異世界で『殺し屋』

アズ

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第一章

02 殺し屋

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 シーリングファンが回る天井、棚には高級な酒瓶が並び、カウンターに立つのはこの店のマスター。そのマスターのつくる酒目当てに来る金持ちの客達。その店にはテーブル席もあって、顔に傷を持つ者、体に入れ墨が入っている者、指や片目など体の一部を失った者達が集っていた。煙草の煙が漂い、テーブルの上にはいつでも撃てる場所に拳銃が置かれてある。そこに予約無しの来客が突然店の中に入ってきた。スーツ姿の中肉中背の中年の男は店に入るなりいきなり45口径短機関銃を天井にぶっ放した。天井に穴が空き、シーリングファンのファンが落下した。ファンがテーブルに突き刺さると、男達は一斉に拳銃を持ち立ち上がった。
「何のつもりだ」
 カウンターに一人で座る大尉が無礼な客にそう言った。
「葬式みたいな空気だったから緊張感を与えたんだ。大尉、軍曹が死んだ。あんたの部下だ。少佐はお怒りだ。部下が死んだのはあんたの失態でもある」
「軍曹は油断した」
「関係ない。酒は弔いを遂げてからにしてくれ」
 大尉は席から立ち上がる。
「これ以上少佐を落胆させるな」
 大尉は答えず金をカウンターに置くと店を出ていった。



 ◇◆◇◆◇



 壁掛け時計の針の音が聞こえ、それ以外はとても静かだった。この世界に来てまともに睡眠出来たのは初めてのことだった。体をベッドから起こし一階に降りる。あの教授はどうしたのだろ? 逃げ出したのか。だとしたら既に敵に包囲され、そこらじゅう銃弾の穴だらけになっていただろう。そうなっていないということは、教授は逃げ出してはいない筈だ。
 リビングに入ると、テーブルの上には私の分の朝食が用意されてある。スープとサラダにパンだ。教授はお茶しながら優雅に新聞を読んでいた。
「教授、その新聞いつのですか?」
「今日のだ」
 私はため息をついた。
「あまり外に出ないで下さい。あなたの知り合いにばったり出会したらどうするんですか。万が一、あなたを知る人物に目撃でもされたら不審に思われるでしょう。あなたは一度死んだんですからその自覚を忘れないで下さい」
「そうだった……すまない。死人に慣れていないもので」
「皮肉も朝食も必要ありません」
「朝食は必要だ。頭を働かせる為には」
「私達はとにかく見つからないようにしなきゃいけないんです。お金だってそんなにあるわけじゃないんですから」
 銀行の口座は既に死亡した時点で引き落としは出来ないし、した場合痕跡が残る。手持ちの金でなんとかしなければ。
「あの武器はどうした?」
「敵から奪った」
「殺したのか?」
「先に殺しに来たのはあっち」
「殺したんだな。私は分からない。君を国に差し出すべきか……」
「するの?」
「いや……だが、君がこの国のテロリストになるならそうするだろう」
「半分テロリストみたいなものよ」



 ◇◆◇◆◇



「半分テロリストみたいなものよ」
 半分テロリストか…… 。まさか、国を愛する私が国に反逆する立場に加担しているとは。勝手に外に出掛けていたことに腹を立てた少女の言い分は理解出来るが、こんな生活が長続きしないことは予想がつきそうなものだ。
「この次のことは考えてあるのか?」
「この街から離れる。何か方法はない?」
「この国にいる限り君は追われる立場だ。国外へ逃亡するしかないが、君は身分証がないだろう。身分証のない者は国外へ行くことは無理だ」
「身分証を偽造するとか」
「身分証を偽造? 本気か? 身分証の偽造は罪が重い。大罪だ。間違いなく実刑だ」
「私には関係ない」
「ああ、確かにそうだったな」
「あなたも既に死んでるから関係ないでしょ? それともこの国は一度死んで蘇った人も人として裁く法律があるわけ?」
「いや、ない。まるで人じゃないみたいだな」
「この国の法律がそうなってるだけよ。異世界の私がそうであるように、人権=人とは必ずしもそうはならない。だから、この国は私に対しても殺すことに躊躇ためらいがない。私達はこの国の法では人ではないのよ」
「人でないのなら私達は何だというんだ」
「法律に訊いて」
「……とにかく、偽造するにもやり方は流石に知らないぞ」
「なら、探して」
「無茶を言うな。私にそんな関係が……」
 ふと、私はさっきまで読んでいた新聞に視線を戻す。
「何?」
「アテがあるわけじゃないが、知ってそうな人に聞いてみよう」



