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「バラ園の花も咲き始めたのに、こんなところへ案内するなんてね。ノアに今まで浮いた話のひとつもなかった理由がわかるよ」
にやりと笑って王太子殿下が近づいてきた。
眉が太く、目力が強くて声も大きい。
ライオンのたてがみのような髪も存在感があって次期王様の風格がある。
結婚前は婚約者候補が六人いて、恋人も何人かいたのだとか。
「ひさしぶりだね、イーディス嬢」
「おひさしぶりです、ジェイソン殿下」
上から下まで品定めするように私を見る。
身じろぎしたくなるのをこらえて平静を装った。
「相変わらず公爵家の妖精姫と言われるだけあるな」
妖精姫?
そんなふうに呼ばれたことは一度もない。
もしかしたら私が目立たなくて存在感がないから遠回しな悪口なのかも。
「兄上、どうしたのですか?」
「あぁ、西部の領地から新たな意見書が届いた。代理人も商業ギルドに手を焼いているようで、早く返答がほしいそうだ」
隣国に面した領地だから、いろんな商品が出回ったり交流が活発だったりすることでトラブルもあるのかもしれない。
「そうですか……わかりました。教えてくださりありがとうございます」
「たまたま渡り廊下を歩いていて見かけたついでだ。では、この堅物男からイーディス嬢を解放してあげよう。顔色が良くないのは息がつまるような時間だったからかな、ははっ。弟は私が連れて行くよ」
すべてドレスのせいで、ノア殿下との時間は……楽しかった。
はいと言ったらノア殿下に失礼な気がするし、そんなことないと言うのもジェイソン殿下の反応が怖くて黙ったままスカートの裾をつまんで挨拶をした。
王太子殿下はいつ会っても威圧感がすごくて苦手。
「イーディス嬢、すぐにアンドレが来るから一緒に帰るといい」
ノア様が見上げた視線の先は執務室で、お兄様もこっちに気づいたみたい。
書類をまとめた後、窓際から姿が消えた。
きっと急いで迎えに来てくれる。
「わかりました」
二人の王子様は全然タイプが違う。
遠ざかっていく後ろ姿をぼんやり眺めていると後ろから強く香水が匂ってきた。
この甘くてスパイシーで攻撃的な香りは――。
「こんなところで一人? さみしいわね」
振り返るとサバンナ嬢が侍女を連れて近づいてくる。
今日はいろんな人に会う日みたい。
ため息をつきたくなった。
「ごきげんよう、サバンナ嬢。兄を待つ間、ここでスイセンを見ていたのです」
「ふぅん? ノア殿下に会いにきたのではなくて?」
サバンナ嬢はどこから見ていたのだろう。
あまり刺激したくない。
「まさかあなたが狙っているなんて思わなかったわ。私がノア殿下と結婚するのよ。彼に近づかないでちょうだい」
ノア殿下にさっき求婚されたばかりだから、本当に驚いた。
表情が顔に出ないことが悩みだったけど、今日はそれが嬉しい。
「…………」
もしかして王太子殿下はサバンナ嬢とノア殿下を結婚させようとしているのかも?
華やかなサバンナ嬢はお兄様が言っていた刺激的な相手だとも思う。
「まただんまり? それとも驚いて何も言葉が出ないの?」
「……驚いてしまって」
「そうでしょう? 順番としては年上のあなたが先なのよね。でも私なの」
彼女は勝ちほこったように言って笑う。
「実は私、王太子殿下に特別な教育を受けるように言われてデービース先生にいろいろなことを教わっているの。ふふっ。もう毎日忙しいわ。課題も多くて……あっ、授業に遅れてしまうから行くわね!」
私が返事をする前に彼女は軽い足取りで王宮に向かう。
デービース先生には私も第三王子の婚約者だった時にお世話になった。国内外の礼儀作法から歴史や文化まで幅広く教わった。
私は本当にノア殿下の妻になれるのかな?
王太子殿下の口添えで第三王子とすんなり婚約解消できて、彼らは結婚することになったのだもの。
「待たせたね、イーディス。……どうかしたのか?」
お兄様は予想通り早足でやってきた。
ほんの少し息が乱れていて、ここまで急いできたのがよくわかる。
じっと見つめていると、私の顔をのぞき込んで眉をひそめた。
「どうした?」
「今、サバンナ嬢と話したの。彼女、王太子殿下に言われて特別な教育を受けているそうで……ノア殿下と結婚するのだって」
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