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談義
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放課後、俺は少し時間を潰してから、図書館へ向かう。
途中、グラウンドの横を通ると、萌がしっかり部活をしていた。
やるとなったらとことんやるタイプの人間だ、肌寒い季節だというのに、うでまくりして汗だくで走り回っている。
「そこ、遅れてるよ!」
しかも後輩にしっかり指導までしているじゃないか。
先週までサボってた先輩とは思えない熱血っぷりだ。
ふと、こっちに目をやった萌と目が合う。
俺は軽く手をあげたが、まさかのスルーされた。
ほかの部員が「誰?」「何?」と言わんばかりにこっちを見ている。居心地悪い。
俺は女子サッカー部全員の視線を感じながら、急いで校門を出ていった。
校門を抜けて左に曲がり、1分も歩けば図書館だ。
エレベーターに乗ると、昨日の気恥ずかしさが甦ってきたが、こほんと咳払いをして吹き飛ばす。
扉が開き、いつもの空気を感じながら、まずはカウンターへ。
「佳苗さん、本の返却お願いします」
カウンターに本を積み、何やらパソコンに入力作業をしていた佳苗さんは、こっちを見るとにやっと笑って応えた。
「転生した俺はみんなより少し時間軸がずれてて一分先の未来が見えるから新天地で無双しますの返却、と」
フルでタイトル言うのいい加減止めてください。
「あれ、返却期限一日遅れてるわよ」
「すみません」
「本にも人にも……」
「平等に出会う権利があるんですよね」
つい先に言ってしまった。
「分かってるなら良いわ、罰としてこの本のタイトルをパソコンに打ち込む作業をしなさい」
そういいながらカウンターに積まれた本を手で叩いた。
さっきのにやっと笑ったのはこれか……良いところに来たなってやつか。
「わかりました」
こちらに引け目があるというのもあったが、佳苗さんの手伝いになるなら、という気持ちもあった。
「彼女ならまだ来てないから、打ち込み作業しながら待つと良いわ」
「田中さんの事ですか? って彼女じゃないですって!」
「あら、彼女ってのは代名詞で言っただけで深い意味はないわよ?」
そういって反応を見ながらニヤニヤ笑う。
くそう、すぐからかう。手伝う気持ちが萎えるじゃないか。
そんなことを思いながらも、黙々と作業をこなしていく。
これは新刊で入荷した本のようだ。
入力が終わった本は、佳苗さんが利用者の対応の合間に、次々とラミネート加工してゆく。
本の表紙に薄いビニールのシールのようなものを張り、汚れにくいようにしていくのだ。
「今まで気にせず借りていたけど、本を貸し出すまでにも、やることはいっぱいあるんですね」
打ち込み作業が終わったと報告してから、俺はそんなことを言った。
「司書って仕事は、カウンターでニコニコしてれば良い訳じゃないのよ?」
「新刊は、佳苗さんが選ぶんですか?」
「毎週気が遠くなるくらいたくさんの本が出版されてるわ、本当は全部置きたいところだけど無理だしね」
「それに、このラミネート加工って、やってるところ見るまで気づきませんでした」
「それないとすぐに手垢で汚くなっちゃうのよ」
仕事の手を休めず、当たり前のように答える。
佳苗さんを改めて見てみた。
美人で、おしゃれで、清潔感もあって。
誰とでも仲良くできる社交性。
本を何冊も抱えて歩き回る、健康そうだけど細い手足。
でも今まで見えていなかった、仕事の細かさや、本への気遣い。
俺はこの人を知っているつもりで、本のラミネート加工にすら気づかなかった。
そんなもんなのかもしれないが。
俺はそれで片付けてはいけないような気がした。
それは昨日萌に言われたように、「知っている」ということが「それ以上知らなくて良い」って意味とニュアンスが被った事もあるだろう。
この世界には、まだまだ知るべきことがあるのだと、この時はっきり感じた。
「あら……蘇我君、お手伝い?」
ふいに声を掛けられた方を見ると、田中さんが数冊の本をカウンターに乗せながらこっちに話しかけていた。
「田中さん、昨日はバタバタでごめん」
「いいわ、元気そうで良かった」
そういいながらも、目線は合わせてはくれない。
