8 / 10
現在
これからは共に(終)
しおりを挟む私とレオは両親、お義母様、屋敷で働く者達と領民に見守られて教会で式を挙げた。
ベール越しだから、レオには見えないと思って遠慮なく見つめていると、彼は困ったような表情になる。
気配で見られているとわかるのかも?
それに、誓いのキスはベールを上げて唇を一瞬掠めるようなものだった。
やっぱり私のことは王命だから仕方なく娶るのかもしれない。悲しい。
だけど、その後の晩餐でお義母様はこの日を楽しみにしすぎて、嬉しくて泣きすぎて顔が腫れてしまったから出迎えることができなかったとすまなそうに笑った。確かにまだ少し、目蓋が腫れている。
そんな話を聞いたら私の気分も上向いた。
「ようやくこの日を迎えられて嬉しいわ。よろしくね」
「はい、お義母様。こちらこそよろしくお願いします」
「もう、誰にも邪魔されないのだから、そんなに堅苦しいのはやめましょう。駆け足で結婚式をすませてごめんなさいね。……だって、レオが急かすものだから」
「あらまぁ、もっと詳しく聞きたいわ」
お母様がそう言って、まるで昔みたいな和やかな雰囲気になる。
私はちらちらとレオを見てしまって、その度に彼と目が合ってどきどきした。
お義母様の話からすると、レオも私を嫌っている訳じゃないのよね?
王妃生活で表情に出さないことに慣れていたから、私が混乱していることに気づかないと思うけど。
みんなのおしゃべりが頭の中に入ってこなくて、穏やかで夢みたいな時間にそっと息を吐く。私にとっては、好きな人と結婚できて嬉しいから。
お義母様が私の様子に気づいた。
「今日は移動してきたばかりで疲れたでしょう。……レオ」
「……では、先に失礼しますね。ジュスティーユ、行こう」
「はい」
みんなが微笑んでいるから、それ以上何も言わずにほんの少し会釈してレオに続く。
なんとなく客室に行くと思っていたから、大人になった彼の部屋に案内されて、驚いた。
どうしてこんなにぼんやりしていたんだろう。
今夜は二人の初めての夜。
みんなが微笑んでいたのは、つまり、わかっていたから?
恥ずかしくて、でも今さら何も言えない。
それに、レオと二人きりだなんて、胸が痛いくらい、激しく打った。
「ジュジュ」
懐かしい呼び方に泣きたくなって、瞬きを繰り返してなんとかやり過ごす。
いつの間にか、レオが私の顔を見下ろしていた。
「ジュジュ、ますます綺麗になったね……この結婚は、いやだったか……?」
彼の真摯な眼差しを受け止めて、私は首を横に振ってから口を開いた。
「レオが嫌なのかと思ったの……私は、ずっと……」
彼を見つめていると好きだと言う気持ちが溢れてくる。
私の震える唇を、彼のそれが覆った。
柔らかくて、温かい感触だとわかるくらいの長い時間。
「俺の勘違いじゃないなら、先に言わせてほしい。……昔からジュジュだけを愛してきた。離れている間もずっと……何度も手紙を読み返して耐えたんだ。……ジュジュ、愛しているよ」
耐えられなくて嗚咽が漏れる。
私も愛している、と伝えたいのに喉が震えて声が思うように出ない。
「……っ、……レオ……」
彼に抱きつくと、レオの腕が背中に回されて私を包み込むように抱き寄せる。
それから彼はそっと息を吐いた。
「目の前にジュジュがいるのが夢みたいで、でも同じ気持ちじゃないかもしれないと、不安になったんだ。あまり表情に出ないから」
レオも私と同じことを考えていたなんて。
嬉しくて胸がいっぱいで、でもまだ言いたいことを少しも言ってない。
「愛している……私も同じこと、考えていたの。好き……ずっと、昔からレオだけ、レオだけが好きなの……」
彼が私の頬に唇を寄せる。柔らかい感触にそっと顔を向けると再び唇が重なった。
夢をみているみたい。
「長かったな……」
私達はただただ見つめ合った。
レオの綺麗な碧い瞳が潤んでいる。それを見てまた涙が溢れたけれど、大きな手で優しく拭ってくれるからほっと息を吐いた。
