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わかってるでしょうね
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学園が借りているサーバーがダウンしたと西川先生から圭太が聞いたのは、学園祭が終わった翌週の土曜日に、今年のスカイシーの解団式に行ったときことだった。
学園側としてはこれほど外部から集中してアクセスがあることは甚だ想定外のことで、少々困惑しているという。
もともと学園の生徒募集とそれに伴う生徒たちの活動を紹介するためのホームページであり、レンタルサーバーの容量もこれまでは十分であったところであるが、圭やスカイシーの活動の場を学園以外の場所に拡げれば、今回のような想定外の事態がまた起こり得る可能性がある。圭が音楽活動をこれから増やしていくなら、事務所側にその対応をさせろという極端な意見まであるらしい。
とてもいいライブだったと思っている圭太としては、学園側のそんな反応がとても残念だった。生徒たちは何ヶ月もの練習の成果を発揮し、あんな立派な会場で実に生き生きとした音楽を奏でていた。学校という場所が生徒たちを育てる場所であるというのなら、学園にはそんな目標を達成できた彼女たちを誉めてあげて欲しかったと思う。ましてや伝統とか格式とかサーバーがどうとかだと? がっかりだ。
「先生も、そう思いますか?」そんな気持ちをグッと堪えて、圭太は西川先生に聞いた。圭太はもともと部外者だ。でしゃばってはいけない。
「私としては——」西川先生はなんとも言えない複雑な表情をして、圭太をじっと見ていた。
「私としては——」再びボソッと口を開いた。「あんなに生徒たちが頑張ったのに、サーバーがどうとか、お金がどうとか、もう脳みその凝り固まった連中は教師なんかさっさとやめっちまえ」
西川先生はそれだけ言うと、「あら、私としたことが」と澄まして口を押さえた。圭太は思わず吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
——先生、あなたがそんなに思っていてくださってるなら、それで十分ですよ。
もうこれ以上は言うまいと怒りたい衝動を胸にしまう。
「圭太さん」そう言って西川先生は圭太にまっすぐに向いた。日頃、生徒たちの前では、「早瀬先生」と先生は圭太を呼んでいた。急に名前で呼ばれるのもなんか照れ臭い。
「圭太さん、圭のこと、本当によろしくお願いします」
先生はそう言って頭を下げた。日頃、西川先生は圭のことを「高橋さん」と呼んでいたはずだ。
「つまり僕はまだ関わってもいいんですか?」
「当たり前です。一応お約束した通りこれでスカイシーの指導は区切りとなるけど、できればこれからも軽音部の指導を続けて欲しいくらいです。それに——」そこで西川先生は一回目を伏せて大きく呼吸をした。「あの子が日本に来たとき、実は少し落ち込んでたんですよ。本当は日本じゃなくアメリカの高校にそのまま行きたかったんじゃないかなあ」
これは、圭という子のことで、とても大事な話をしてくれてるんだ。信用してもらえている、と受け取っていいんだろう。
「日本に来て何日か、所在なげに少しぼーっとしてたのよね。それがね、学校の制服が仕上がった日に、それを着たままフッといなくなっちゃって。ところがさ、夕方前に帰ってきたらえらく元気になってて、楽しそうだけど何かあったのって聞いたら、いっぱい写真を撮って、いっぱい歌ってきたって本当にうれしそうに」西川先生が目を細めた。
「それって……」圭太が思い当たった。
「そう、あなたたち春に中目黒で演奏したでしょ。なんか、父親と中目黒の駅周辺の写真をいっぱい撮って送るって約束してたことを思い出して、まだ道もたいしてわからないのに私に黙って東横線に乗って行っちゃったらしいのよ。それが、あなたと会った日のことで」
「ああ、だからあんなところで制服着てたんですか」
「そう。そして今度は入学式の前にまた出会って。あの子、本当に音楽が好きなんだなあ。私も初めて音楽室で聴いたけどよかったよ、あなたたち」
「ありがとうございます」
「圭は音楽を続けたいんだと思う。だから、あなたを信用してあの子を預けていいかな」真剣な眼差しで西川先生が圭太を見つめた。
「でも、学校の方は大丈夫なんですか」
「ああ、それは大丈夫。私もどうせあと二、三年すれば定年だし、怖いもんなんかありませんよ」そう言って笑っていた。
「先生は——。先生は圭ちゃんとはどういう関係なんですか。大家さん、というにはすごく彼女のことに詳しいというか」
気になっていたことを圭太は西川先生に聞いてみた。すると、
「実は私、伯母なんですよ。血は繋がってないけどね」
という意外な答えが返ってきた。どうりで詳しいはずだ。
「というわけで、あなたを信用して預けるんだから、あの子に何かあったら絶対に。いい? 絶対に許さないからね。そしてまだ子供なんだから、わかってるでしょうね」
西川先生に少々ドスの効いた声で念を押された圭太だった。
