警部補「日暮のんの」の捜査日記

笑里

文字の大きさ
17 / 19
美月のあ参上!

効果音付きの。

しおりを挟む
「日暮警部補、ちょっといいかな」

 倉橋課長が三課の席へ近寄ってきた。

「この日誌の、『札ってなんですか』のあとの、ダラララララララララって何かな」
「それはドラムロールの音です」
「ドラムロール?」
「えっと、効果音? クイズ番組でやるじゃないですか。だから、私の質問に課長の答えが書きやすいようにドラムロールを入れてみました」
「じゃあ、あの、私はこの後ろに『逮捕状のことです』とか書けと?」
「はい、よろしくお願いします」

 周りから何人かの押し殺すようなかすかな笑い声が聞こえる中、倉橋はのんのに朝から説教をする羽目になった。

「警部補、課長はめっちゃ怒ってましたよね」

 山根がそっと、のんのに声を掛ける。

「おっかしいなあ。絶対あっちの方が読んでて楽しいじゃん。意味わかんない」

 どうやら、全く反省の色がないみたいだ。倉橋課長の説教にも動じないその強心臓っぷりに、逆に山根はおかしくて仕方ない。

「あっ、そうだ。警部補は銃の訓練にはもう行きましたか」

 警察官には、定期的に拳銃の操作訓練があり、全員を同じ日に集めることは不可能なので、一定の期間に訓練を受けなければならない。

「それなんだけど」
 のんのが机の影に隠れるようにして、声を潜めるので、ついつい山根もそっと話をしてしまう。

 ——なんすか。
 ——私の代わりに行くって無理?
 ——どういうことです?
 ——私の影武者で訓練に出てくれない?
 ——はっ?
 ——私、拳銃って苦手なの。触るのも怖いし。
 ——いやいや、さすがに無理っすよ。研修の教官、知り合いなんですぐにバレちゃいます。
 ——私、警察学校の訓練でさ、『構え』って号令で構えてもないのについ撃っちゃってさ。警察学校の訓練場の天井に二箇所、穴開けちゃったのよ。そのうち誰か殺しちゃいそうで怖いの! 後ろに立ってた教官もビビってた。
 ——そりゃビビりますわ。
 ——だから内緒なんだけど、私の拳銃の玉は最初から抜いてるの。
 ——そりゃさすがにまずいっす。よし、訓練いきましょう! 僕が教えますから!

 拳銃が得意な山根はのんのを引っ張るように訓練場に連れて行き、基礎からのんのに拳銃操法を教えたのだが、いきなりまたひとつ天井の穴が増えたのは教官と課長には内緒だ。

「力が入りすぎてるんです。そうだなあ、普通と違うやり方だけど、構えたときに目を閉じて深呼吸でもしましょうか」
「はい」
「自分の中でリズムをとりましょう。構えたときに肩の力を抜いて、ゆっくりと同じリズムで呼吸をしながら、鼻から息を吸うときに目蓋を軽く閉じて」
「はい」
 課長には頑固だが、案外素直に山根のいうことは聞く。
「ゆっくりと目を開けて、腹式の呼吸で、ゆっくりと口から吐く」

 ——フゥゥゥ。

 呼吸が落ち着いてきたみたいだ。
「じゃあ、次は本番。もう一度最初から。さっきのリズムのまま、3回目に息を吐くときに、ゆっくりと引き金を引くけど、そのときに意識として絶対に人差し指に力を入れないこと」
「人差し指に力を入れないと引き金が引けないじゃん」
「違うんだよ。手全体を固定して、ゆっくりと全ての指で銃を握りしめるようにするんだよ。人差し指だけで撃つと、銃口がブレるよ」
「全体を握りしめるように……」
「そう、人差し指を意識しない。僕は『闇夜に霜の降るごとし』って教わった。吐く呼吸に合わせて、じわっと時間をかけて全部を握りしめる感じかな」
「うん、やってみる」

 いつの間にか、2人はタメで話しているのも気が付かず集中していた。

 ——闇夜に霜の降るごとく。

 ——バン!

 銃のすざまじい破裂音が響いた。残念ながら、的の真ん中には当たらなかったが、少しだけ端をかすめるように当たったのだ。のんのにとって、初めてだったらしい。

「やったあ!」

 ——バン!

 のんのは喜びのあまり再び上に向けた銃の引き金を引いてしまったのだった。山根が腰を抜かしたのも仕方あるまい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...