【完結】熱血くんと嫌味なアイツ【改稿版】

雫川サラ

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48. ようやく、腕の中に

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「焦らなくても、俺は、逃げない」
 そうしてると叱られた犬みたいだな、と髪の毛をかき混ぜられて、やや面食らう。唐突に見せつけられる余裕が、なんだかひどく悔しい。
「……嬉しかった」
 噛み締めるように、落ちてきた呟き。見上げれば、目が合った。熱っぽく潤んだそれは将吾を捉えて、眩しそうに細められる。
「正直言えば、まだ100%、わかった、これからよろしく、と言えるわけじゃない」
 東堂の瞳がわずかに揺れる。東堂らしいな、と将吾は思った。完璧主義の悪い部分が、こういうところに出るのだろう。できるかできないかなんて、やってみなければわからないのに。
「お前を怒らせることも、傷つけることも、きっとあるだろうし……わッ⁉︎」
 将吾は東堂の言うことを遮ることになるのも構わず、もう一度抱きしめなおした。言わなくたって、そんなことは初めから分かってる。そのくらいは、覚悟の上だ。
「俺はね」
 腕の中でじたばたする東堂を、腕力では勝る将吾が宥めるように撫でる。
「別にお前に何かこれまでと変わってほしいとか、そういうのは何も思ってないよ」
 たぶん、東堂は頭から入る性質なんだろうから。打算でしか関係を結んでこられなかった自分を、欠陥品だとでも思っているように思えたから。
「ああでも、一つだけ、お前がたぶんすごく苦手なことをお願いするかもしれない」
「何だ」
 東堂の声が硬くなる。傷つきたくないから、その前に拒絶する癖がついた声。そうして抱え込んできたものも全部丸ごと欲しいんだ、と言ったらどんな顔をするだろうかと、将吾は思う。
 ——それはまた、いずれのお楽しみだな。
 こんなふうに、東堂を困らせることができるのも新鮮で、胸がいっぱいになる。ニヤついた顔を隠すことさえできなくて、コツンと額を東堂の頬にくっつけた。
「答えがすぐに出なくても、逃げ出さないで一緒にいてくれること、かな」
 言ってから、あまりにキザったらしくて将吾はそのまま東堂の肩に埋まった。さすがにもう少し言葉を選ぶべきだった、と思った。自分のために。
 湯気が出そうになりながら将吾が埋まっていると、頭の上に、ぽすん、という感触があった。
 ——ぽすん?
 将吾の頭に、東堂が自分の顔を乗せたのだと、耳に息がかかって分かった。心臓が破れるんじゃないかと思うほどうるさい。
 将吾の言葉への返事はなかったけれど、ほんのわずかな動きの中に、東堂の気持ちが溢れるほど表れている。呆れ笑いが乗ったため息がまた、将吾の耳をくすぐった。
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