剣と魔法の世界になったので未踏破ダンジョンを攻略する探索者になりました

5話

「師匠、魔道具って何ですか？」

　装備屋を出て魔道具屋へと向かう道中。
　魔道具について知らなかった俺は、師匠に質問をした。
　剣と魔法なファンタジー世界になってから、多くのものが誕生したけど、魔道具は聞いたことが無かった。

「魔法の力を持った道具のことだな。あたしたちのような探索者が主に使う道具だ」

「冒険者じゃなくて探索者が使う？ どう言うことですか？」

　師匠はやれやれと言いながらも、説明を続けてくれる。
　何も知らない俺に対して、優しく教えてくれた。

「魔道具ってのは便利だが、コストが高いのさ。強力なスキルを持つ冒険者なら魔道具を買うより、仲間を増やした方が良いってことよ」

　魔道具は、ダンジョンに潜るのには便利だけど、その分費用も高いらしい。
　しかも、一回買えば良いわけではなくて、使い捨てのものもある。
　そのため、力のある冒険者がわざわざ買うようなものではないらしい。

　だけど、俺たちのような強力なスキルを持たない人にとっては、有難い道具だ。
　コストはかかるけれど、探索者としてやって行くには必要不可欠なのだと、師匠から聞いた。

「まぁ、詳しいことは中に入ってからだな」

　話ながら歩いていると、魔道具屋へと着いた。
　あまり大きな店ではなく、個人経営のようだ。
　そんなことを考えていると、なんだか落ち着かないような気分になってくる。

　あまり強い感覚ではないけど、【危機察知】が反応しているようだ。
　目の前にあるのは魔道具屋だけで、危険なものは特に見当たらない。

「あの師匠、俺のスキルが反応してるんですけど......」

「透のスキルは面白いな。それは魔道具屋の中の危険を教えてくれてるんだな。危ないから気になっても触るんじゃないぞ」

「は、はい......」

　どうやら、魔道具屋の中にある魔道具が危険らしい。
　まだ店に入ってすらいないのにスキルが反応するってどれだけだよ。
　そう思いながら、魔道具屋の中へと入った。

　店内に入ると、よく分からない見たこともないようなものがたくさん置かれていた。
　危険物取扱注意と書かれている所もあり、【危機察知】もその場所が反応しているようだ。
　だけど店内は不思議と、どこかで見たような作りになっている。

「おう、いらっしゃい。弟から話は聞いてるよ」

「えっ？」

「知ってるから話は早い。安くしてくれよ」

　店から出てきたのは、装備屋にいた店主とそっくりなおじさんだった。
　似過ぎていたので驚いたけれど、弟と言うことは兄弟なのだろう。

「自由に見て回りな」

「そうするつもりだよ」

　ここでも師匠と店主は知り合いらしく、話はそれだけで終わった。
　それだけ言うと、店主は店の奥の方へと行ってしまう。
　探索者の人口が少な過ぎて、業界の人は全員顔見知りなんだろうか。

「いろいろな魔道具が置いてますね」

「珍しいものもあると思うが、迂闊に触るなよ」

　師匠が店に入る前にした注意を思い出した。
　ここには、【危機察知】が反応するだけの危険がある。
　実際に商品を見ると、触る際は注意した下さいと書いてあるものが多い。

「透、そう構えるなって。触っても大丈夫なものもあるぞ」

　そう言って師匠は、商品が置かれている場所から何かを取った。
　それは丸型の魔道具だ。

「何ですか、それ」

「これは広がる君だな」

「広がる君？」

「まぁ、見てな。これをこうして、と」

　師匠はそう言うと、広がる君と言う魔道具を弄り始めた。
　 弄り終えた後で、師匠は広がる君を目の前に放り投げる。
　すると、広がる君は膨張してウニのような栗のトゲのような形になった。

　人がその場にいたら、無事では済まないだろう。

「これはな、ダンジョン内で使うことを想定されてるんだ。狭いダンジョンで使えば、トゲが壁に刺さってモンスターが近付かないように出来る」

　師匠は広がる君の使い方を説明してくれた。
　確かにこれを使えば、モンスターが近付かないように出来るかもしれない。
　しかし、これが自分に当たったら怪我では済まないだろう。

