いかけに、シーマは片耳をパタパタと動かした。
「分かった、やってみよう……、ん?」
不意に画面の映像がぐにゃりと曲がり、シーマの尻尾の先もクニャリと曲がった。それから、画面には無表情な創の顔が映し出された。
「あれまぁよ、今度は創さんが映ったね」
「創さんにも、なにかあったのでしょうか……」
「まだ分かりませんが……、ちょっとこのまま見てましょう」
三人が食い入るように画面を見つめていると、創は口を開いた。
「手荒なまねをしてしまって、すみません、姫子さん」
「あれまぁよ!?」
「な、なんだって!?」
「えぇぇ!?」
創の言葉に三人は声を上げた。しかし、創にその声が聞こえた様子はない。
驚く三人をよそに、画面のカメラアングルが変わり、不安げな表情を浮かべて向かい合う姫子と、あたりの風景が映し出された。
「ここは……、病室か?」
「たしかに、病院っぽいねぇ」
「病室、ですか……」
三人が混乱していると、姫子がおどおどおした様子で首を横に振った。
「い、いえ……、突然車に乗せられたので驚きましたが、ケガをしたわけではないので、大丈夫です」
「そういっていただけると、助かります」
二人のやり取りを見て、はつ江がコクコクとうなずいた。
「ほうほう、誘拐されたわけじゃないなら、よかっただぁよ」
「いや……、同行者に連絡もなく突然車に乗せられた時点で、じゅうぶん誘拐なんじゃないか?」
「たしか『誘拐』には、『騙して誘いだすこと』という意味もあるので、創さんの場合は『連れ去り』が妥当なんでしょうか……?」
三人が誘拐の定義について話していると、画面の中の姫子がおどおどとした様子で口を開いた。
「でも……、明さんが心配しますし、早くもどらないと……」
「すみませんが、それはできません」
「なぜ、ですか?」
姫子が問いかけると、創は側にあったベッドを覗き込んだ。すると、画面のカメラアングルがまた切り替わり、点滴やその他の管につながれた、絵美里の姿が映し出された。その姿は、魔界での姿より、歳を取っていた。
「絵美里の話は、明から聞いていますね?」
「……はい」
創の問いかけに、姫子がコクリとうなずく。
「あの子には会わせていませんが……、絵美里はずっとここにこうしていました」
「そう、ですか……」
「はい。絵美里は呼吸をして、心臓を動かし、生きているんです。ただ、こちらの呼びかかに、反応をしないだけで」
創の言葉に、絵美里が画面から目を反らした。シーマとはつ江が声をかけあぐねえていると、創は言葉を続けた。
「絵美里の意識を取り戻すために、様々な実験や研究をしました。荒唐無稽なオカルトめいたものも、含めて。その結果、ある仮説にたどり着いたんです」
「仮説、ですか?」
「はい。絵美里の意識……、魂といった方がいいかもしれませんが……、ともかく、それは肉体とは離れた遠い場所にいるのだと」
「遠い場所……」
「ええ。しかし、その正確な場所は分からず、絵美里の魂を取り戻す方法も、分からずにいました。昨夜までは」
「え……、あの……、昨夜なにがあったのですか?」
「彼女の唇が動いたんです。不随意な動きではなく、はっきりと言葉を読み取れるくらいに」
「お義母さまは、なんて……?」
「愛しい人よ、もう泣かないで、私たちはここにいるから、と」
創の言葉を聞いて、シーマはフカフカの手をポンと打った。
「ああ、そうか。音楽祭の歌が届いたのか」
「ほうほう、バスちゃんたちが頑張って作った歌が届いてくれてよかったねぇ」
「創さん……」
画面の外にいる三人の話に気づくこともなく、創は横たわる絵美里の髪をなでた。
「それから、一睡もせずに作業をして、絵美里の魂がいる場所と、そこに到達する方法がようやく解明できました」
「それでは、再会することができるんですね?」
「ええ。ただし、いまの私では、肉体ごと彼女のいる場所に移動することはできません」
「なら、いったいどうやって……?」
「肉体から切り離し、魂だけで彼女の元に向かうんです」
創の言葉に、姫子の顔が青ざめていく。
「え……、それって……」
創は絵美里の髪をなでたまま、コクリとうなずいた。
そして――
「はい。自ら命を絶つことが、一番簡単な方法です。それを今夜、実行します」
――表情一つ変えずに、そう言い放った。
当然のことながら、画面の外側では――
「な、なんだってー!?」
「あれまぁよ!?」
シーマとはつ江が、目を見開いて驚き――
「そ、んな……」
――絵美里が膝から床に崩れ落ちた。
かくして、仔猫殿下とはつ江ばあさんは、百三十五話くらいの中で暫定一位くらいの、かなり緊迫した状況を迎えることになったのだった。
「姫子さんがいなくなってしまうなんて……、いったいなにが……」