 私がさっき注意された元凶の新聞にはその手掛かりとなりそうな記事が丁度運良く載っていた。神は私達をこの事態から逃そうとヒントでも残されたのだろうか。そう、疑う程のタイミングだった。
 その記事は小さなもので一面を飾るのは軍曹の死亡記事だ。誰のせいかは語るまでもないだろう。まだ、犯人が見つからないと世間が騒ぎになっている。犯人は私の目の前に立っているのだが。
 記事はケリー・キングという女性についてだった。ケリー・キングについて話すと彼女はまず容姿端麗、生まれた時から決まった才能、音楽、勉強、運動も平均以上。格差は生まれた瞬間から生まれる世の中の代表例だと思わせるような人だ。しかし、恵まれた環境は彼女を狂わせ謙虚さの足りない欠点が浮き彫りになった頃には彼女の転落していく噂は毎年更新され、遂には引き返せないところまで来ていた。間違った暴力旦那と結婚したことの後悔、一年の離婚、金遣いの荒さによる金欠、借金、闇金にまで遂に手を出し、追われ、捕まり体を売ったり、裏社会の仕事をさせられ、その溜まったストレスを吐き出す為にタバコと酒に溺れ、クスリで薬物中毒。その後、違法薬物の所持、使用、詐欺、公務執行妨害、暴行、その他諸々の違法行為により逮捕、裁判で実刑判決がくだされ服役。5年後、仮釈放。その女がクスリを断ち切ろうと努力したが酒に再び溺れ、現在は依存症の治療を受けているとの事。一時期はアイドル、モデルまでいき、大舞台のスポットライトを当たり続けた女性でもあることから、まだ彼女を知る者は少なくはないだろう。だが、彼女の出所後の姿を見ればその変貌は明らかだった。もう、彼女にかつての輝きは失われていた。痩せ細った肉体からはオーラはなく、憧れの存在ではなくなっていた。
 実は彼女のことを私は知っていた。というのもかつての学友だったからだ。誰もが彼女を狙っていたが、既に表舞台に立っていた立場上事務所は恋愛を禁じていた。だから誰もそこまで踏み込めないでいた。
 ケリー・キングと最後に出会ったのは彼女の友人の結婚式に会った時になる。その時はまだ私は教授ではなかった。教授になったのは彼女が実刑判決で服役中の時だ。その時は驚きとともにショックの方が大きかった。
 ケリー・キングは仮釈放後の半年間は慈善活動に励んでいた。引退かと記者に問われた時は笑顔を見せるも無言で答えることはなかったとされている。それからは彼女は表に出ることもなくなり、仮釈放から一年後のまだ期間中に急性アルコール中毒で入院し、そこから依存症の治療を受け、現在は同じ苦しみを持つ者同士のセミナーを行っている。記事はその様子のものだ。そこに次の開催場所と日時が示されており、途中参加可能とまである。私はその日時と場所を赤ペンでマルで囲った。



