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拡散
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——そんな未来。
圭太は社長の菊池から言われて、初めて自分にもギターだけではなく、新しい才能の発掘やプロデュースという未来も選択肢にあることに想いを馳せながら、「ケイ」と名乗ったあの女の子と自分がコラボした動画を何度も何度も繰り返し見ていた。
多分スマホのカメラで撮影したと思われるこの動画は、録画状態もさしてよくなく、マイクも通さず屋外で歌っているケイの声の何分の1も伝えきれてないが、ちょうどよい角度から撮影されていて、あの日、圭太がほとんど背中から見ていた彼女を正面から捉えている。
まだ幼さの残る顔と、彼女がまだ生まれていない時代のオールディーズとのギャップが逆にとても新鮮だ。しかも、まるで録音を何度も重ねて作り上げるメディアのように完璧な音程で、とても初めてのセッションでの歌唱とは誰も信じないかもしれない。
動画を何度も繰り返すうちに、圭太は居ても立っても居られない気分になるなった。
——なんとかしてケイを探してみる方法は?
思案しているうちに、圭太はスマホを手に動画サイトの投稿者へのダイレクトメールを出してみることを思いついた。投稿者があの街に住んでいるか働いている可能性がある。そうだとすれば、あの日あそこを通りがかった彼女の制服が、どこの高校あるいは中学のものか知っているかもしれない。
「初めまして。自分はあなたの投稿した動画でギターを弾いていた、プロのミュージシャンとして活動している者です。もしよければあなたと少しお話をしたいので、お返事をいただけませんか」
——送信、と。
これまで知らない相手にこんなメールを送ったことはない。こんなメールに返事が来るかどうかはわからないが、一か八かだ。そう覚悟を決めた。
メールを送ってまた動画を見ていると、ほんの数十秒後にスマホが「ヴヴッ」と震えた。
「すごく上手いデュオだなとは思いましたが、やっぱりプロの方だったんですね。だとしたら、やはり投稿しては不味かったですよね。すみません。削除させていただきますので、許してください」
動画の投稿者からのメールだった。圭太は慌ててまたメールを送る。
「いや、動画はそのままでも構いません。というか、ぜひ消さないでください」
「ありがとうございます。あの日、2人がすごくかっこよかったのでつい動画を撮影してしまいました」
メールのやり取りが始まった。
「謝る必要は何もありませんので気になさらずに。ところで少し聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう」
「ここで歌っている少女なんですが、あなたも知らない子ですよね?」
「はい、知りませんが。デュオとして活動しているんじゃないんですか」
「いえ、実はあの日が初めて会った子で。じゃあ、つかぬことを聞きますが、彼女が着ている制服はどこの学校かご存知ありませんか。あの辺の地元の高校ならあなたは知らないかなと思ってメールしました」
「私も長くあの近くの仕事場に通ってますが、あの制服は駅の近くでも見たことはありませんよ」
「そうですか。残念です。実はあの子を探しているんですが、無理そうですね」
「ああ、そうなんですか。でも、それならネットに聞けば一発ですよ、きっと。なんなら私が探してみましょうか」
「そんな方法があるなら、お願いできますか」
「ちょっと時間をください」
いったい何をする気だろう。とにかく待つしかないと腹を括り、圭太は動画を見ながら返事を待った。
30分ほど経過した頃、再びメールが入った。
「見つけました。横浜にある聖華国際学園という私立高校です」
「ありがとうございます。横浜ですか。制服だったので近くかと思っていました。でも、どうやってわかったんですか」
「ツブッターに乗せて、友達に拡散してもらいました。すみません、今度はツブッターでちょっとバズったかもしれません。きっとすっかりお二人は有名人になってるかも知れませんw」
「私は一応プロなので、名前が売れるのはいいことだと思いたいです。色々ありがとうございました」
「こちらこそ。テレビとか出ることになったら、教えてください。応援しています」
「基本はスタジオミュージシャンなので、なかなかそういう機会はなさそうですが、努力します。その時はよろしくお願いします。では」
そう言ってメールのやり取りは終わった。その時圭太はまだ気がついてなかったのだが、確かにツブッターではまた「超絶歌がうまい女子高生」の動画が順調に拡散されたことを圭太が知ったのは翌日の朝になってからだった。社長の菊池はどんな悔しい顔をしてその動画を眺めていたかは知らぬが花だ。
圭太は社長の菊池から言われて、初めて自分にもギターだけではなく、新しい才能の発掘やプロデュースという未来も選択肢にあることに想いを馳せながら、「ケイ」と名乗ったあの女の子と自分がコラボした動画を何度も何度も繰り返し見ていた。
多分スマホのカメラで撮影したと思われるこの動画は、録画状態もさしてよくなく、マイクも通さず屋外で歌っているケイの声の何分の1も伝えきれてないが、ちょうどよい角度から撮影されていて、あの日、圭太がほとんど背中から見ていた彼女を正面から捉えている。
まだ幼さの残る顔と、彼女がまだ生まれていない時代のオールディーズとのギャップが逆にとても新鮮だ。しかも、まるで録音を何度も重ねて作り上げるメディアのように完璧な音程で、とても初めてのセッションでの歌唱とは誰も信じないかもしれない。
動画を何度も繰り返すうちに、圭太は居ても立っても居られない気分になるなった。
——なんとかしてケイを探してみる方法は?
