私の日常

アズ

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 喫茶店によって流てくる音楽が違う。例えばクラシック。私は断然クラシック派だ。それ以外となると洋楽。英語の歌詞が流れるけど、ほとんど意味は分からない。でも、たまに気に入った音楽を見つけると、スマホで流れている音楽を聴かせ、何の曲か調べ、歌詞の意味も調べる。でも、あんまり音楽に集中しちゃうと、勉強や読書に専念出来なくなるから、一番は何も流れない図書館が一番好きだ。たまに、イヤホンしながら喫茶店で勉強している子がいるくらいだ。でも、あれが耳栓代わりだって気づいていない大人は音楽を聴きながら勉強してるのかと勘違いを起こす。そういう人もいるけど、私じゃ絶対に無理。そういう人は頭の中がどうなっているのだろう。あと、数人で喫茶店へ行き勉強する仲間を見ても、ほとんど喋ってばっかで勉強になっていなかったり、なんだか時間と金を無駄にしてるなと思う。
 私は断然一人で勉強する派だ。その方が集中する。そして、珈琲は決まってアイスコーヒーのブレンド、サイズは真ん中。サイズの呼び方は何故か共通ではなく店ごとに違う。Mというところもあればトールと呼ぶところもある。最初、その違いで戸惑って何で店ごとに違うんだって紛らわしいと思ったけど、何度か行っているうちにすっかりそれも慣れた。
 喫茶店は学校に近い店はM派、家に近い喫茶店はトール派。MとTだ。学校帰りの喫茶はMといった感じだ。そのMの喫茶店で私は英語がびっしり埋め尽くされたばかりのノートのそばにあるブラックをストローを加え吸い込む。黒色が体内へ入っていくと同時にグラスの中身が減っていく。半分以下になったグラスには小さな水滴がついていた。ブラックというと大人みたいな言われ方をされるが、そもそも自分はミルクがダメだった。アレルギーとかではないが、牛乳、ヨーグルト、チーズが本当にダメで友人からは人生損してるよと言われる始末。実は母も同じで牛乳がダメで、私と同じものが嫌いだと知った母は遺伝だと、なんだか嬉しそうに言った。遺伝か? と半信半疑な私はただ母が自分と同じところがあって嬉しくなっただけだろうと思った。だから遺伝と言うんだろうと。そんなことがなくたって私は間違いなく母の子だというのに。
 最近では勉強を目的とした喫茶店の利用を断る店が増えてきた。店側としてはあくまでも飲食店としてと言いたいんだろうけど、明らか高い珈琲を買って飲んでるのにそんなこと言われるなんて。だから、MとT以外にも喫茶店はあるけど、そこへは行けなかった。最近の喫茶店人気か知らないけどやたら増えてきたと思ったのに残念だ。
 スマホで時間を確認する。高校に入学する時、腕時計を買うべきか悩んだことがある。でも、スマホがあればその必要もないと思って腕時計を買ったことはなかった。父は腕時計を買ったらどうだとうるさいけど。
 9時を過ぎているのに気づいた私は帰る支度をした。カバンにノート、筆記用具、教科書をしまう。何の為に自分はこんな時間まで勉強しているのか分からないけど、テストや将来の為だと言い聞かせている。ある種、洗脳みたいに。実際、それらが何につかえるかなんて知ったことじゃない。車輪の再発明をしない為とか言われても、自分がそもそも何かを発明できるとも思わないし、英語が喋れないと英語圏の情報を知れなくなるとか、そもそもどうでもいい。というか、暗記なんてコンピューターの時代に必要性あるのか? 昔と今は違う。それなのに、未だ学校でやることに大きな違いはない。
 古臭いと思った。そう思うのは間違っているのか?
 学校がやることはいつも何かズレている。例えば学校のトイレを男女共有にしてマイノリティーに配慮する案が話題になった時、私やその周りは大反対だった。男と同じトイレとか父親と同じトイレでも嫌だというのに最悪だと思った。それに、トイレが怖くて使えなくなる。むしろ、私達のトイレがそれで無くなる気がしてならない。
 いつだって女性がいつも生きづらさを感じ、対して男達は呑気にしていてそれが非常に苛立つ。
 別に差別を助長させたいわけではない。ただ、マイノリティーの意見に偏るのでなく両者にとっての落とし所を考えて欲しいだけなのだ。それが共生だと思う。



 私は残りのコーヒーを飲み干す。プラスチック削減の政策の効果は私の口元まで及んではいなかった。店によって紙にかわったところもあればそうでないところもあって、混在していた。
 黒色がグラスから消えて自分の体内へ全部入る。氷で後半は多少薄まった感じだった。
 不思議に思う。人はどうやってコーヒーを発明したのか。
 返却口に飲んだグラスを返却する。
 父は夜にコーヒーを飲むのはあまり良くないと言う。そう言う父は糖尿のくせしてビールを飲んでいる。矛盾してる。でも、私は知っている。母がこっそり水で薄めていることを。私はそれを見てクスクス笑って、たまに薄め過ぎて父にバレて不機嫌になる父を見るのも好きだった。
 でも、父も私も何が良いからとかで選択はしない。ただ、自分に忠実で単純、そこは父と私は似ていた。