「けどこれ、めちゃくちゃ危ないですよ」

「そのためのロック機能だ」

　そう言うと、さっきのとは別の広がる君を手に取った。
　それを俺に見せながら、説明をしてくれる。

　どうやら広がる君には、ロック機能があって誤作動しないようになっているらしい。
　丸型の魔道具の横には、ロックがあってそれを外す。
　その後で、左右に捻って投げることで使えるようになるらしい。

「まぁ、魔道具なんてものはどれも危ないからな。だから正しい使い方を知ることが大切なんだ」

「そう言うもんなんですね」

　師匠はその後も説明を続けてくれた。

「広がる君は緊急用の魔道具だな。魔力を流さなくても良いけど、強いモンスターには足止めにもならない」

「これって使えばモンスターが来るのを防げるかもしれないですけど、退路無くなりませんか？」

「んー、そこは使い方次第だな。それに、広がる君は時間経過で小さくなる魔道具だ」

　魔道具には、使い捨てと再利用出来るものがある。
　広がる君は、後者の魔道具らしい。
　それに、魔力を流さなくても良いので、探索者から良く使われているみたいだ。

「財布にも優しいですね」

　再利用出来るのは、有難い。
　ただでさえ高い魔道具を、初心者は何個も買うことは出来ない。
　ネーミングセンスは正直良いとは言えないけど、性能は文句なしだ。

　これなら、俺みたいな戦闘系スキルを持たない人でも安心してダンジョンに潜れる。

「値段は高いけど、初心者は買った方が良い魔道具だな」

「確かにそうですね......」

　値札を見ると、一個数万円程度と決して安くはない。
　だけど、危険なダンジョンを潜るなら持っておくべきだろう。

「ここにいたのは二人とも」

　俺と師匠が広がる君について語っていると、店主が奥から出てきた。
　その手には、何か魔道具を持っているみたいだ。

「なんだそれ？」

「新作の魔道具だ」

「まーた作ったのか。使い方教えてくれ」

　どうやら、店主が持って来たのは新作の魔道具らしい。
　形状は先ほどの広がる君と異なり、棒状のようだ。

「これは防ぐ君だ。折り畳み傘を応用した魔道具で、開くことで使える。開くと傘のようになって、そこに魔力を流すことでシールドになるんだ」

　店主は、そう言って防ぐ君と言った魔道具を開いた。
　それは、傘の持つ部分がないような骨組みだけの形状になった。
　そこに店主が魔力を流すと、シールドが展開される。

「おー、これは凄いな」

「こんな魔道具もあるんですね」

「魔物の素材を使った試作品だ。最も、魔力が切れたら効果は無くなってしまう。それに、強力な魔物には無意味だな」

　店主が魔力を流すのを辞めると、骨組みだけになってしまう。
　どの程度の攻撃まで防げるのかは分からないけど、魔力切れに注意さえすればそこそこ使えそうだ。

「これは透君にやるよ。その代わりと言ってはなんだが、使ったら感想を聞かせて欲しい」

「え、良いんですか。ありがとうございます！」

　こうして俺は魔道具を手に入れることが出来た。
　使ってみないことには何とも言えないけど、期待出来る魔道具だろう。

「あたしにはねーのかよ」

「お前は稼いでるんだから、金出せ」

　俺が魔道具を貰ったのを見て、師匠は店主と言い合っていた。
　こうしてみると、師匠と店主は結構仲が良いのかもしれない。

「あたしからは、さっきの広がる君をやろう」

　師匠は店主とのやりとりを終えたのか、俺の近くに来ていた。
　そう言うと、広がる君を手に取ってレジへと向かう。
　今回の会計は師匠がしてくれるみたいだ。
　師匠はレジで会計を済ませた。

「さてと、買い物も済んだし今日はここまでだな。後で連絡するからな」

　俺は、師匠と連絡先を交換した。

「今日はありがとうございました」

「次回はダンジョンに行くから、用意して来いよ」

　どうやら、今日はこれで終わりのようだ。
　これ以上やることを無いので、買って貰った商品を鞄にしまって家へと帰ることにする。