「あ、文代ちゃん本はそこに置いといて良いわよ。仕事も終わったし、蘇我君連れてってオッケーよ」
打ち込みの仕事だけで本当に解放して貰えたようだ。
「田中さん、談話室行こう」
促しながらカウンターを出ると、図書館の奥の方へと歩きだした。
談話室というのは、本来静かにするべき図書館で、会話を許されたコーナーで、テスト前等は同級生なども勉強に使っている。
高校生が勉強すると言っても、友達と一緒にいるのだ、話に花が咲くことも少なくない。そんな時に静かにしたい人に迷惑を掛けない空間なのだ。
「さすがに、この時期は空いてるな」
テスト期間前でない限り、ほとんど学生は使用しない。
俺は適当な机を選んで、椅子に腰を下ろした。
田中さんも無言で、その向かい側に鞄を置いて座った。
少し落ち着いたところで話し始めると思ったが、なかなか会話が始まらない。
考えてみればまだ短時間2回しか顔を合わせていないのだ、俺の人見知りが発動する。
しかし、この田中さんというのも、なかなかの人見知りなのか、目線を合わせず落ち着かないふうだ。
「みんな人に好かれる努力をしている」という萌の言葉を思いだし、頑張ってなにかを言葉にする。
「転生した俺はみんなより少し時間軸がずれていて一分先の未来が見えるから新天地で無双しますの三巻読んだよ」
「フルでタイトル言わなくても……」
4回も読んでしまったので、覚えてしまった。
「感想聞かせてって事だったけど」
「うん、読んでどう思った?」
面白かった。
簡単に言うとそれだけなんだが。
「主人公があっけらかんとしていて、重い話も重くなくってさくさく読めて楽しかったよ」
「うん、あの主人公はキャラ立ちしてるよね」
ようやく会話らしくなってきた。
「でも、ヒロインがやたらと脱ぐのはどうかなって思うよ」
「男の子の願望じゃないの? 蘇我君は嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、リアリティに欠けるなぁって」
「リアリティの話だったら、根幹の一分先が見えるって設定で詰んでない?」
「うーん……どの辺が?」
初めの一言に詰まったものの、話し出してしまえば自分が上がり症だって事を忘れるくらい普通に会話している事に驚いた。
そして、田中さんも、本を読んでいるときの顔とは比べられないほど生き生きしていると感じた。
「過去で修正された未来って、どっちが見えると思う?」
「修正前の未来が見えるわけがないってこと?」
「だってそうでしょ? 歩いていて電柱にぶつかる未来が見えたら、避けるじゃない。だったら、電柱にぶつかった未来なんて初めからなかった筈だもん」
「確かにね、でもその辺は作者も気づいていて、一巻で説明してたと思うよ」
「主人公が見てるのは、平行世界の未来だって説明?」
「そうそう、だから、この世界の主人公は電柱に当たらないけど、向こうの世界の主人公は電柱に当たるって」
「いや、そもそもその考え方が矛盾してるじゃない?」
「なんで?」
「平行世界の主人公も同じ人間なら、電柱避けるでしょ」
「まぁ、そうか……能力がないとか?」
「能力無い主人公だったら1巻で死んでる。ってか一話目で死んでる」
「その段階ではもう居ないって事になるのか」
「でしょ?」
ここまで白熱した会話になるとは思ってなかった。
田中さんに至っては、初対面の物静かなイメージを払拭せざるおえないほど、鼻息荒く語っている。
「だけどさ、物語に矛盾があっても、楽しく読めれば俺は良いけどなぁ」
「っ……まぁそれはそうなんだけど」
少し浮き気味になっていた腰を落ち着けながら、田中さんは座り直した。
「田中さんはそういうとこ気になるタイプなの?」
「うん、折角いい主人公なのに、私みたいに気になりはじめると、読むの止めちゃったりするんじゃないかなって思っちゃう」
「ははは、書く側の目線みたいだね」
「そう……つい、書く側の目線で読んじゃって……で。蘇我君みたいに、読み専の意見が聞きたかったの」
「田中さん小説書いてるの!?」
今時高校生で小説を書くなんて珍しくはないのだろうが、身近に居るとは思いもしなかった。
「ネットに投稿してるけど、なかなか読んで貰えなくって」
「それで、他の作品を読んで勉強してたってこと?」
こくりと頷く田中さんは、恥ずかしそうに上目使いでこちらの様子を伺っている。