思案しているうちに、圭太はスマホを手に動画サイトの投稿者へのダイレクトメールを出してみることを思いついた。投稿者があの街に住んでいるか働いている可能性がある。そうだとすれば、あの日あそこを通りがかった彼女の制服が、どこの高校あるいは中学のものか知っているかもしれない。
「初めまして。自分はあなたの投稿した動画でギターを弾いていた、プロのミュージシャンとして活動している者です。もしよければあなたと少しお話をしたいので、お返事をいただけませんか」
——送信、と。
これまで知らない相手にこんなメールを送ったことはない。こんなメールに返事が来るかどうかはわからないが、一か八かだ。そう覚悟を決めた。
メールを送ってまた動画を見ていると、ほんの数十秒後にスマホが「ヴヴッ」と震えた。
「すごく上手いデュオだなとは思いましたが、やっぱりプロの方だったんですね。だとしたら、やはり投稿しては不味かったですよね。すみません。削除させていただきますので、許してください」
動画の投稿者からのメールだった。圭太は慌ててまたメールを送る。
「いや、動画はそのままでも構いません。というか、ぜひ消さないでください」
「ありがとうございます。あの日、2人がすごくかっこよかったのでつい動画を撮影してしまいました」
メールのやり取りが始まった。
「謝る必要は何もありませんので気になさらずに。ところで少し聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう」
「ここで歌っている少女なんですが、あなたも知らない子ですよね?」
「はい、知りませんが。デュオとして活動しているんじゃないんですか」
「いえ、実はあの日が初めて会った子で。じゃあ、つかぬことを聞きますが、彼女が着ている制服はどこの学校かご存知ありませんか。あの辺の地元の高校ならあなたは知らないかなと思ってメールしました」
「私も長くあの近くの仕事場に通ってますが、あの制服は駅の近くでも見たことはありませんよ」
「そうですか。残念です。実はあの子を探しているんですが、無理そうですね」
「ああ、そうなんですか。でも、それならネットに聞けば一発ですよ、きっと。なんなら私が探してみましょうか」
「そんな方法があるなら、お願いできますか」
「ちょっと時間をください」
いったい何をする気だろう。とにかく待つしかないと腹を括り、圭太は動画を見ながら返事を待った。
30分ほど経過した頃、再びメールが入った。
「見つけました。横浜にある聖華国際学園という私立高校です」
「ありがとうございます。横浜ですか。制服だったので近くかと思っていました。でも、どうやってわかったんですか」
「ツブッターに乗せて、友達に拡散してもらいました。すみません、今度はツブッターでちょっとバズったかもしれません。きっとすっかりお二人は有名人になってるかも知れませんw」
「私は一応プロなので、名前が売れるのはいいことだと思いたいです。色々ありがとうございました」
「こちらこそ。テレビとか出ることになったら、教えてください。応援しています」
「基本はスタジオミュージシャンなので、なかなかそういう機会はなさそうですが、努力します。その時はよろしくお願いします。では」
そう言ってメールのやり取りは終わった。その時圭太はまだ気がついてなかったのだが、確かにツブッターではまた「超絶歌がうまい女子高生」の動画が順調に拡散されたことを圭太が知ったのは翌日の朝になってからだった。社長の菊池はどんな悔しい顔をしてその動画を眺めていたかは知らぬが花だ。
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