好きな人に好きだと言えるのは幸せだ

能登原あめ

文字の大きさ
5 / 14

4 婚約まであと少し

しおりを挟む


 婚約パーティまでの間、少しでも時間が空くとシェネイの元を訪ねた。
 異母妹夫妻がたびたび子連れで顔を出していて、行くたびに顔を合わせる。
 暇なのかな。

「できれば近くの領地だと嬉しいですね」

 どこの領地がもらえそうなのかとか、探りを入れてくるのはおこぼれがほしいとか?
 元婚約者だからって、シェネイに手を出そうと思っているならそうはさせない。
 彼女が嫌な思いをしていないか、注意深くみる。
 俺ができることはなんだろう。


「イライアス様、こちらへどうぞ」
「ありがとう、シェネイ」

 彼女の部屋に誘われていそいそついていく。
 扉は少し開けたまま。それでもこの部屋に入ると落ち着いた。
 一杯のお茶を飲んで、おしゃべりをして。
 シェネイは最初の頃より口数が増えた。
 やっぱりまだ他人行儀なんだけど、笑顔が増えたから前進してると思う。友達くらい?
 
「じゃあ、出かけましょう」

 婚約の準備だと言って、なるべく彼女を連れ出す。今日は評判の庭園を眺めるつもりだけど、大通りに買い物に出かけたり、流行りのカフェに入ったり、観劇もした。
 初めて2人で出かけた記念に花をあげたら、押し花にしてしおりを作ってくれたのは忘れられない。
 宝物が増えた。

 本当はシェネイを飾るものを贈りたいけれど、成人するまでは俺名義の財産は手をつけられないから花やお菓子になってしまう。
 でも、異母妹がシェネイに渡したものが何かチェックしているようだから、これでいいのかもしれない。

 早く大人になって、領地の経営も頑張らないと!
 シェネイがストレスなく暮らせる生活をして、たくさん贈り物をしたいからね。

「イライアス様、忙しいのでしょう? ご無理なさいませんよう……」
「大丈夫ですよ。シェネイといると元気になりますから。本当は毎日一緒に過ごせたらもっと疲れないです」

 学園に通っていた時期もあるけれど、今は家庭教師をつけてもらっているから、通学の時間がない分楽になっている。

「イライアス様ったら……」
「シェネイが疲れているなら、ここでのんびりしますが……」

 できればここから連れ出したい。ここじゃない場所の方がのびのびしてみえるし、表情がわかりやすいから。
 お互いじっと見つめ合った。
 まだまだ経験も力も足りないけど、いつか甘えてもらえるようになりたいな。

「……イライアス様が平気なら、行ってみたいです」

 俺は彼女の手をとって歩き出した。
 手をつなぐとしっくり馴染む。
 口に出さない言葉が伝わってくるみたい。
 向かった先の庭園の花は人が少なくて嬉しく思ったものの、咲き初めだからか蕾が多く、少し残念に思った。少し寂しい景色。

「……もう一度、ここに来る楽しみができましたね。満開に咲いたら、とてもきれいでしょうね」

 彼女が蕾に目を止めたまま、微かに笑った。
 それがきれいで可愛くて、一瞬心臓が止まるかと思ったほどで。
 俺はシェネイをますます好きになっていく。

「イライアス様?」
「また一緒に見に来ましょう」
「……はい」

 今日も一緒に過ごせてよかった。
 






 俺の部屋に誘うのは3度目だ。
 1度目は宝物を見せるため、2度目はばあやのケーキを食べようと誘って、3度目の今はなぜか兄に邪魔されている。

「……そういえば、昔イライアスが私の部屋に泣きながら飛び込んできたんだ。お化けが出たと言って。あれは……揺れるカーテンの影から現れた猫を勘違いしたんだよな」
「それは、あの日、兄上が冤罪で処刑された悪役令嬢が夜中に自分の頭を探すという怖い話をしたからです! 幼な子には恐ろしく感じるでしょう!」
「12歳だったのに?」
「~~、兄上っ!」