「すごいよ、書ける人尊敬する」
「誰だってできるよ、書くだけなら」
「そんなこと無いって、俺は無理だもん」
「でも読んで貰ったり、仕事にするのが難しいの。書くだけならみんなおんなじ」
さっきまでのテンションはどこへやら。悩んでいるというのがはっきり伝わってくる。
「ねぇ、田中さんの作品読ませてくれないかな?」
「恥ずかしい……」
そういってさらに小さくなる田中さんに畳み掛ける。
「読まれるようになりたいって言ってたのに、読まれるの恥ずかしいって矛盾してるって」
俺は笑いながら促す。
「私が書いてるって知ってて読まれるのは恥ずかしいって事なの」
「みんなには秘密にするから、大丈夫。俺友達居ないしさ」
「居るじゃん、橘さんとか、絶対ばれたくない」
「あぁ、まぁ友達って言うか……てか萌と仲良いの?」
「うん、色々悩みを相談し合うくらいには仲は良いけど、小説の事は言ってない」
「そんなに仲いいんだ」
考えてみれば、萌が特定の人と仲がいいなんてあまり気にしたことがなかった。
悩みごとを聞くくらいと言うなら、俺よりも仲が良いのかもしれない。
少しだけ嫉妬心がわいたような気がした。
「大丈夫、だったらなおさら萌にだけは言わないよ」
萌と仲の良いこの田中さんと、萌の知らない秘密を作ることで、嫉妬心を紛らわせようとしたのか、気づくと机に手をついて立ち上がっていた。
目検討で身長は150ちょっとしかないであろう、座っている田中さんに、180センチの大男が迫る姿は見れたものじゃなかったが。
「意見も聞きたいし、教えるね」
そういうと、投稿サイトと、検索ワードをノートの端に書いてから、ちぎって渡してきた。
「スマホ無いって言ってたけど、パソコンは見れる?」
「ああ、家にあるからそれで見てみるよ」
紙をうけとると、なくさないように筆箱にしまった。
「次会う時は、こっちの感想かな」
「お願いします」
そういうと、来週またここで会おうと約束して図書館をあとにしたのだった。
「それにしても、書く側か……凄いなぁ」
帰りしなもとにかく感心しきりの俺、その足取りは早かった。
早く帰って読みたい!
内容もタイトルも知らない作品だけど、早く帰って読んでみたいという気持ちが押さえきれなかった。
途中、グラウンドの横を通ると、萌がしっかり部活をしていた。
やるとなったらとことんやるタイプの人間だ、肌寒い季節だというのに、うでまくりして汗だくで走り回っている。
「そこ、遅れてるよ!」
しかも後輩にしっかり指導までしているじゃないか。
先週までサボってた先輩とは思えない熱血っぷりだ。
ふと、こっちに目をやった萌と目が合う。
俺は軽く手をあげたが、まさかのスルーされた。
ほかの部員が「誰?」「何?」と言わんばかりにこっちを見ている。居心地悪い。
俺は女子サッカー部全員の視線を感じながら、急いで校門を出ていった。
校門を抜けて左に曲がり、1分も歩けば図書館だ。
エレベーターに乗ると、昨日の気恥ずかしさが甦ってきたが、こほんと咳払いをして吹き飛ばす。
扉が開き、いつもの空気を感じながら、まずはカウンターへ。
「佳苗さん、本の返却お願いします」
カウンターに本を積み、何やらパソコンに入力作業をしていた佳苗さんは、こっちを見るとにやっと笑って応えた。
「転生した俺はみんなより少し時間軸がずれてて一分先の未来が見えるから新天地で無双しますの返却、と」
フルでタイトル言うのいい加減止めてください。
「あれ、返却期限一日遅れてるわよ」
「すみません」
「本にも人にも……」
「平等に出会う権利があるんですよね」
つい先に言ってしまった。
「分かってるなら良いわ、罰としてこの本のタイトルをパソコンに打ち込む作業をしなさい」
そういいながらカウンターに積まれた本を手で叩いた。
さっきのにやっと笑ったのはこれか……良いところに来たなってやつか。
「わかりました」
こちらに引け目があるというのもあったが、佳苗さんの手伝いになるなら、という気持ちもあった。
「彼女ならまだ来てないから、打ち込み作業しながら待つと良いわ」
「田中さんの事ですか? って彼女じゃないですって!」
「あら、彼女ってのは代名詞で言っただけで深い意味はないわよ?」
そういって反応を見ながらニヤニヤ笑う。
くそう、すぐからかう。手伝う気持ちが萎えるじゃないか。
