上 下
41 / 60

41. 何を間違った?

しおりを挟む
 全身から不機嫌オーラを漂わせる東堂を前に、必死にこの小一時間を思い返すが、さして思い当たる節もない。強いて言うなら、食べながらの会話に、これまで東堂相手には話したことのなかったような同期とのくだらない思い出やゴシップまがいのネタをいくつか混ぜたのが気に入らなかったか。
 おろおろする将吾に、東堂はますます苛立った様子で、やがてとうとう我慢の限界に来たのか吐き出すように言った。
「っお前は……、一体、どういうつもりなんだ」
 将吾は何を言われているのか理解できず、固まったまま立ち尽くす。
 ——え? どういうつもりって……? いや、飯食いに行こうって声かけた時の反応は悪くなかったよな⁇
 朝からの行動を振り返っても、特段おかしなことはなかったように将吾は思い、首をひねった。急な休みをもらって、そのまま帰るつもりだったが東堂の反応を見て一緒に食事をすることにして、つつがなく食事を終えての今である。
 店が気に入らなかったとか、メニューに食べたいものがなかったとか、将吾が見てとれる範囲ではそんな様子もなかった。だが、これはまずいと直感的に分かる。なんなら、東堂が何に怒っているのか、将吾に全く見当がついていないことが、状況をさらに悪くしている気がする。こんな喧嘩を昔も付き合っていた彼女と何回もした気がするが、今は思い出したくない。
 せめて何か手掛かりが欲しい。こんな形で関係悪化なんて、絶対にごめん被りたかった。途方に暮れる将吾に、東堂はなぜか少しだけ何かを言いかけて、言い淀んだ。
 嫌な沈黙が流れる。
 改札前に立っていては人の流れの邪魔になることに気づき、とりあえず空いている壁際へ誘導しようと東堂の腕を取ったその時だった。東堂の体がこわばるのが、分かった。将吾はその反応に、腹の底が冷えるような感覚に襲われる。
 ——っ、どうして……。
 目の前が真っ暗になりそうだった。一度は、踏み込めたのに。あの日触れた時は、確かに大丈夫だったのに。振り払われこそしなかったけれど、東堂の反応は紛れもなく拒絶を示していた。
 頭の中が整理できないまま、人の流れから外れたところに移動して、将吾は東堂の腕を解放する。目を合わせるのは怖かったが、将吾は視線を上げた。
しおりを挟む

処理中です...