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約束通り、私は大学病院へ車で向かい、そこの駐車場で先生と出会った。
「下山さん、今日は本当にご協力ありがとうございます」
「いえ、此方こそありがとうございます。少しでも自分のことでもありますから、知っておきたいのです」
「では、此方へ」
それから、准教授からドクターの紹介を受け、その後で検査が始まった。検査は事前にメールで説明を受けた通りで、それらを順番に回っていった。一見したら、念入りにやる健康診断のようなものだった。
その検査も全て終わった頃には午前から受けていたのにもう14時を回っていた。
長い一日で疲れていると、先生は缶コーヒーを渡してきた。
「お疲れ様でした。検査はこれで終わりになります」
私は缶コーヒーを受け取った。
「ありがとうございます」
「検査の結果は直ぐには出ません。残念ながら私が日本に滞在中には結果をお渡し出来ませんので大学病院から郵送してお届けするかたちになります」
「先生は?」
「私のパソコンにデータを送ってもらうので大丈夫ですよ」
「それより先生、何か私に言いたいことがあるのではないですか?」
「え?」
「前回お会いした時に先生と握手をしたと思います。その時、電流が流れました。迷い、それから不安。私を騙すような人が感じる感情ではありませんでした。ですので、先生を信用してここへ来ました。それは当たっていました。しかし、先生。先生の迷いは晴れたのでしょうか?」
「いえ、天気予報は曇りといったところでしょうか。正直に言います。私は下山さんの症状についてある友人とリモートでやり取りをした時、下山さんのその能力を世の中の為に活用できないか? と訊かれました。具体的には、あなたの力があれば犯罪者を見つけ出したり、嘘を見破ったり、更には本当のことを訊き出せるのではないかという話です。似たようなもので嘘発見器がありますが、本当のことを訊き出すという点では下山さんの能力は活躍できるかもしれません。その友人は警察の方で、試してみたいと言っていました。しかし、私は無理強いはさせられません。期待には応えられないかもしれないと友人には言いました」
「なる程。そういうことでしたか。納得しました。しかし、その件に関してはご協力出来ません」
「分かりました。では、友人にはそのようにお伝えしときます。下山さん、お伺いしたいのですが私の心を読み取った時に電流が走ったと言いましたが、具体的にどのように伝わるのか教えてくれませんか」
「説明するのが難しいんです。例えばですが、冷えた感じの刺さるような痛みは嘘をつかれた時です。あとは、脈を打つように電気が流れると、それが一定の間隔ではなく不規則の場合、不安の場合だとかです」
「温かいとか冷たいといった温度とは違うんですね」
「はい。ですから、死んだ人の場合それが全くないんです。先生の場合、最後に握手をした際に静電気のようなものが走りました。不規則もありましたが、一番感じた衝撃でした。初めての感覚でしたが、先生が先程お答えしていただいたことで、それが何を示すのか分かりました」
「それは何ですか?」
「傷つけるかもしれないという感情です。しかし、私は傷ついてはいません」
「はい、私はあなたを傷つけようとは思っていません」
「そうでしょう。だから、迷いもあの時あった。私にあの場で言わなかったのもそれが理由だと思いました」
「その通りです」
「先生、私は時に怖いのです。まともに握手ができる人は私の中ではそう多くはないのです。むしろ、私の方が警戒しています。それは単なる恐怖心だけでなく、覗きたいと思っていなくても相手の心を読めてしまうことです。それが理由でトラブルも起きるのではないかと、それが怖いんです。実際、昨日は久しぶりに彼女と会いましたが、喧嘩になってしまいました」
「そうでしたか」
「私は電気で人の心を表します。それは先生が仰った温度や、色などでも感情を表すことができるのと近いです。それ事態は特別のことではないでしょう。しかし、問題は不可抗力で相手の心を読めてしまうことです」
「あなたは前回心がないことに悩んでいましたが、今回は心があなたを悩ませていると言うんですか?」
「前回は先生のアドバイスで前向きになれました。しかし、後者は違います。私は普通の、前の自分に単に戻りたいだけなんです」
「分かります。ですが、あなたの悩みは本当はそこではないでしょう! あなたは単に彼女との恋愛に悩んでいるだけで、それをあなたは電流のせいにしているだけです。関係ありません。電流がなくとも時に気づくことがあるでしょう。見て見ぬフリをするか、問い詰めるか、その二択です。分かりますか? あなたの悩みはその選択なのです。そして、その質問に対する私のアドバイスは、前者です」
