あやかし廃品回収

ざとういち

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第5話 たまたま猫又

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「ふっ……今日も私はなんの面白みもない神社の掃除をやらされる日々……」

 神社の娘で巫女の風子。見習いの彼女は、今日も今日とて母親に境内の掃除を手伝わされていた。

「ニャ~オ」

「お。タマが来た」

 そんな彼女の元に、一匹の老猫が近寄ってきた。風子に懐いている様子で、ピンと立たせた尻尾を袴の裾に擦り付けている。

「お~よしよし。あんただけだよ。こんな私に優しくしてくれんのは」

 タマの頭から背中を撫でる風子。タマは気持ち良さそうに身体を預けている。

「この子が神社に住み着いてだいぶ経つなぁ……。最初は人間を警戒してたみたいだけど、いつの間にか懐いてくれたんだよね」

「あぁ~もふもふがやめられねぇ~……。タマが悪いんだからね。こんなもふもふしてるから」

 掃除で荒んだ心を存分に癒やす風子。今は冬の夕方。猫の温もりは、かじかんだ手にも心地よかった。

「アァ~あったけぇ~……。もう一生こうしてたい……」

 目を瞑りタマの温もりを堪能する風子を余所に、タマの身体は光に包まれ、肉体が徐々に別の姿へと変化を遂げる最中であった……。

「ほれほれ~タマ~。お主も気持ち良いじゃろ~?」

「はい~……気持ち良いのです~」

「……え?」

 気が付くと、風子は見知らぬ少女と抱き合っていた……。

 その日の夜。

『ご不要になったぁ~テレビ、エアコン、冷蔵庫など、ございましたら~。お引き取りいたします~』

 付喪神神ツクモが、付喪神となった物を回収するため住宅街を巡回していた。

「ツクモぉ~っ!!」

「うおっ!?」

 ツクモが運転する軽トラの前に、風子が突然飛び出してきた。慌てて急ブレーキを踏むツクモ。ガクンと車体を軋ませて軽トラは停車した。

「な、なんすかいきなり……」

「し、失礼しましたのです……」

「え? だ、誰っすか?その女の子は……」

 風子の隣には、見覚えのない少女が立っていた。猫耳を生やし、短めの着物を着た少女だった。着物からはみ出した尻尾は、二股に分かれていた。

「いやぁ~……実は……。この子のことでツクモにちょっと相談があって……」

 風子は、自分の身に起きたことをツクモに説明した。

「なるほど……。その猫は猫又になったんすね……」

「ね、猫又……?」

「長く生きた猫には霊力が宿り、猫又のような妖怪になることがあるんすよね。まぁ、付喪神と似たようなもんっすね」

「そうなんだ……。だったらさ、この前のラジオみたいに付喪神の国とかいう所で預かってくれないかな……」

「えぇ~……? それは無理っすよぉ……。だって猫又は付喪神じゃないっすから」

(じゃあ似たようなもんとか言うな……!!)

 一瞬で交渉決裂し、心の中で憤る風子。風子の隣では、猫又の少女が不安そうな表情を浮かべている。

「神社に住んでた猫又なら神社に住まわせてあげればいいじゃないっすか……」

「お母さんにこんな化け猫、神社に置いておけるか!って追い出されたんだよ……」

「なかなか厳しいお母様っすね……」

「うぅ……すみませんのです。わたくしがこんな姿になってしまったばかりに……」

「タマは悪くないって……!」

 行き場所を失った涙目のタマ。そんなタマの頭を撫でながら、風子は恨めしそうにツクモを睨んでいた……。

「はぁ~……。仕方ないっすね。廃品回収のバイトさんとしてならウチで預かっても良いっすよ……」

「ほんと!? いやぁ! さすが付喪神神神!」

「だから神がいっこ多いんすよ……」

「ありがとうございますのです……。こんなわたくしのために……」

 ツクモに深々と頭を下げるタマ。ツクモは軽トラの左側ドアを開け、助手席にタマを座らせた。

「そんじゃタマさんは俺が責任を持って預かりますので、また付喪神が見つかった際には、あやかし廃品回収をどうぞよろしくお願いいたしますっす」

「はいは~い。ありがとねツクモ」

 ツクモの軽トラはタマを乗せ、夜の住宅街へと消えていった。

 ◇

「ではタマさん。この付喪神神印の拡声器で、付喪神化した物たちに向けて廃品回収の呼び掛けを手伝ってもらえますっすか?」

「は、はい……!」

「そんなに緊張しなくても大丈夫っすよ。俺も普段ゆる~くやってるので」

「は、はいっ……! えっとえっと……! これをこうして……!」

『ごごごご不要にあばば! あばばあびばびば!! あびばぼばぼごばぁ!!』

「え、えぇ……?」

「す、すみません……!! わたくし緊張してたくさん噛んでしまって!!」

「噛んでたんすか今の……? なんか凄いことになってましたっすけど……」

 震える手で拡声器を掴むタマ。緊張が収まる様子もないので、ツクモはタマに別の仕事を与えることにした。

「えっと、廃品回収の他に、不法投棄された物なんかも見て回ってるんすけど、そのチェックの方を手伝ってくれるとありがたいんすけども……」

「は、はい! わたくし穴が開くまでチェックいたしますので……!!」

 上手く仕事が手伝えなかったタマ。次こそは上手くやろう。そう彼女は闘志を燃やしていた。軽トラは不法投棄された粗大ゴミを求め、漆黒の夜の森の中へと入っていく。
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