絵美里が不安げに呟くと、はつ江が画面を指さして首をかしげた。
「シマちゃんや、『にこにこよい子ボード』で、姫子ちゃんの居場所を見つけられないのかい?」
はつ江の問いかけに、シーマは片耳をパタパタと動かした。
「分かった、やってみよう……、ん?」
不意に画面の映像がぐにゃりと曲がり、シーマの尻尾の先もクニャリと曲がった。それから、画面には無表情な創の顔が映し出された。
「あれまぁよ、今度は創さんが映ったね」
「創さんにも、なにかあったのでしょうか……」
「まだ分かりませんが……、ちょっとこのまま見てましょう」
三人が食い入るように画面を見つめていると、創は口を開いた。
「手荒なまねをしてしまって、すみません、姫子さん」
「あれまぁよ!?」
「な、なんだって!?」
「えぇぇ!?」
創の言葉に三人は声を上げた。しかし、創にその声が聞こえた様子はない。
驚く三人をよそに、画面のカメラアングルが変わり、不安げな表情を浮かべて向かい合う姫子と、あたりの風景が映し出された。
「ここは……、病室か?」
「たしかに、病院っぽいねぇ」
「病室、ですか……」
三人が混乱していると、姫子がおどおどおした様子で首を横に振った。
「い、いえ……、突然車に乗せられたので驚きましたが、ケガをしたわけではないので、大丈夫です」
「そういっていただけると、助かります」
二人のやり取りを見て、はつ江がコクコクとうなずいた。
「ほうほう、誘拐されたわけじゃないなら、よかっただぁよ」
「いや……、同行者に連絡もなく突然車に乗せられた時点で、じゅうぶん誘拐なんじゃないか?」
「たしか『誘拐』には、『騙して誘いだすこと』という意味もあるので、創さんの場合は『連れ去り』が妥当なんでしょうか……?」
三人が誘拐の定義について話していると、画面の中の姫子がおどおどとした様子で口を開いた。
「でも……、明さんが心配しますし、早くもどらないと……」
「すみませんが、それはできません」
「なぜ、ですか?」
姫子が問いかけると、創は側にあったベッドを覗き込んだ。すると、画面のカメラアングルがまた切り替わり、点滴やその他の管につながれた、絵美里の姿が映し出された。その姿は、魔界での姿より、歳を取っていた。
「絵美里の話は、明から聞いていますね?」
「……はい」
創の問いかけに、姫子がコクリとうなずく。
「あの子には会わせていませんが……、絵美里はずっとここにこうしていました」
「そう、ですか……」
「はい。絵美里は呼吸をして、心臓を動かし、生きているんです。ただ、こちらの呼びかかに、反応をしないだけで」
創の言葉に、絵美里が画面から目を反らした。シーマとはつ江が声をかけあぐねえていると、創は言葉を続けた。
「絵美里の意識を取り戻すために、様々な実験や研究をしました。荒唐無稽なオカルトめいたものも、含めて。その結果、ある仮説にたどり着いたんです」
「仮説、ですか?」
「はい。絵美里の意識……、魂といった方がいいかもしれませんが……、ともかく、それは肉体とは離れた遠い場所にいるのだと」
「遠い場所……」
「ええ。しかし、その正確な場所は分からず、絵美里の魂を取り戻す方法も、分からずにいました。昨夜までは」
「え……、あの……、昨夜なにがあったのですか?」
「彼女の唇が動いたんです。不随意な動きではなく、はっきりと言葉を読み取れるくらいに」
「お義母さまは、なんて……?」
「愛しい人よ、もう泣かないで、私たちはここにいるから、と」
創の言葉を聞いて、シーマはフカフカの手をポンと打った。
「ああ、そうか。音楽祭の歌が届いたのか」
「ほうほう、バスちゃんたちが頑張って作った歌が届いてくれてよかったねぇ」
「創さん……」
画面の外にいる三人の話に気づくこともなく、創は横たわる絵美里の髪をなでた。
「それから、一睡もせずに作業をして、絵美里の魂がいる場所と、そこに到達する方法がようやく解明できました」
「それでは、再会することができるんですね?」
「ええ。ただし、いまの私では、肉体ごと彼女のいる場所に移動することはできません」
「なら、いったいどうやって……?」
「肉体から切り離し、魂だけで彼女の元に向かうんです」
創の言葉に、姫子の顔が青ざめていく。
「え……、それって……」
創は絵美里の髪をなでたまま、コクリとうなずいた。
そして――
「はい。自ら命を絶つことが、一番簡単な方法です。それを今夜、実行します」
――表情一つ変えずに、そう言い放った。
当然のことながら、画面の外側では――
「な、なんだってー!?」
「あれまぁよ!?」
シーマとはつ江が、目を見開いて驚き――
「そ、んな……」
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