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現在
夢は現実に
しおりを挟む* レアンドル視点
「ここ……! レオ、ありがとう!」
振り返ったジュジュが無邪気に笑った。
今日は天気がいいから散歩に誘って、さくらんぼの木が群生している場所まで連れて来た。
今年は暖かくて、いつもより赤くなるのが早い。今がちょうど食べ頃だ。
昔ジュジュからもらった大切な手紙に、やりたいことの一つとして俺の好きなさくらんぼを一緒に摘んで食べたいと書かれていた。
寂しい時、苦しい時に何度も開いたから、暗記してしまったものもある。
今目の前で笑う顔に、胸が熱くなった。
俺のジュジュ。
六年ぶりに会った彼女はいかにも王妃然とした態度で距離を感じた。
思わず、ジュスティーユと呼んでしまったくらいに。
もしかして、変わってしまったのかと。
離れていた間は連絡を取り合うこともできなかったから、辛くて悔しくてたまらなかった。
陛下はまだ子どもだと自分に言い聞かせて、ジュジュや公爵のことを信じるしかなく、仕事に打ち込んだ。
今はようやく一緒になれた幸せを噛み締めているけれど、過ぎたことだと言えるほど簡単に感情が飲み込めない時がある。
「レオ、この籠に摘んでいいの?」
「ジュジュ」
腰に腕を回して柔らかな彼女を抱きしめた。体温を感じて夢じゃない、そう実感する。
「レオ、これじゃ摘めないわ。一番甘いのをあげるから」
「そう、じゃあ楽しみにしてる。俺も、ジュジュに一番美味しそうなのを選ぶよ」
彼女の髪に口づけを落としてから、手を繋ぐ。
どこか触れていないと落ち着かないのは今だけで、いつか落ち着くのだろうか。
王都から離れた辺境領は、意外にも平和だ。
義母上が嬉々として語ったことによると、陛下が白い結婚による婚姻の白紙を発表した事で、一時はあの美女が妻でそれはありえないと国中騒がしかったらしい。
だけど隣国の王女を早々に呼び寄せる事で鎮静化を図ったようだ。
辺境伯家と公爵家が結びつくことで国内の派閥の均衡が崩れるのでは、と昔から懸念していたらしい宰相も、こうなってしまえば今選べる手の中で最善を尽くすしかないだろう。
正直、辺境領は独立しても問題ない。
これまでの恨みを仄めかせて、慌てる様を眺めるのもいいかもしれない。
領民は昔からジュジュを知っているから、領主の妻として受け入れ祝福してくれている。
それに彼女は、家族や俺が結婚の真実を知っているからいいけれど、王都になんて近づかないとちょっと怒ってから、笑った。
「レオ、あっちのほうが赤く見えるわ」
「そうだな」
低いところに実がつくように剪定してあるから、ジュジュの取り留めのない話を聞きながら小さな籠に放り込む。
これは今夜二人で楽しんでもいいけれど、夕食のデザートか朝食のジャムにしてもらうのもいい。
彼女のおしゃべりがとても心地よくて、なんでも頷く俺に、聞いてる?と訝しげな顔をされた。
「聞こえているよ。……口、開けて」
ジュジュの口に真っ赤に熟れたさくらんぼを入れる。
口を閉じて咀嚼した後、笑顔になった。
「とっても、甘いわ。……じゃあ、これをレオに」
彼女の選んださくらんぼを、俺は指ごと咥えた。
「レオっ!」
白くて細い指をほんの少し甘噛みして、彼女を解放する。
真っ赤になって可愛い。
ジュジュのどんな一面もたまらなく好きで、嫌になるところがない。
「すごく甘くて美味しい。もっと、食べたい」
そう言って、ジュジュにねだる。
今度は恐る恐る俺の口元に運ぶから、手首を掴んでさくらんぼだけいただく。
「……レオって、意外といたずらが好きなのね」
「……そう? 多分、ジュジュにだけだよ」
首を傾げる様子も、なにもかも愛おしい。
「こうして毎日一緒にいられて、私……とっても幸せ。レオのことを知っていくのは嬉しいし楽しい。二人でさくらんぼを摘むの、夢だったの」
「……よかった。籠いっぱい摘んだら、お茶にしよう。ジュジュの好きなものを詰めてきたんだ」
彼女の好きな菓子に、軽食、好きなお茶。
もっと笑顔が見たい。
彼女の夢は全て叶えたい。
