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seen1_世渡り
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何気ない日常の一幕。さっきコンビニで見つけた新作スイーツをゲットし、早く帰って食べてみたい、とワクワクしながらの帰途。もしくは、疲れたなー、もう何も考えたくない考え事したくないと、ぽやーとして、ぽてぽてと歩く家路。
不意に足元が光る。光がするすると伸び、何かの紋様を描き、その紋様が完成した途端
カッ
強い光を放つ
「え、なに?……まぶしっ!」
思わずつぶったまぶたの向こう側が明るい。
ようやく発光が収まり、どうやら目を開けられそうだと恐る恐る目を開ける。
つるりとした石の床、石の柱、高い天井。
ワッと後ろから声が上がる。
「おお!成功だ」
「ようこそおいでくださった!」
ワイワイと、煽てるように白い雨がっぱのような布を纏った男どもが自分を囲む。さらに見やれば床には自分の周りをぐるりと囲むような模様、さっき見えた文様だ。
どうか、この国をお救いくださいだの、世界の平和のためにとかはやし立てる。
こ、これは!!
アレですね。今や物語のテンプレ、テッパンな。
いやー、こんな平凡な自分にも起きるもんなんだね!宝くじに当たるほうが嬉しいんだけどな。このイベント返品不可ですか、そうですか。
「お呼びするのに力を使い切ったので、元の御国に戻るには相応のお時間を頂かねば・・・
「この危機をお救いいただければ、その後は私どもで貴方様の身分と将来をお約束・・・
「いや、むしろ、ここにおいでいただければ何の不安もなくお過ごしいただける未来が・・・
おっさんズがゴマすりすりしていると、カツンと靴音鳴らして、キラッキラの宝飾品にテッカテカのひらひらしたドレスを纏った化粧の濃い女がずいッと進み出る。
「まあ、皆様まずは、救世主様も突然のことで驚きのことでしょうから、あちらでお茶でもいただきながら落ち着いてお話しをしましょう」
お姫様的アレが出てきて、あれよあれよと豪華な飯を供され有無を言わせず・・・
てなのが、テンプレ的召喚シーンってやつだよね!?
えー!ずるーい。てめえのけつはてめえで拭けや!って、言えるだけそっちの方がまだマシじゃん
<私の場合>
(ちょっと物語風に)
「なんだ、チョコか……」
仕事帰りに立ち寄ったコンビニで見慣れない小綺麗な、洒落たパッケージを手に取り、つぶやく。
ていうか、菓子コーナーでなんだと思ったのか。一体何に期待したのか。
自分に苦笑する。
と、棚の値札が目に入る。
480円!?
高っ!
最近見かける、高価格帯のプレミアム商材とか言うやつだろう。どうりで小洒落たパッケージなわけだ。
PBの89円の板チョコで十分私は満足よ。
棚に戻そうとした瞬間、視界がふっと薄暗くなる。
貧血?
いや、違う。
え?
あったはずの棚が無い。
ゾクッとする。
周りを確かめようと視線を上げる。
バランスが崩れグラリと視界が傾き、目の前に石の床。
え?え?
貧血もちだからわかる。貧血とは違う。くらくらしたり、予兆の体調不良もなかった。
腹の辺りから鋭い何かを感じた。
は?
息を飲もうとすると、呼吸がうまくいかない。
反射的に吐き出したのは息ではなく、ゴボゴボと音を立て溢れ出た。
頬を伝って生ぬるい赤い水溜りが広がる。
石の床に押し付けられた頬が痛い。
打ち付けた肩が痛い。
床、硬い。冷たい。
目の前に赤が広がる。
前髪が濡れる。
血、あったかい。
鉄の匂い、生臭い。
なに?
状況確認しなきゃ。
怠い
周りを見渡さなきゃ…
身体中が辛い
どうなってるの?
熱い
体が動かない。
苦しい
冷静になろうとする理性は痛いとか苦しいとか、ありとあらゆるマイナスな感情感覚に押し潰される。
これはマズイ。生命の危機を悟る。ここから、この状況、状態から離れなければ、とチリチリと全身の毛が逆立ち焼けるような焦り
はやく!ここから!
はやく!!
気ばかり焦るがピクリとも動かない体で、ふと視界に人の姿が入る。
やっぱりこうなったか…
呟きが聞こえた気がした。
ほんの一瞬の間に、呟きの主の思考が自分の体験のように状況が頭に入ってきた。事情を理解する。
なぜか他人の思考が分かる。日本語でもない言語を理解できた。
なぜこのような『召喚』が行われるに至ったのか、そしてこの状態に至るまでの状況がよくわかった。
土石流のような恐ろしい程の情報の爆流。
チョコを戻そうとしたあの瞬間からここまでほんの数秒。10秒と経っていない。
事情を理解したところで気がつくと、視界が俯瞰的になっている。
石畳の床、血溜まりに横たわる自分。
ただし、胸から上だけ。
胸から下は弾けたのか、赤い塊が飛び散っていた。
そっか。
呼吸しようにも、横隔膜がないからできなかったのか。
痙攣で血が吹き出たのか。
さっきまでの肉体的苦痛、本能的に感じた危機感も無くなってる。
もう一度全体を見渡す。
「これって、幽体離脱とか言うやつ?」
転移失敗で内臓破裂でグロなわたし。
んな都合よく綺麗に成功なんておとぎばなしやろ。
結論:召喚失敗
不意に足元が光る。光がするすると伸び、何かの紋様を描き、その紋様が完成した途端
カッ
強い光を放つ
「え、なに?……まぶしっ!」
思わずつぶったまぶたの向こう側が明るい。
ようやく発光が収まり、どうやら目を開けられそうだと恐る恐る目を開ける。
つるりとした石の床、石の柱、高い天井。
ワッと後ろから声が上がる。
「おお!成功だ」
「ようこそおいでくださった!」
ワイワイと、煽てるように白い雨がっぱのような布を纏った男どもが自分を囲む。さらに見やれば床には自分の周りをぐるりと囲むような模様、さっき見えた文様だ。
どうか、この国をお救いくださいだの、世界の平和のためにとかはやし立てる。
こ、これは!!
