警部補「日暮のんの」の捜査日記

笑里

文字の大きさ
6 / 19
美月のあ参上!

十戒

しおりを挟む
「いかん、ダメだ!」

 屋上から飛び降りた二人を見ていた課長と山根が思わず目を閉じた、そのとき。

 ——バシュン!

 エアクッションを拳で殴ったときような、少し穴のあいたクッションに勢いをつけて座った時のような音をもっと大きくした音が、群衆の叫び声に被さるようにビルの谷間に反響した。

 ビルの屋上からダイビングしたのんのとかれんのふたりは、消防のレスキューが万が一に備えてビルの下に用意した巨大なエアマットのど真ん中に、見事に着地していたのだ。確かに群衆が見つめるここなら、組織も手を出せそうもない。

「めっちゃ怖かったあ!」

 巨大なエアマットに包まれて、のんのが大声で叫んだ。

「あたしもっ!」

 かれんもすっかり暗くなり始めた空を見上げながら叫ぶ。そして二人はつないでいた手をさらにしっかりと握り、顔を見合わせて思わず大声で笑ってしまったのだった。

「さっ、降りようか」

 笑いが少し治り、のんのが促したかたちで巨大なクッションの上を飛び跳ねるように移動しながら二人が地面に降り立つと、たくさんのフラッシュが焚かれ、大勢の人間に取り囲まれてしまっていた。
 予定外であった降り方にすっかり虚をつかれ、のんのをマスコミから隔離するはずだった警察関係者は蚊帳の外に取り残されてしまい、そんな課長たちの気も知らず、

 ——あなたは何者ですか

とカメラを担ぎマイクを突き出した中年の男性にそう聞かれ、

「正義の味方、宇宙少女ソラ。またの名を美月のあ。救出完了しただいま帰還しました」

と敬礼をしながらカメラに向かって決めポーズをとっていたのだ。

「か、確保しろ」

 倉橋の怒号にはたと我に帰った山根は、群衆をかき分け進もうとするがなかなかふたりの場所にたどり着けない。

 ——日暮警部補!

と叫ぼうとして、警察だとバレてはいけないことをはたと思い出した。

 ——えーい、この際しかたない。

「のあちゃん、ふたりともこっちへ早く」

 頭上で手を大きく振りながら呼ぶと、のんのが山根に気がついた。

 まぶしいたくさんのフラッシュの中、山根のいる方へのんのはかれんを連れて行こうとするが、マスコミなどにふさがれてなかなか前に進めないでいると、突然まるで十戒の海のように人垣が割れて通路ができたのだ。

「のあ様、どうぞ」

 それは、美月のあ私設ファンクラブのメンバーが体を張ってのんのの救出に力を貸してくれている。

「みんな、ありがとう!」

 のんのはかれんの手を引きながら、人間通路を抜けて山根の待つパトカーへダッシュし乗り込んだ。もちろん、振り向きざまのファンクラブへの投げキッスは忘れなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...