◇◆◇◆◇



 外出は出来るだけ避けるようにと言われたが、ケリー・キングに会いに行く許可は下りた。その建物は街の中心部から西に外れた場所にあり、コンクリート塀に囲まれていた。そのコンクリートには所々剥離した箇所がある。建物は二階建てでかつては地域交流として建てられた建物で、民間にセミナー開催の会場として貸し出すこともあり、二階は小規模のホールとなっている。建物もコンクリートで扉は窓のついた木製だ。その正面から入り記事にあった一階のセミナー会場へ入る。椅子が並べられた部屋にはケリー・キングがいて、それ以外はまだ誰も席についていなかった。それもその筈でセミナーの時間はとっくに終了していたからだ。
「あら、ごめんなさい。今さっき終わったばかりなの。また、来月やる予定ですから、良かったらその日にまたいらして下さい」
「ケリー・キングさん、私のこと覚えていますか? コナーズです」
 それで思い出したのかケリーはハッとした。
「覚えています。でも、どうして?」
「いや、実はセミナーを受けに来たわけではなくて今日は個人的にあなたに会いに来ました。正直、この話しをあなたにするのに迷いがなかったかというと嘘になりますが、聞いてもらえないでしょうか」
 ケリー・キングは複雑な表情をした。
「嫌です……というのが本音ですけど、あなたならいいですよ。でも、そうやって勿体ぶるぐらいですから、いい事ではないんでしょうね」
「ありがとうございます。あなたの覚悟に私も自分の事を打ち明けたいと思います」
 私は自分が一度死に蘇ったこと、そして今の立場を説明した。私は自分のことを説明しながら自分について考えた。何故蘇った私はもう一度死のうとしなかったのか。彼女の期待に応えることは国を裏切る行為だというのに、私は彼女に協力している。もう一度死ぬことに恐怖がないわけではない。あれに慣れるということは決してない。でも、選択肢としてはあった筈だ。私は何故、その選択をしなかったのだろうか。一度死んだ私が生に執着する理由は何だろうか? そもそも執着なのか? 私はどうしたいのか? 死んだ人間が蘇ったところでもう普通の生活は送れるわけではないし、今の私は彼女の奴隷だ。自由になることは恐らくこの先ないだろう。なら、何故生きる?
 彼女は私の説明に戸惑っていたが、私の説明を最後まで聞き、最後に私が「信じられないか?」と質問すると彼女は「そうね……普通は信じないわ。でも、あなたが身分証の偽造を作れる人を探しているのは信じるわ」と答えた。
「私のかつての知り合いの中にそれが出来る人物はいたかもしれない。でも、私はあれから断ち切った。連中も警察の監視下に置かれている私と直接会うことはないわ」
「本当にそうだろうか?」
「どういうこと?」
「君は闇金に手を出し、それを返済しきっていない。むしろ、君が服役中に違法とも言える利子が膨らみ、君は返済に困るだろうし、連中はそもそも君から警察を理由に手を引くだろうか」
「私がまだ連中と関係中だって言うの?」
「私が君に自分を打ち明けたのは、君が警察にそれを話さない確信があるからだ。君が警察の所へ行こうものなら、連中は君が何か警察に喋りに行くと誤解して君を殺すからだ。君は連中に私のことを話せばそれでいい。それ以上は求めない」
「帰って」
「分かった」
 私はそう言って踵を返し立ち去ろうとした時、彼女は背を向けた私に言う。
「あんた、死ぬわよ」
「それならとっくに死んだよ」



