婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。

鯨井イルカ

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心温まるおとぎ話・二

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 さて、王子様に意外なことを言われて面食らっていた彼女でしたが、予想外な言葉はさらに続きました。

「君は僕たちのことを退治人に売りにきたんでしょ?」

 なんと、計画はバレてしまっていたのです。それなら、見逃してもらえる理由はありません。

 きっと今すぐに頭が身体からさようならしてしまうことになるんだろうなぁ。

 などと考えていると王子様は慌てはじめました。

「ごめん! 怖がらせようとしたわけじゃないんだ!! さっきも言ったとおり僕は君の味方だから」

 再び先ほどの言葉が繰り返されました。どうも釈然としませんが嘘を言っているようにも見えません。

「君への協力は惜しまない。だから安心して」

 そう告げる穏やかな笑顔を見ているうちに彼女はだんだんと腹が立ってきました。

 そんなに味方だと言うのなら母を返せ。

 自然と結構なきつい口調でそんなことを言っていたと思います。すると、王子様はどんどん寂しそうな顔になっていきました。

「……ごめん。それは間に合わなかったんだ」

 間に合わなかった、という言葉がひっかかりましたが予想通りの言葉が返ってきました。きっと母親はすでに食卓に上がっていたのでしょう。

「ただ、顔を見ることだけはできるけどどうする?」

 しかし、帰ってきた言葉は予想外なものでした。再び釈然としない表情を浮かべていると、王子様はまた苦笑いを浮かべました。

「僕たちは、ほら、人間を色々と管理・・することが得意だからさ」

 ……そう。
 母は彼らの口には合わず食材にされることはありませんでした。

 そのかわり、速やかに加工・・され召使い・・・として城でずっと働かされていたのです。

「母がもとに戻ることはないんですよね」

「……ごめん」 

「なら、速やかに解放してあげてください」

「……うん。ごめん」

「謝るくらいならこの場で塵に帰ってください。この状況でバケモノの貴方が私の味方だと言うならそのくらいできるのでしょ?」

 今思えばあやかしを前にこんなことを言うなんて、自棄になっていたのでしょう。さっさと全てを終わらせてしまいたかったですから……。

 おっと、さっきからまた地の文が一人称的になってしまっていましたな!!
 私はあくまで語り部でした!!
 あくまでも中立、中立、ですぞ!!

 そんなこんなで頭が身体からさようならすることを覚悟して挑発をした彼女でしたが、またしても頭と身体はつながったままでした。だからといって王子様がすぐに塵に帰ってくれたわけではありません。

「そうしてあげたいところではあるんだけどね、僕らは簡単には死ねないんだ」

「……ああ、そうでしたね」

 あやかしがずっと村を収めていた理由。それは人間にも利があったからだけではありません。

 単純に退治の仕方が分からなかった。
 それが一番の理由でした。

 だからこそ、彼女は城に潜入してその方法を探っていたのですから。

「とはいっても、父様と母様はわりと簡単なほうだよ。愛している者と同時に火をつければいいだけたから」

 王子様はすんなりと王様とお妃様の退治の仕方をおしえてくれました。どうらや、味方だという発言は本心のようです。

「なら、貴方は?」

 そう尋ねるとなんとも複雑な表情が返ってきました。

「それが、すごく厄介な方法でね」

「厄介?」

「うん。えーとね『僕が愛した者が愛した者の骨で胸を貫く』っていう」

「なにそれ面倒臭い」

 予想以上に厄介な条件に思わず本音をこぼしてしまいました。

「本当にそうだよね。ちなみにさ」

 そう言うやいなや目の前の表情はとても真剣なものに変わりました。

「君が僕のことを愛してくれれば一番被害を出さずに条件を達成できるんだけど、どうする?」

「……初対面の人間がその条件に合致するなんて、随分と節操のないものですね」

「あはは、まったくだよね。でも他に僕を塵に帰す方法なんて、寿命を迎えることくらいしかないからさ」

 そう言われても、家族の命を弄んだものたちを愛せるとは到底思えません。

 まあ、あとになって加工を施したのは王様で彼は直接関わっていなかったことを知るのですが、それは今おいておきましょう。

 ともかく気乗りはまったくしませんでしたが、退治人協会のやつらからは城の面々を殲滅するための情報を求められています。

 一体でも取り逃がす可能性があるのなら、難癖をつけられて処分されてしまうことは避けられません。


「もしも君が僕を塵に帰してくれるって約束してくれるなら、全てが終わったあと無事に逃げられるようにしてあげるから」

「……」

「一度でいいから、僕も誰かに愛されてみたいんだ」

 そう言う顔は笑っていましたがやっぱりとても悲しそうなものでした。

 まあ種族が違えど話が通じる相手ですからね。多少の同情を感じたのも嘘ではありません。

「……退治人たちがやってくるのは次の春です」

「……うん。そうみたいだね」

「それまでに条件を達成できなければ、処理はすべて退治人たちに任せますから」

「それで構わないよ……、ありがとう」

 王子様の笑顔は相変わらず悲しそうなままでしたが、どこか安堵しているようにも見えました。

 そんなこんなで彼女は、王子様を殺すために王子様を愛せるようなる、という実に面倒臭い目標を掲げるはめになってしまったのでした。
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