「じゃあ、がんばるわ。レオも急いで!」
そう言いながらも、時々ジュジュが俺の口にさくらんぼを放り込む。
「ジャムにしてしまうのは惜しいくらい甘そうだったから」
ずっとこの笑顔を見ていられるし、いくらでも食べられた。
「レオ、大好き。……ずっと待っていてくれてありがとう」
いきなりそう言われて言葉に詰まる。
「俺はジュジュしか考えられなかったから……だけど。何もできなくてごめん」
父が急に亡くなって、いきなり爵位を継ぐことになったのはとても大変だったし、身を粉にして働き、なるべく領地のことだけを考えてここまでやってきた。
ジュジュこそ、いつ足元を掬われるかわからない環境で長く耐えてきた。
彼女がわずかに首を横に振る。
それから、俺を見つめて微笑んだ。
「レオ、愛しているわ」
ジュジュのまっすぐな想いに胸を打たれる。素直に想いを伝えるのは、照れくさいけれど。
「ジュジュ、愛している」
再会してからの時間が足りないし、もっと色々なことを言葉にしたいのに。
どうやって労ったらいいのかわからない。
失った時間は取り戻せないけれど、これから先は二人で歳を重ねていける。
きっと一生をかけて彼女に心を伝えていくのだろう。
そっと抱き寄せて気持ちを込めて口づけた。
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みんなの感想(36件)
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本日、夢は現実に、を拝読しました。
お二人は、本当に、色々なことがあって。これまで、様々なことを思い考えてきて。
でも。
こうしたお時間を共有できるようになった。
それが、こちらとしても非常に嬉しいです。
無邪気に笑っているジュジュさん達の、お姿。
ふわりと、頭に浮かんできました……っ。
6年ってすごく長いと思うんですが、
ようやく、同じ時間を共有することができるようになりました〜
ジュジュも素直に笑えるようになって、二人はこれから!だと思っています♪
忙しい中、お読みくださりありがとうございました〜🤗
子供だったアンベールを利用した宰相は嫌悪しますが、アンベールは年頃になり、自分で気付き、力を持った時点できちんと主人公のことを考えて手放してますし、初恋相手に無理強いしさる気もないし、むしろ良いイメージがあります。
子供が間違えた時に、正すのは大人の役目。
それをしなかった、出来なかった大人が情けない。こんな環境でまともに気付けたのは、主人公含めた後々の周囲のおかげですかね。
良き為政者になれそうな気がします。
こちらにも! 嬉しいです〜♪
アンベールは一話目を書いた時に意見が分かれると思っていたので、
tenさまのおっしゃりよう、わかります!
子どものちょっとしたわがままを諌めなかった、宰相達大人がいけないんですよね……。
アンベールにとって、とても苦い経験になりましたが、それらを糧に彼は頑張ると思います!
ありがとうございます〜🤗
大・団・円!
アンベールや宰相? 知らん!
ジュジュたち、初恋成就おめでとう🎉
宰相周辺への恨みを込めて、辺境を独立させちゃえ! ジュジュ母たちは辺境にお引っ越しして、ねww
アンベール・・・結婚させたのは宰相周辺が悪いけど、6年も解放しなかったのはアンベールが悪い。 好き嫌いではなく、王としての決断力が。。。
宰相周辺の男ども・・・真実を知った娘や孫娘から「キライ!」って言われてしまえ! 情報源は、娘たちを同じ目に合わせたくない(宰相たちの)家族である女性たちさ!
いっそのこと、ジュジユたちのハッピーエンドともども国中にバラす!
知らん! に吹き出しちゃいましたよ〜!
確かにアンベールは、もっと早くに解放していたら別の方向に進めたかもしれないんですよね〜(´-`)初恋も。。。
seraiaさまの案を採用したら楽しいことになりますね〜(*´艸`*)
宰相周辺は一気に女性を敵に回しますしw
すでに辺境伯家と公爵家の動きにもびくびくしてると思いまーす♪
お読みくださりありがとうございます〜🤗