◇◆◇◆◇



 家に戻りサヤカに説明すると、サヤカは私に激昂した。その後、呆れて軍曹とその部下から鹵獲ろかくした武器をテーブルの上に広げ準備を始めた。武器の一部は家具の後ろにガムテープで貼り付けて隠し、私は一丁だけ武器を渡された。
 そして、一日が終わろうとする時刻、招待されていない来訪者がノックもせずに忍び足で玄関に現れた。全身黒で統一され目出し帽で顔を隠し、銃を構えながら一階と二階に人をわけてゆっくり中を詮索しだす。その一人がリビングに入るとキッチンから覗いていたサヤカは最初の一人に向かって引き金を引いた。サヤカが放った一発の銃声はまさにリレーのよ~いドンの始まりの如く、真夜中の銃撃戦が幕を切って落とされた。
 サヤカの一発は外れ二発目には敵の防弾チョッキに当たる。敵はキッチンにいるサヤカ目掛けて次々と撃ち続けた。銃撃が鳴り響くのをバスルームのバスタブの中でコナーズは銃を持ちながら聞いていた。
「人の思い出の家を戦場にしやがって」
 そう言う自分がこれを仕掛けたんだが、窓ガラスが割れたり壁に穴が空く音や写真立てが落ちる音を聞くと、本当に虚しくなった。
 そのコナーズはサヤカの能力を知っており、だからこそコナーズはサヤカを特に心配していなかった。彼女を撃てる敵なんていないだろう。例えどんな早撃ちが現れたところで、その前に彼女に撃たれたのだから。
 次々と倒れる敵達。時間が止まり、その間に悠々と額目掛けてサヤカは引き金を引いていった。一人は手榴弾の安全ピンに指を引っ掛けていた。その指をどかし手榴弾を奪うと、その兵士の頭を撃った。
 どんな殺し屋も驚くだろう。気づいたらあっという間に敵はやられているのだから。彼女の前では敵を倒すのに一秒もかからないだろう。
 銃声が止んだと気づき終わったのかコナーズはバスタブの中に身を潜めながら暫く様子を伺った。
 サヤカの方は敵がいなくなったか部屋中を見て回る。リビング、廊下には死体が転がっており、終わった後で武器は全て回収することを頭に入れておく。階段を登り二階にいくと、二階にいた敵が撃ち始めた。銃口から発射された銃弾はゆっくりとなり、サヤカに届く前に完全に止まる。サヤカは二階にいた敵も次々と撃ち殺していった。弾が途中無くなり、弾を補充して、また撃っていく。
 バスルームでまた銃声が聞こえ、コナーズは動かず終わるのを待った。
 二階にいた敵も全て撃ち殺し終わると、窓から外の様子を見た。外にも取り囲んでいる敵がいた。敵から早速奪った手榴弾を投げた。家の周りで次々と爆発が起き、銃声が響き渡る。それも一瞬の出来事で、再び真夜中の静けさに戻った。バスルームの扉が開き、サヤカは銃口を向けるコナーズを見て「私を撃つつもり?」と聞いてきた。
「それ、安全装置したままだよ」
 コナーズは言われて気づく。サヤカは指でピストルをつくり「バーン、はい死んだ」と言った。



◇◆◇◆◇



 後日、昼間の時間帯にインターホンが鳴った。コナーズは覗き窓で確認してから玄関を開けると、ケリー・キングが一人立っていた。
「本当に生きていたのね」
「死んだのは連中の方だ」
「ボスがあんた達に会いたいって」
「こちらの条件が先だ」
「それは分かっている。偽造の身分証でしょ? 手配出来る」
「なら、それを私に渡してそれで終わりだ」
「ボスはあなた達を雇いたいと言ってるわ。そしたら、身分証だけじゃなく隠れ場所や必要なものを提供すると言ってるわ。組織にいればまず警察はあなた達に触れられない。組織は政治家や腐った警察幹部とも繋がりを持っているから。軍だって政治家を通り越しては過激には動けない」
「成る程。そちらを受けた方が私達には利があると。で、その見返りは? 雇うと言ったが」
「殺しの依頼を受けて欲しい。あなた達は大金を手にし、組織があなた達を警察から守る。組織は最強の武器を持つことになる。最新兵器よりずっとね」
「だったらサヤカだけで私まで含まれるのは何故だ?」
「組織に日本語を喋れる人はいない」
「ああ……そうだったか。分かった、少し待っていてくれ」
「分かったわ」
 私はリビングに遺体を積んで作業しているサヤカに今の話しを説明した。サヤカは腰を撫でながら「受けるよ」と答えた。



 こうして、私達の殺し屋ライフが始まることになった。
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