すれ違いアブダクション

白玉しらす

文字の大きさ
3 / 5

第三話

しおりを挟む
 気がつくと、私は家の前に立っていた。
 二階建ての小さなコーポだ。
 ちゃんと服も着ているし、見たところ乱れた所もない。手枷も、外されている。

「丈さん?」
 私はさっきまで目の前にいた人の名前を呼ぶ。
 静かな夜の住宅街に、私の声だけが響いた。
「丈さん!」
 キョロキョロと見渡しても、どこにも求める人物の姿は無かった。
 私は呆然と、その場に立ち尽くした。


 結局、私が丈さんに会える事は無かった。
 釣り目がちな顔に、骨太で鍛えられた身体。
 片方の口の端だけを上げて笑うのが癖で、多分『大丈夫』も口癖。
 何しろ『大丈夫の丈』なのだ。
 いくつかの特徴と、名前しか知らないその人を、どうやって探せばいい?
 そもそも、あれは本当にあった出来事なんだろうか。

 一ヶ月も過ぎれば、私の中ではあれは夢だったんだと言う思いが強くなっていた。
 あんな風に優しく愛されたいと言う、私の願望が見せた夢。
 エッチ過ぎるのが気になるけど、私が思っているより、私は欲求不満なのかもしれない。
 あれからもう、五年か……
 いつまでも引きずっていてはいけないと思うから、あんな夢を見たのかもしれない。
 もしまた恋をするなら、あんな人を好きになるんだろうか。


 気がつくと、私は真っ白な部屋の中にいた。
 会社からの帰宅途中、普通に道を歩いていたはずなのに、気がつくとまた、ここにいた。
 柔らかな台の様な物に、裸で寝かせられていた。
 人の気配に隣を見ると、目を見開き驚く顔があった。
 私と視線が合うと、その人は口の端を片方だけ上げて笑った。

「チサ」
「丈さん」
 二人の声が重なる。
「会いたかった」
「会いたかった」
 再び声が重なり、私達は何も言わずに抱きしめあった。

「んっ……はっ……んんっ……丈、さん……」
 お互い求め合うように口づけを交わし、熱のこもった視線を絡ませていると、丈さんは急に難しい顔をした。
「すまない、我慢出来なかった。いや、今もまだ我慢出来てない」
 そう言うと丈さんは私をきつく抱きしめ、話を続けた。
「その、身体は、大丈夫だったか?」
 何も付けずにしてしまったから、色々気にしてくれているんだろう。
「大丈夫、です」
「そうか」
 私の言葉に、丈さんは優しく背中を撫でた。
「今日は、手錠は無いんだな」
「残念ですか?」
 あれのせいで、私は発情と言っていい程感じてしまっていた。
「嬉しいに決まってるだろ。チサに、抱きしめられているんだからな」
 丈さんは口の端を上げて笑うと、私にキスをした。
 唇だけ触れるキスを何度かしている内に、舌が差し込まれる。
「んっ……んんっ……んっ……」
 手枷が無くても、丈さんに抱きしめられ、キスをするだけで、私の身体は蕩けてしまう。
 
「駄目だ、チサを見るとしたくなる」
「私も、したいです」
 耳元で囁かれて、思わず同意してしまう。
 丈さんは更にきつく私を抱きしめた。
「そんな事を言われたら、我慢出来ないだろ」
「私は、もうとっくに……」
「それ以上言うな。まずは連絡先を教えろ」
 少し怒ったような声でそう言うと、丈さんは小さく呟いた。
「もう、会えないのは嫌だ」
 ああ、そうだ。いつまた元の場所に戻るか分からない。
 このまま戻ってしまえば、もう丈さんとは会えない。
「連絡先さえ分かれば、戻ってからもまた会えるだろ?愛し合うのは、それからだ」
 丈さんは口の端を上げて笑った。


 二人で必死に携帯の番号を覚え、何度も復唱しあう。
「よし!」
 丈さんは満足げに笑うと、私に覆いかぶさり見下ろしてきた。
「チサの事をもっと知りたい。でも、まずは」
 それだけ言うと、丈さんは耳元に顔を寄せ、舐めるようにして囁いた。
「チサが欲しい」
「私も、丈さんが欲しい」
「好きだ、チサ」
 私もと言う言葉は、口を塞がれて言えなかった。

