短いやつら

不割 幸人

文字の大きさ
上 下
1 / 1

海を飲む。

しおりを挟む
「ねえ、もし神様の目も届かないような海の底で死んだらさ、どうなると思う」
先月から降り続く雨の中で君が問いかける。
「信じてるのか?神様とか、死後とか」
「やっぱり伝わらなかったか」
紅い傘から透ける光で顔を赤く染めながら、或いは実際に紅潮しているのか、君はいつもより少し早口だった。
「まあ、なんて言ったらいいんだろうな。一緒に死んでくれってことだ」
「は?」
突飛な話をするのはいつものことだが、今回は輪をかけて奇怪だった。
「ごめん。今回は何の話をしているのか見当もつかねえわ」
「いや、言葉通りに一緒に死なないかっていう自死のお誘いなんだけど」
「嫌だよ。まだまだやりたいことがあるから」
君は少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうな顔をして、傘をゆっくりたたんで、一人きりで海へ飲み込まれていった。
「      」
最後の言葉は白い泡の形をとっていたけれどはっきりと聞き取れた。わかってしまった。

 雨、止んだね

最後の最後まで突飛な話で惑わす君を、心底ずるいと思った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...