キルミー、ダーリン?

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第一部 キルミー、ダーリン?

僕らは、死ぬために産まれてきた

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 僕らは、死ぬために産まれてきた。この機械都市ミッドガルでは戦争こそが僕らの唯一の存在理由であり、勇敢に戦い、死ぬことこそが最上のな生き方だ。僕らはそう教えられて生きてきたし、きっと誰もが心からそう信じて今日も戦争のための準備期間じんせいを送っていることだろう――僕以外は。
 僕は欠陥品だ。誰もが何かしらの役割を持って――戦争の道具として役に立つように製造つくられたのに、僕だけはこの永遠に続く戦争にも、死後約束されるという神々の住む家――ヴァルハラ――にも何一つ興味が持てなかった。
 だから僕は前線で戦うための人型兵器、神造少女アーシニュアの適性試験にも落第してしまったし、まもなく戦闘が開始するということを告げる甲高い警報音も無視して、ビルの屋上で空をぼんやりと眺めていた。
 「死んだっていいんだよな……」
 僕は知らぬ間にそう呟いていた。そう、別に僕が死んだって構わない。だって僕は戦争の役に立たない出来損ない、世界というパズルに嵌まることのできない一つのピースに過ぎないのだから。
 間もなく戦闘が始まる。もしかしたら流れ弾や瓦礫が脳天に直撃して、僕の十四年の長い人生はあっけなく終わりを告げるだろう。別に構わない。そんなの誰も気にしやしないのだから。僕を含めて。

 「こーらー!優、こんなとこで何ぼーっとしてんの!」
 仰向けになって空を見つめていた視線を下げると、ちょうど僕の広げた足先あたりの位置に、愛がいた。
 「戦闘なんだよ!?早くシェルターに避難しないと、戦いもせずに死んじゃうんだからねー!」
 そう言うと愛は僕の体を強引に引きずるようにして起こし、手を痛いくらいに強く握って、僕をシェルターへ誘導しようと試みる。
 まあ、いいか。生きる理由がないということは、死ぬ理由もないということだ。僕がここで意固地になって愛の手を振りほどこうとすると、運が悪ければ愛も戦禍に巻き込まれて命を落としてしまうかもしれない。いくら役立たずの僕でも、人を巻き込むのは更に最低だ。とりあえず今日は生きることにしよう。
 「優はあたしと一緒にヴァルハラに行くんだから!約束なんだからね!だから次の試験に受かって、一緒に戦えるまで生きてもらわなきゃ、あたしが困るって言ってるでしょ!」
 「あーはいはい、約束ね、約束……」
 昔はそんなこともあったな。何しろその時の僕は戦うということも死ぬということも理解していなかったのだ。何も分からないままただなんとなく自分もみんなと同じような戦士になれると信じていた。物心もつくかつかないかという歳にした約束だ。破ったところで罰は当たらないだろうけど、それを言うと愛はいつもうつむいて黙りこくったまま涙を瞳に溜め込むのだった。そんな愛は見たくない。
 このままシェルターに向かって生き延びよう。そしていつか死ぬ日までこの無意味で退屈な人生を生きよう。僕はそう思っていた。までは。
 
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