 夏服の制服のままの私は白い自転車に跨り自宅へと向かった。家は県営団地だった。昔は子供が沢山いたが、最近は空き部屋が増えほとんど高齢者が残っている状態だった。その高齢者も年々、年齢にはかなわないのか施設へ入所する人が現れては空き部屋がまた増えていく。団地の夏休みに聞こえていたラジオ体操もすっかり聞かなくなり、団地の清掃も高齢者ばかりで人数が揃わず、業者に頼むか議論する程に切羽詰まっていた。その団地の外は高齢者夫婦が他界か施設入りし子供はそこに住むこともなく家が取り壊され、更地が増えていき、雑草が目立った。
 自宅に着くと、リビングのテーブルの上に4割引のシーンが貼ってあるうなぎの弁当が置かれてあった。そういえば今日、うなぎの日だった。父はうなぎ好きで必ずこの日はうなぎと決まっていた。
 電子レンジでそれをチンしていると自室からパジャマ姿の母がリビングに現れた。
「帰ってきたなら挨拶くらいしなさいよ」
「ただいま」
「おかえり。鍵は?」
「まだ」
「最後の人は閉めてっていつも言ってるでしょ」
 母はそう言って玄関へ行き鍵を閉めた。
「もう少し早く帰ってきなさいよ」
「別に大丈夫だよ」
 母はそれ以上言わなかったが顔は不満そうにしていた。娘の大丈夫をどこまで信じてやればいいのか母親なりに悩んでいて、私も少しは分かっているつもりでも、気づいたら反抗する態度をとっていた。
 電子レンジからうなぎの弁当を取り出すと、私はうなぎを母は台所の換気扇の下でタバコに火を付け始めた。メンソールのタバコを変わらず吸い続けている。そんなにタバコは美味しいのか? まぁ、自分はまだ吸おうとは思わない。
「お父さんは夜勤?」
「そう」
 煙を吐きながら母はそう答えた。
「父さんが言ってたけど、どこ行くか学校決めたのかだって。どうなの?」
「前に言った学校にしようかと思ってる」
「そう。父さんがいる時でいいからちゃんと話してよ」
「分かってるよ。うなぎウマ」
「明日仕事があるから夜はいないから」
「分かった」
 父も母も仕事で忙しく、夜家にいないことはまぁまぁあった。
 それでも、母と父の関係が続いているのは普通に凄いことだと思う。勿論、二人はそれぞれ不満があって、例えば父は母が一回のトイレでトイレットペーパーを沢山使うのが気に入らない。トイレからガラガラと音がすると、父の地獄耳のセンサーが作動する。母は父が脱ぎ散らかすのがいつも気に入らないでいる。でも、それは些細なことだ。芸能人が不倫したとか離婚したとか、一番金を持っているであろう家庭も色々あって幸せにはいかない。結局、幸せにしてくれるのはいったい何だろうか? 国産のうなぎに問いかけてもうなぎは答えてくれない。ただ、私の口の中では幸せが広がっていた。それは確かだ。きっと幸せも些細なことなんだろう。



 激しく窓に打ちつける雨の音に目覚めた自分は壁掛けのウサギ模様の時計を見た。朝の7時だ。学校があるわけじゃないからゆっくりしてられるが、もしやと思いカーテンを開けるとやはり窓の外は激しい雨となっていた。外へ出かけるのは今日は無理そうだ。最近、天気予報はスマホで見れる為、テレビを本当に観なくなっていた。
 勉強机の上に充電中のスマホがある。ベッドから降りて充電から外しスマホを見ると、一日雨となっていた。まずは洗面所へ向かい顔を洗い歯を磨く。朝ごはんは食べない派(ダイエットではない)で、水を一杯飲んだ後着替えて勉強を始めた。母はまだ寝ていて父はまだ帰ってきていなかった。母の仕事は老人ホームで看護をしている。そう言えば両親は仕事とかの愚痴をこぼしたことはなかった気がする。一番大変そうな仕事なのに。あるのはやはりお互いの愚痴ぐらいだろう。つい最近だって父が母に洗剤買ってきてといったら粉の洗剤買ってきたりして。で、母が「なんで粉なの! うちは液体でしょ」と言うと父もたまらなくなって「だったらそう言ってよ! 知らないよ!」「知らないじゃないでしょ! 自分家の洗剤くらい覚えておきなさいよ」とかで、本当に些細なことで喧嘩になる。いつだって家事は母親だ。私も手伝うが、父は洗剤を知らない程家事をしない。たまに珍しく洗濯を干したり取り込んだりしてると、服がシワシワになっていることがある。それが私達にはストレスだった。でも、注意すると何もしなくなる。まるで小さな子どものように不貞腐れるのだ。父は何をやらせても雑だし不器用だ。母も私もよく理解しているし、諦めてもいる。



 物音が聞こえた。私はスマホで時間を確認する。9時前くらいだ。どうやら母が起きてきたようで洗面所へ向かって、水が流れる音がした。それからバタバタと暫く続いた後でトイレに行ったのか、トイレットペーパーがガラガラと鳴っている。私は思わず吹き出した。母も母だ。
 暫くして、玄関が開いた。母は帰宅した父を出迎えた。
「おかえり」
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