アレですね。今や物語のテンプレ、テッパンな。
いやー、こんな平凡な自分にも起きるもんなんだね!宝くじに当たるほうが嬉しいんだけどな。このイベント返品不可ですか、そうですか。
「お呼びするのに力を使い切ったので、元の御国に戻るには相応のお時間を頂かねば・・・
「この危機をお救いいただければ、その後は私どもで貴方様の身分と将来をお約束・・・
「いや、むしろ、ここにおいでいただければ何の不安もなくお過ごしいただける未来が・・・
おっさんズがゴマすりすりしていると、カツンと靴音鳴らして、キラッキラの宝飾品にテッカテカのひらひらしたドレスを纏った化粧の濃い女がずいッと進み出る。
「まあ、皆様まずは、救世主様も突然のことで驚きのことでしょうから、あちらでお茶でもいただきながら落ち着いてお話しをしましょう」
お姫様的アレが出てきて、あれよあれよと豪華な飯を供され有無を言わせず・・・
てなのが、テンプレ的召喚シーンってやつだよね!?
えー!ずるーい。てめえのけつはてめえで拭けや!って、言えるだけそっちの方がまだマシじゃん
<私の場合>
(ちょっと物語風に)
「なんだ、チョコか……」
仕事帰りに立ち寄ったコンビニで見慣れない小綺麗な、洒落たパッケージを手に取り、つぶやく。
ていうか、菓子コーナーでなんだと思ったのか。一体何に期待したのか。
自分に苦笑する。
と、棚の値札が目に入る。
480円!?
高っ!
最近見かける、高価格帯のプレミアム商材とか言うやつだろう。どうりで小洒落たパッケージなわけだ。
PBの89円の板チョコで十分私は満足よ。
棚に戻そうとした瞬間、視界がふっと薄暗くなる。
貧血?
いや、違う。
え?
あったはずの棚が無い。
ゾクッとする。
周りを確かめようと視線を上げる。
バランスが崩れグラリと視界が傾き、目の前に石の床。
え?え?
貧血もちだからわかる。貧血とは違う。くらくらしたり、予兆の体調不良もなかった。
腹の辺りから鋭い何かを感じた。
は?
息を飲もうとすると、呼吸がうまくいかない。
反射的に吐き出したのは息ではなく、ゴボゴボと音を立て溢れ出た。
頬を伝って生ぬるい赤い水溜りが広がる。
石の床に押し付けられた頬が痛い。
打ち付けた肩が痛い。
床、硬い。冷たい。
目の前に赤が広がる。
前髪が濡れる。
血、あったかい。
鉄の匂い、生臭い。
なに?
状況確認しなきゃ。
怠い
周りを見渡さなきゃ…
身体中が辛い
どうなってるの?
熱い
体が動かない。
苦しい
冷静になろうとする理性は痛いとか苦しいとか、ありとあらゆるマイナスな感情感覚に押し潰される。
これはマズイ。生命の危機を悟る。ここから、この状況、状態から離れなければ、とチリチリと全身の毛が逆立ち焼けるような焦り
はやく!ここから!
はやく!!
気ばかり焦るがピクリとも動かない体で、ふと視界に人の姿が入る。
やっぱりこうなったか…
呟きが聞こえた気がした。
ほんの一瞬の間に、呟きの主の思考が自分の体験のように状況が頭に入ってきた。事情を理解する。
なぜか他人の思考が分かる。日本語でもない言語を理解できた。
なぜこのような『召喚』が行われるに至ったのか、そしてこの状態に至るまでの状況がよくわかった。
土石流のような恐ろしい程の情報の爆流。
チョコを戻そうとしたあの瞬間からここまでほんの数秒。10秒と経っていない。
事情を理解したところで気がつくと、視界が俯瞰的になっている。
石畳の床、血溜まりに横たわる自分。
ただし、胸から上だけ。
胸から下は弾けたのか、赤い塊が飛び散っていた。
そっか。
呼吸しようにも、横隔膜がないからできなかったのか。
痙攣で血が吹き出たのか。
さっきまでの肉体的苦痛、本能的に感じた危機感も無くなってる。
もう一度全体を見渡す。
「これって、幽体離脱とか言うやつ?」
転移失敗で内臓破裂でグロなわたし。
んな都合よく綺麗に成功なんておとぎばなしやろ。
結論:召喚失敗
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