「んっ、んんっ……んっ……あっ……」
 舌を絡ませながら、丈さんは私の身体を弄る。
 胸を揉み、割れ目をなぞり、時折乳首とクリトリスを刺激する。
 私は心地良い快感の波に溺れていた。
「チサ」
 丈さんは、私の名を呼ぶと指を中に差し入れた。
「手錠が無くても、トロトロだ」
「やっ、あっ……ああっ……」
 ぐちょぐちょと抜き差しされて、勝手に腰が揺れてしまう。
 丈さんはそんな私の様子を、指を動かしたまま目を細めて見つめると、私の乳首に吸い付いた。
「あっ……丈、さんっ……あんっ……ああっ……」
 私は足の指先をピンと伸ばしてイッてしまった。

「ダメだ。もう、挿れたい」
 丈さんは私に抱きつくと、硬くて熱いものを押し当ててきた。
「んっ……来て、ください……」
「チサ……」
 丈さんが口の端を上げて笑い、私を見下ろすと、突然壁が光りだした。
「なんだ?」
 私達は突然の変化に戸惑い、壁を見つめる。
 壁の一面が光る文字で埋められ、瞬くように光っている。
 アルファベットや、アラビア文字だろうか、とにかく色んな種類の文字が白い壁に黄色っぽく光っていた。

「いい所で……」
 丈さんは身体を起こして壁を見つめている。
 私も読める所が無いか、順に目で追う。
 『内射』『creampie』『中出』『internal』
「膣内射精……」
 私の呟きに、丈さんが私を見た。
「これは、中に出せ、と言う事か?」
「私に、聞かれても……」
 壁一面の文字は、多分全て同じ事を意味しているんだろう。
「前は、外に出したからな……」
「やり直せと言うことでしょうか」
 外に出すのは、正しい性交渉とは言えないのだろう。
 私達をここに連れてきた存在は、正しい繁殖行動が見たいのかもしれない。

「やらないと、戻れないのか?」
「そうかも、しれませんね」
 私達は無言で見つめ合う。
 丈さんと会うのはこれが二回目で、やはりまだ、名前ぐらいしかお互いの事を知らない。
「チサ、復唱」
「え?」
「俺の携帯番号」
 丈さんの突然の言葉に、戸惑いながら11桁の数字を口にする。
 丈さんもスラスラと私の番号を告げて、それは間違っていなかった。
「よし……チサ、責任は取る」
 丈さんはそう言うと、私を押し倒した。
「取らせてくれ」
 真剣な顔で私を見つめ、丈さんは私の返事を待っている。
「お願い、します」
 私がそっと抱きつくと、丈さんは口の端を上げて笑った。

「あっ、んっ……丈さんっ……ああっ、丈さんっ……」
 奥まで突き刺すように腰を打ち付けられて、私は丈さんに抱きすがる。
「大丈夫……大丈夫だ、チサ」
 丈さんはなだめる様にキスをすると、腰の動きを弱めた。
「あっ、ふっ……あんっ……」
「出すのが、もったいないな」
 そう言うと、丈さんはクリトリスをグニグニと押してきた。
「やっ、ああっ……だ、めぇっ……」
 私の腰は小刻みに動き、イキそうになる。
「チサ、好きだ」
 丈さんは苦しそうな顔で呟くと、また激しく腰を打ち付けてきた。
「あっ、んっ……ああっ……イッちゃうっ……あああっ!」
「くっ、うっ……チ、サ……」
 丈さんの身体がビクビク揺れて、熱いものが中に注がれる。
「あっ……ああっ……」
 気持ち良くて、幸せで、丈さんが好きで、好きと言って貰えて嬉しくて。
 色々な想いが渦巻いて、私の目からは勝手に涙が溢れてしまう。
「電話、するから」
 覆いかぶさるように抱きつく丈さんの呟きを最後に、私の意識は途切れた。


 気がつくと、私はまた家の前に立っていた。
 見渡しても丈さんの姿は無いけれど、もう不安になったりしない。
 幸せの余韻に頬を緩ませながら、私はスマホを取り出して11桁の番号をタップした。
 大丈夫。何度も確認したから、ちゃんと覚えている。
 通話ボタンをタップすると、暫くの無音の後、アナウンスが流れた。

『お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

「え?」
 何度掛け直しても同じアナウンスが流れて、私は血の気が引いた。
 覚え間違えてしまったんだろうか。
 それとも、丈さんが間違えたんだろうか。
 何日か経ち、やはり電話は繋がらなくて、私はもう一つの可能性に思い至る。
 わざと、違う番号を教えたのかもしれない。
 丈さんは、私とは連絡を取りたくなかったんだろう。
 だって、どれだけ待っても、丈さんからの電話が掛かってくる事は無かったのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...