そんなことを思いながらも、黙々と作業をこなしていく。
これは新刊で入荷した本のようだ。
入力が終わった本は、佳苗さんが利用者の対応の合間に、次々とラミネート加工してゆく。
本の表紙に薄いビニールのシールのようなものを張り、汚れにくいようにしていくのだ。
「今まで気にせず借りていたけど、本を貸し出すまでにも、やることはいっぱいあるんですね」
打ち込み作業が終わったと報告してから、俺はそんなことを言った。
「司書って仕事は、カウンターでニコニコしてれば良い訳じゃないのよ?」
「新刊は、佳苗さんが選ぶんですか?」
「毎週気が遠くなるくらいたくさんの本が出版されてるわ、本当は全部置きたいところだけど無理だしね」
「それに、このラミネート加工って、やってるところ見るまで気づきませんでした」
「それないとすぐに手垢で汚くなっちゃうのよ」
仕事の手を休めず、当たり前のように答える。
佳苗さんを改めて見てみた。
美人で、おしゃれで、清潔感もあって。
誰とでも仲良くできる社交性。
本を何冊も抱えて歩き回る、健康そうだけど細い手足。
でも今まで見えていなかった、仕事の細かさや、本への気遣い。
俺はこの人を知っているつもりで、本のラミネート加工にすら気づかなかった。
そんなもんなのかもしれないが。
俺はそれで片付けてはいけないような気がした。
それは昨日萌に言われたように、「知っている」ということが「それ以上知らなくて良い」って意味とニュアンスが被った事もあるだろう。
この世界には、まだまだ知るべきことがあるのだと、この時はっきり感じた。
「あら……蘇我君、お手伝い?」
ふいに声を掛けられた方を見ると、田中さんが数冊の本をカウンターに乗せながらこっちに話しかけていた。
「田中さん、昨日はバタバタでごめん」
「いいわ、元気そうで良かった」
そういいながらも、目線は合わせてはくれない。
「あ、文代ちゃん本はそこに置いといて良いわよ。仕事も終わったし、蘇我君連れてってオッケーよ」
打ち込みの仕事だけで本当に解放して貰えたようだ。
「田中さん、談話室行こう」
促しながらカウンターを出ると、図書館の奥の方へと歩きだした。
談話室というのは、本来静かにするべき図書館で、会話を許されたコーナーで、テスト前等は同級生なども勉強に使っている。
高校生が勉強すると言っても、友達と一緒にいるのだ、話に花が咲くことも少なくない。そんな時に静かにしたい人に迷惑を掛けない空間なのだ。
「さすがに、この時期は空いてるな」
テスト期間前でない限り、ほとんど学生は使用しない。
俺は適当な机を選んで、椅子に腰を下ろした。
田中さんも無言で、その向かい側に鞄を置いて座った。
少し落ち着いたところで話し始めると思ったが、なかなか会話が始まらない。
考えてみればまだ短時間2回しか顔を合わせていないのだ、俺の人見知りが発動する。
しかし、この田中さんというのも、なかなかの人見知りなのか、目線を合わせず落ち着かないふうだ。
「みんな人に好かれる努力をしている」という萌の言葉を思いだし、頑張ってなにかを言葉にする。
「転生した俺はみんなより少し時間軸がずれていて一分先の未来が見えるから新天地で無双しますの三巻読んだよ」
「フルでタイトル言わなくても……」
4回も読んでしまったので、覚えてしまった。
「感想聞かせてって事だったけど」
「うん、読んでどう思った?」
面白かった。
簡単に言うとそれだけなんだが。
「主人公があっけらかんとしていて、重い話も重くなくってさくさく読めて楽しかったよ」
「うん、あの主人公はキャラ立ちしてるよね」
ようやく会話らしくなってきた。
「でも、ヒロインがやたらと脱ぐのはどうかなって思うよ」
「男の子の願望じゃないの? 蘇我君は嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、リアリティに欠けるなぁって」
「リアリティの話だったら、根幹の一分先が見えるって設定で詰んでない?」
「うーん……どの辺が?」
初めの一言に詰まったものの、話し出してしまえば自分が上がり症だって事を忘れるくらい普通に会話している事に驚いた。
そして、田中さんも、本を読んでいるときの顔とは比べられないほど生き生きしていると感じた。
「過去で修正された未来って、どっちが見えると思う?」