「下山さん、今日は本当にご協力ありがとうございます」
「いえ、此方こそありがとうございます。少しでも自分のことでもありますから、知っておきたいのです」
「では、此方へ」
それから、准教授からドクターの紹介を受け、その後で検査が始まった。検査は事前にメールで説明を受けた通りで、それらを順番に回っていった。一見したら、念入りにやる健康診断のようなものだった。
その検査も全て終わった頃には午前から受けていたのにもう14時を回っていた。
長い一日で疲れていると、先生は缶コーヒーを渡してきた。
「お疲れ様でした。検査はこれで終わりになります」
私は缶コーヒーを受け取った。
「ありがとうございます」
「検査の結果は直ぐには出ません。残念ながら私が日本に滞在中には結果をお渡し出来ませんので大学病院から郵送してお届けするかたちになります」
「先生は?」
「私のパソコンにデータを送ってもらうので大丈夫ですよ」
「それより先生、何か私に言いたいことがあるのではないですか?」
「え?」
「前回お会いした時に先生と握手をしたと思います。その時、電流が流れました。迷い、それから不安。私を騙すような人が感じる感情ではありませんでした。ですので、先生を信用してここへ来ました。それは当たっていました。しかし、先生。先生の迷いは晴れたのでしょうか?」
「いえ、天気予報は曇りといったところでしょうか。正直に言います。私は下山さんの症状についてある友人とリモートでやり取りをした時、下山さんのその能力を世の中の為に活用できないか? と訊かれました。具体的には、あなたの力があれば犯罪者を見つけ出したり、嘘を見破ったり、更には本当のことを訊き出せるのではないかという話です。似たようなもので嘘発見器がありますが、本当のことを訊き出すという点では下山さんの能力は活躍できるかもしれません。その友人は警察の方で、試してみたいと言っていました。しかし、私は無理強いはさせられません。期待には応えられないかもしれないと友人には言いました」
「なる程。そういうことでしたか。納得しました。しかし、その件に関してはご協力出来ません」
「分かりました。では、友人にはそのようにお伝えしときます。下山さん、お伺いしたいのですが私の心を読み取った時に電流が走ったと言いましたが、具体的にどのように伝わるのか教えてくれませんか」
「説明するのが難しいんです。例えばですが、冷えた感じの刺さるような痛みは嘘をつかれた時です。あとは、脈を打つように電気が流れると、それが一定の間隔ではなく不規則の場合、不安の場合だとかです」
「温かいとか冷たいといった温度とは違うんですね」
「はい。ですから、死んだ人の場合それが全くないんです。先生の場合、最後に握手をした際に静電気のようなものが走りました。不規則もありましたが、一番感じた衝撃でした。初めての感覚でしたが、先生が先程お答えしていただいたことで、それが何を示すのか分かりました」
「それは何ですか?」
「傷つけるかもしれないという感情です。しかし、私は傷ついてはいません」
「はい、私はあなたを傷つけようとは思っていません」
「そうでしょう。だから、迷いもあの時あった。私にあの場で言わなかったのもそれが理由だと思いました」
「その通りです」
「先生、私は時に怖いのです。まともに握手ができる人は私の中ではそう多くはないのです。むしろ、私の方が警戒しています。それは単なる恐怖心だけでなく、覗きたいと思っていなくても相手の心を読めてしまうことです。それが理由でトラブルも起きるのではないかと、それが怖いんです。実際、昨日は久しぶりに彼女と会いましたが、喧嘩になってしまいました」
「そうでしたか」
「私は電気で人の心を表します。それは先生が仰った温度や、色などでも感情を表すことができるのと近いです。それ事態は特別のことではないでしょう。しかし、問題は不可抗力で相手の心を読めてしまうことです」
「あなたは前回心がないことに悩んでいましたが、今回は心があなたを悩ませていると言うんですか?」
「前回は先生のアドバイスで前向きになれました。しかし、後者は違います。私は普通の、前の自分に単に戻りたいだけなんです」
「分かります。ですが、あなたの悩みは本当はそこではないでしょう! あなたは単に彼女との恋愛に悩んでいるだけで、それをあなたは電流のせいにしているだけです。関係ありません。電流がなくとも時に気づくことがあるでしょう。見て見ぬフリをするか、問い詰めるか、その二択です。分かりますか? あなたの悩みはその選択なのです。そして、その質問に対する私のアドバイスは、前者です」
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