スカイシーの解団式は厳かに行われ、今の一年生にスカイシーの名前は引き継がれることになった。そして圭太は今までよりは回数は減るが、引き続き軽音部の指導を引き受けることになり、相変わらず女子高生から「圭太」と呼び捨てで呼ばれることになった。
——まっ、いいか。
学園側としてはこれほど外部から集中してアクセスがあることは甚だ想定外のことで、少々困惑しているという。
もともと学園の生徒募集とそれに伴う生徒たちの活動を紹介するためのホームページであり、レンタルサーバーの容量もこれまでは十分であったところであるが、圭やスカイシーの活動の場を学園以外の場所に拡げれば、今回のような想定外の事態がまた起こり得る可能性がある。圭が音楽活動をこれから増やしていくなら、事務所側にその対応をさせろという極端な意見まであるらしい。
とてもいいライブだったと思っている圭太としては、学園側のそんな反応がとても残念だった。生徒たちは何ヶ月もの練習の成果を発揮し、あんな立派な会場で実に生き生きとした音楽を奏でていた。学校という場所が生徒たちを育てる場所であるというのなら、学園にはそんな目標を達成できた彼女たちを誉めてあげて欲しかったと思う。ましてや伝統とか格式とかサーバーがどうとかだと? がっかりだ。
「先生も、そう思いますか?」そんな気持ちをグッと堪えて、圭太は西川先生に聞いた。圭太はもともと部外者だ。でしゃばってはいけない。
「私としては——」西川先生はなんとも言えない複雑な表情をして、圭太をじっと見ていた。
「私としては——」再びボソッと口を開いた。「あんなに生徒たちが頑張ったのに、サーバーがどうとか、お金がどうとか、もう脳みその凝り固まった連中は教師なんかさっさとやめっちまえ」
西川先生はそれだけ言うと、「あら、私としたことが」と澄まして口を押さえた。圭太は思わず吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
——先生、あなたがそんなに思っていてくださってるなら、それで十分ですよ。
もうこれ以上は言うまいと怒りたい衝動を胸にしまう。
「圭太さん」そう言って西川先生は圭太にまっすぐに向いた。日頃、生徒たちの前では、「早瀬先生」と先生は圭太を呼んでいた。急に名前で呼ばれるのもなんか照れ臭い。
「圭太さん、圭のこと、本当によろしくお願いします」
先生はそう言って頭を下げた。日頃、西川先生は圭のことを「高橋さん」と呼んでいたはずだ。
「つまり僕はまだ関わってもいいんですか?」
「当たり前です。一応お約束した通りこれでスカイシーの指導は区切りとなるけど、できればこれからも軽音部の指導を続けて欲しいくらいです。それに——」そこで西川先生は一回目を伏せて大きく呼吸をした。「あの子が日本に来たとき、実は少し落ち込んでたんですよ。本当は日本じゃなくアメリカの高校にそのまま行きたかったんじゃないかなあ」
これは、圭という子のことで、とても大事な話をしてくれてるんだ。信用してもらえている、と受け取っていいんだろう。
「日本に来て何日か、所在なげに少しぼーっとしてたのよね。それがね、学校の制服が仕上がった日に、それを着たままフッといなくなっちゃって。ところがさ、夕方前に帰ってきたらえらく元気になってて、楽しそうだけど何かあったのって聞いたら、いっぱい写真を撮って、いっぱい歌ってきたって本当にうれしそうに」西川先生が目を細めた。
「それって……」圭太が思い当たった。
「そう、あなたたち春に中目黒で演奏したでしょ。なんか、父親と中目黒の駅周辺の写真をいっぱい撮って送るって約束してたことを思い出して、まだ道もたいしてわからないのに私に黙って東横線に乗って行っちゃったらしいのよ。それが、あなたと会った日のことで」
「ああ、だからあんなところで制服着てたんですか」
「そう。そして今度は入学式の前にまた出会って。あの子、本当に音楽が好きなんだなあ。私も初めて音楽室で聴いたけどよかったよ、あなたたち」
「ありがとうございます」
「圭は音楽を続けたいんだと思う。だから、あなたを信用してあの子を預けていいかな」真剣な眼差しで西川先生が圭太を見つめた。
「でも、学校の方は大丈夫なんですか」
「ああ、それは大丈夫。私もどうせあと二、三年すれば定年だし、怖いもんなんかありませんよ」そう言って笑っていた。
「先生は——。先生は圭ちゃんとはどういう関係なんですか。大家さん、というにはすごく彼女のことに詳しいというか」
気になっていたことを圭太は西川先生に聞いてみた。すると、
「実は私、伯母なんですよ。血は繋がってないけどね」
という意外な答えが返ってきた。どうりで詳しいはずだ。
「というわけで、あなたを信用して預けるんだから、あの子に何かあったら絶対に。いい? 絶対に許さないからね。そしてまだ子供なんだから、わかってるでしょうね」
西川先生に少々ドスの効いた声で念を押された圭太だった。
スカイシーの解団式は厳かに行われ、今の一年生にスカイシーの名前は引き継がれることになった。そして圭太は今までよりは回数は減るが、引き続き軽音部の指導を引き受けることになり、相変わらず女子高生から「圭太」と呼び捨てで呼ばれることになった。
——まっ、いいか。
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