 昔の俺の恥ずかしい話を好きな人に言うとか、嫌がらせでしかない。
 でもシェネイが楽しそうだからいいのかな……。
 どうせなら、俺の美談とか……なにか、美談……ないな。残念ながら。

「私も初めてその話を聞いた時は部屋をのぞかれたらどうしよう、と思いました。……部屋にそのようなものは落ちてないので来ないと開き直りましたが」
「はははっ、まぁ、そうだよな」

 幼い頃から論理的で落ち着いていたんだなぁとシェネイのことを知れて嬉しいけれど、楽しそうに笑う兄にはなぜかイラっとする。

「うまいことバランス取れてるんだな」
「何がです?」

 兄が俺とシェネイを見て言った。

「いや、お前達が仲良くやれそうでよかったと思っただけだ」
「そりゃ、後世に伝わるくらいの仲良し夫婦となりますから。兄上は邪魔しないで下さい」

 今さらシェネイの良さに気づいてももう遅い!
 
「……婚約まで1週間か。シェネイ、まだ間に合うぞ。俺にしておけ」
「兄上~~‼︎ 何、言ってるんですか!」

 兄ならありとあらゆる手を使って、やりかねない!
 にらむが全く効果なし!

「……トリスタン様、おふざけはそれくらいにされた方がよろしいかと」
「シェネイ嬢は俺より弟を選ぶのか?」
「はい。……私も後世に伝わるくらいの仲良し夫婦となってみたいのです」
「へぇ……?」

 兄はにやにやして、シェネイはすました顔をしてお茶を飲んでいるけれど。
 心臓が、俺の心臓が!

「シェネイ、あなたのことが大好きです! 兄上、早く出ていって下さい‼︎ 2人きりにしてっ!」
「あー、わかった。とうとうクマたんを手放す日が近づいたようだな」
「なぜそれを――!」

 俺が生まれた時に父から贈られた熊のぬいぐるみは、今の今まで大切にしてきた。
 つらい時も嬉しい時も抱きしめて眠ったものだけど……。
 
「すでに見せていただきましたわ。好きなものを大切にする姿に心がくすぐられましたの」
「ははは……っ、それはそれは、ご馳走様」

 笑いながら兄は出ていったけど、シェネイにぬいぐるみの名前までは教えてなかったんだ!
 幼い頃からそう呼んでいたからしかたないだろう……。
 
「イライアス様、手放さなくていいですから」
「……ありがとう」

 それ以上何も言えなかったけど、シェネイが赤くなった俺のことを少しも笑わず、手を握ってくれる。
 兄に邪魔されたけど、彼女の気持ちを聞くことができて、今日は特別いい日だ。
 シェネイに一歩近づけた気がする。
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】六歳下の幼馴染に溺れた夫。白い結婚を理由に離縁を申し立てたら、義弟(溺愛)に全力で求婚されました

恋せよ恋
恋愛
夫が愛でるのは、守ってあげたくなるような「可憐な少女」。 夫が疎むのは、正論で自分を追い詰める「完璧な妻」。 「シンシア、君はしっかりしているから、大丈夫だろう?」 六歳年下の幼馴染ジェニファー子爵令嬢を気遣う貴方。 私たちは、新婚初夜さえ済ませていないのよ? 完璧な家政、完璧な社交。私が支えてきたこの家から、 ニコラス、貴方って私がいなくなったらどうなるか……。 考えたこともないのかしら? 義弟シモンは、学生時代の先輩でもあるシンシアを慕い 兄ニコラスの態度と、幼馴染ジェニファーを嫌悪する。 泣いて縋るあざとい少女と、救世主気取りの愚かな夫。 そして、義姉であるシンシアを慕うシモン。 これは、誇り高き伯爵夫人、シンシアの物語である。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

処理中です...