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第5話 初めての錬金術
しおりを挟む「あったー! りんごの木」
俺は大喜びでガッツポーズした。
一時はどうなることかと思ったからだ。
「俺ら普通に食ったもんな。まさか錬金術用だったとはな、知らないもんなぁ。なぁ、ポチ?」
「クゥーン」
りんごの木は、あまり苦労することなく川を超えた森の中で見つかった。
この森はやはり異世界らしいというか、多種多様な実が成っていて、土地柄とか土壌とかの影響をあまり受けていないだろうと思った。だからこそ、あっちにも、こっちにも、りんご以外にも見たことのない植物があるんだと思う。
そして、ここに来る間、めちゃくちゃ闘った。
武闘派の亮とは違い、魔法を使うか、「殴る」のが俺の闘い方。魔法はいいとしても、殴るって、何で殴るんだ? やっぱり漢は拳ってこと?
俺たちは戦闘にもだいぶ慣れ、相変わらず俺のレベルはサクサク上がり、そう苦戦することなく家に戻って来られた。
「いよいよ、錬金術かぁ……」
「初錬金術だから、俺も眺めているよ。興味あるし」
と亮。
なんとリビングにもともと設置されているこの大釜と、ダイニングテーブルに置いてあった木のロッドを錬成に使うらしい。
……んで、どうやって?
それについて俺は文句を言いたい。
錬金術の本をくれたのも、俺たちを異世界へ呼んだのも、万象の女神フレイヤだ。
普通、錬金術の本に詳しく書いてあるだろうと思うだろう?
違うんだ。
彼女は……絶対ズボラだ。
本に書いてあったのは、
『・皮を剥いたリンゴ
・メシュメルの実(中身)
・小麦粉
・【ミール液】
・【火薬草の結晶】
をいい塩梅で混ぜて木のロッドでかき混ぜろ。
錬成が終わったら、練金釜に手を添えて、「錬成終了。――回収!」と言うのだ。
あとは、そうだな。【マジックバッグ】を役立てろ』
だそうだ。
小麦粉はいい。練金釜の横の収納棚に入ってたから。
だけど、【ミール液】ってなんだ?
【火薬草の結晶】ってなんだよ?
【マジックバッグ】ってなんのこと?
【】って、何の意味でついてるんだよ~⁉︎
教わるより慣れろってか?
世界が危機に晒されてるのに?
急がなくていいのか?
どうなってんだよ、……ったく。
「せっかくだけど、亮。まだ材料足りないみたいだ」
「ええええ! 小麦粉と砂糖と塩と、バターとベーキングパウダーとりんごとかじゃねえの?」
……妙に詳しいな。さては亮、お料理男子だな?
「お前、錬金術士なんだろ? やり方とか、スキルとかでわかんねぇの?」
――うん。亮の言う通りだ。
俺のスキルといえば、――そうだ! 「鑑定」がある。このスキルを使えば、大抵のことはわかりそうだな。盲点だった。
俺はもう一度、ダイニングテーブルを見る。
「スキル、鑑定!」
・木のロッド(普通)
・【マジックバッグ】(最高品質)
――あった! 俺は【マジックバッグ】を詳しく鑑定してみる。
――ピコン!
【マジックバッグ(最高品質) 中は亜空間領域となっている。錬成前の素材アイテムや生活雑貨、食糧など、生き物以外の物を保管することができ、個数と大きさの制限は特にない。
収納時点から劣化が止まり、温度や状態はキープされ、かつ、バックに重量は加算されない。
使用には魔力が必要。アイテムの出し入れでを魔力を消費する。
また、使用者登録が必要である】
――何だこれ。すごい便利じゃないか。
――ピコン!
『使用者を鈴木創太に改めますか?
▶︎はい
いいえ』
俺はポップアップのはいをタッチパネルのように押してみた。
――『こんにちは。今から私はあなたの【マジックバッグ】です。よろしくお願い致します。ご主人様』
「おお、なんかこのバッグが使えるようになったぞ」
「よかったじゃん。で、何か入ってないのか?」
「ええと……」
――えーと、【ミール液】に【火薬草の結晶】だったか?
亮に言われるまま、肩から中に手を突っ込み、手に鑑定の力を付与しつつ、あーでもないこーでもないと言いながら探してみる。
「なぁ、創太。バッグの大きさに対して、明らかにお前の腕がどんどん入っていくんだけど。どうなってんだそれ」
「亜空間領域なんだってさ」
「なんじゃそりゃ」
「おそらく、無限ってことなんじゃないかと思ってる」
「なるほど、なぁ……。さすが異世界」
――あったぞ! 【アップルパイ】を錬成するのに足りなかったアイテムが。
俺は早速、本に書いてあったとおりの材料をいい塩梅、もとい感覚で練金釜へ入れていく。
そしてこの木のロッドでかき混ぜれば……!
「創太、なんだか焦げ臭くないか?」
「言われてみれば……いや、言われてみなくても俺の視界は既に黒煙で真っ暗だ」
「ポチ! 一旦逃げるぞ!」
「ワンッ!」
俺は亮とポチに見捨てられた。
――でも、それが正解だったんだ。
――ボオオオオオオオン!
けたたましい音と、【アップルパイ】(仮)だった何かが、消し炭になって弾け飛んだ。
それにしても、これが錬金術士の特性なのか。俺も錬金釜も、爆発の割には無事だ。……真っ黒だけど。俺は、本の指示どおりに試してみる。
練金釜に手をかざし、「錬成終了。――回収!」と。
すると、丸焦げのパイが浮かび上がってきた。
いや、パイと呼ぶのも烏滸がましいかもしれない。黒いナニカだ。
「あのー。創太、大丈夫……じゃなさそうだな?」
「いや、生きてはいる。初の錬成アイテム、食べてみないか?」
ドロオオオオオオンとした見た目。真っ黒なナニカ。
俺は亮と一緒に一口食べてみた。
「「まっず! おええええ」」
――そして学んだ。
不老不死は、病気では死なない。
けれど、病気にはなるものである、と。
俺たちは、三日三晩、激しい腹痛と嘔吐に苦しんだ。不幸中の幸いは、ポチが口にしなかったことだけだった。
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