「修正前の未来が見えるわけがないってこと?」
「だってそうでしょ? 歩いていて電柱にぶつかる未来が見えたら、避けるじゃない。だったら、電柱にぶつかった未来なんて初めからなかった筈だもん」
「確かにね、でもその辺は作者も気づいていて、一巻で説明してたと思うよ」
「主人公が見てるのは、平行世界の未来だって説明?」
「そうそう、だから、この世界の主人公は電柱に当たらないけど、向こうの世界の主人公は電柱に当たるって」
「いや、そもそもその考え方が矛盾してるじゃない?」
「なんで?」
「平行世界の主人公も同じ人間なら、電柱避けるでしょ」
「まぁ、そうか……能力がないとか?」
「能力無い主人公だったら1巻で死んでる。ってか一話目で死んでる」
「その段階ではもう居ないって事になるのか」
「でしょ?」
ここまで白熱した会話になるとは思ってなかった。
田中さんに至っては、初対面の物静かなイメージを払拭せざるおえないほど、鼻息荒く語っている。
「だけどさ、物語に矛盾があっても、楽しく読めれば俺は良いけどなぁ」
「っ……まぁそれはそうなんだけど」
少し浮き気味になっていた腰を落ち着けながら、田中さんは座り直した。
「田中さんはそういうとこ気になるタイプなの?」
「うん、折角いい主人公なのに、私みたいに気になりはじめると、読むの止めちゃったりするんじゃないかなって思っちゃう」
「ははは、書く側の目線みたいだね」
「そう……つい、書く側の目線で読んじゃって……で。蘇我君みたいに、読み専の意見が聞きたかったの」
「田中さん小説書いてるの!?」
今時高校生で小説を書くなんて珍しくはないのだろうが、身近に居るとは思いもしなかった。
「ネットに投稿してるけど、なかなか読んで貰えなくって」
「それで、他の作品を読んで勉強してたってこと?」
こくりと頷く田中さんは、恥ずかしそうに上目使いでこちらの様子を伺っている。
「すごいよ、書ける人尊敬する」
「誰だってできるよ、書くだけなら」
「そんなこと無いって、俺は無理だもん」
「でも読んで貰ったり、仕事にするのが難しいの。書くだけならみんなおんなじ」
さっきまでのテンションはどこへやら。悩んでいるというのがはっきり伝わってくる。
「ねぇ、田中さんの作品読ませてくれないかな?」
「恥ずかしい……」
そういってさらに小さくなる田中さんに畳み掛ける。
「読まれるようになりたいって言ってたのに、読まれるの恥ずかしいって矛盾してるって」
俺は笑いながら促す。
「私が書いてるって知ってて読まれるのは恥ずかしいって事なの」
「みんなには秘密にするから、大丈夫。俺友達居ないしさ」
「居るじゃん、橘さんとか、絶対ばれたくない」
「あぁ、まぁ友達って言うか……てか萌と仲良いの?」
「うん、色々悩みを相談し合うくらいには仲は良いけど、小説の事は言ってない」
「そんなに仲いいんだ」
考えてみれば、萌が特定の人と仲がいいなんてあまり気にしたことがなかった。
悩みごとを聞くくらいと言うなら、俺よりも仲が良いのかもしれない。
少しだけ嫉妬心がわいたような気がした。
「大丈夫、だったらなおさら萌にだけは言わないよ」
萌と仲の良いこの田中さんと、萌の知らない秘密を作ることで、嫉妬心を紛らわせようとしたのか、気づくと机に手をついて立ち上がっていた。
目検討で身長は150ちょっとしかないであろう、座っている田中さんに、180センチの大男が迫る姿は見れたものじゃなかったが。
「意見も聞きたいし、教えるね」
そういうと、投稿サイトと、検索ワードをノートの端に書いてから、ちぎって渡してきた。
「スマホ無いって言ってたけど、パソコンは見れる?」
「ああ、家にあるからそれで見てみるよ」
紙をうけとると、なくさないように筆箱にしまった。
「次会う時は、こっちの感想かな」
「お願いします」
そういうと、来週またここで会おうと約束して図書館をあとにしたのだった。
「それにしても、書く側か……凄いなぁ」
帰りしなもとにかく感心しきりの俺、その足取りは早かった。
早く帰って読みたい!
内容もタイトルも知らない作品だけど、早く帰って読んでみたいという気持ちが押さえきれなかった。
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