「……レオ、たくさん話したいことがあるの」
「教えて。聞きたい」
その夜は、お互いの手を握りながら寝台に上がってお喋りをした。
ドレスを緩めてもらうのはすごく恥ずかしかったけど、この日の為にレオが用意していたと聞いて、私は嬉しいのに涙が止まらない。
ドレスごと抱きしめられて、それから笑って、時々唇を重ねて……朝を迎えていた。
翌日は両親が領地に戻るというので見送った。
レオの妻として見送る日が来たことが感慨深い。
「落ち着いたら、遊びにおいで」
「はいお父様、色々ありがとうございました。帰りもお気をつけて」
お父様とレオも握手を交わし笑顔で頷き合い、お母様とお義母様も涙を浮かべてお互いを抱きしめ合っていて、本当に気が合うのだと思った。
二人を乗せた馬車が見えなくなってから、私とレオは街まで出かけることにした。
眠くならないのは、いまだに気持ちが高ぶっているからかもしれない。
「揃いの指輪が欲しい。それにもっとジュジュを飾りたい」
そう言って、私の胸元のロケットペンダントに触れる。
「このペンダントのおかげで私は耐えることができたの。だから、これは外したくないわ」
レオはもっと宝石のついた派手なものを私に送ろうとしているの?
そう思って首を傾げる。
「俺も今だって身につけている。……まいったな、喜んでもらえるかわからなくなった」
レオがまっすぐ向かったのは宝飾店だった。
別室に案内されて、目の前に指輪がずらりと並ぶ。
「気にいるのがあればいいんだが」
ずいぶん消極的な物言いに私は笑顔を向けた。
「私、一目でこれが気に入ったの。つけてみていいかしら?」
控えめな模様の彫られた指輪を選び、レオも笑顔になってあっさり決まった。あとはサイズの調整をしてもらうだけ。
その後、店主が奥から箱を持ってきた。
「これがお預かりしていたものです。では数日中に指輪をお届けに参りますので」
レオが箱を受け取り、馬車に乗る。屋敷に帰るかと思ったけれど、領地を見下ろせる高台へ連れてこられた。
二人でベンチに腰掛けて、のんびり景色を眺める。
「ジュジュ、開けてみて」
隣に座ったレオからさっきの箱を受け取り、開いた。
水色と碧い宝石が散りばめられた二つのロケットペンダントが並んでいる。
お互いの瞳の色と一緒で、とても贅沢で手の込んだ細工が施されていた。
「とってもきれいね……」
「新しいものを用意していた。どうだろう? 今身につけているものは、俺達を結ぶ絆となってくれたけれど、思い出すのは楽しいことばかりじゃない。だから、よければこれをつけてほしい」
お店に入る前に、呟いていたのはこれのこと?
「はい。すごく嬉しいわ。これに今のレオの姿絵が欲しい。……新しいペンダントはきっと見るたびに幸せな気持ちになるわね」
そう答えると、レオが心から嬉しそうに笑った。
私達はまだ離れていた時間を取り戻せていない。
「レオ、大好き。まだ、話し足りないみたい。早く帰りたいわ」
「そうだな、俺達の家へ」
私達は手を握って歩き出した。
終
******
お読みいただきありがとうございました。
この後は、糖分を追加したいのでR18二人の初めての夜、レオ視点のその後の小話(Rなし)の予定です。
3
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
貴方の記憶が戻るまで
cyaru
恋愛
「君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
初夜、夫となったサミュエルにそう告げられたオフィーリア。
3年経ち、子が出来ていなければ離縁が出来る。
それを希望に間もなく2年半となる時、戦場でサミュエルが負傷したと連絡が入る。
大怪我を負ったサミュエルが目を覚ます‥‥喜んだ使用人達だが直ぐに落胆をした。
サミュエルは記憶を失っていたのだった。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる