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雪女、小さな一歩。
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共に日々を過ごし、絆を深めていくリン班。彼女たちはしばらく平和な学校生活を送っていた。
なかなか次の任務を受けたいという気持ちにはなれなかった。もちろん襲撃されたトラウマというのもあるが、あれから自分たちは成長したのか?その手応えが感じられなかったのだ。
ある時、モエが一人、ローグ先生に頼まれ、教材を運んで廊下を歩いていた。すると、モエは突然背後に気配を感じ、背中がゾクッとして思わず後ろを振り返る。
「…うひゃあっ!?」
「やあ、モエ君。
おやおや…ふふふ。
大丈夫かい?」
背後にいたのはミスティ先生だった。振り返ったら目の前にいたので、モエは驚いて飛び上がり教材を辺りにぶち撒けてしまった。
ミスティ先生は不敵に笑いながら教材を拾うのを手伝ってくれていた。
「す…すみませんっす!」
「いやいや、元はと言えば
私のせいだからねぇ。
ふふふ…あ、そうだ。」
ミスティ先生はダボダボのローブから小さな袋に入った何かを取り出し、両手が塞がっているモエの制服のポケットに突っ込んだ。
「?…な、なんすかこれ?」
「これは魔力が込めてある
植物の種だよ。そうすると
成長が早まったり品質が
良くなったりするのさ。」
「植物の魔法を使う君には
ピッタリの品だと思ってね。
驚かせてしまったお詫びだ。
受け取ってくれ…。ふふふ。」
「あ、ありがとう
ごさいますっす…!」
ミスティ先生はヒラヒラと手を振りながらモエの横を通り過ぎていった。
「植物の種に魔力を…。」
何か閃きそうな気がする…モエは漠然とそんな予感がした。
「んん~っ…!」
ユキは相変わらず寮の裏側にある小川で、魚を生け捕りにする魔法の特訓をしていた。
授業で習った通り、自分が使いたい魔法のイメージを思い浮かべる。魔力の込め方とイメージの条件が整うと、頭の中に呪文が浮かぶ。それを唱えると魔法が発動する仕組みになっている。
だが、ユキは自分が本来使える雪女の力のイメージが邪魔をしてしまい、他の魔法のイメージが浮かびにくくなっていた。
氷の魔法を使おうとすると、雪女の力の方が発動してしまう。
普通の人間以上に魔法を習得する難易度は上がっていたのである。
「駄目だ…何も起きない…。」
ユキは弱気になっていた…すると突然。
『パシュッ』
風の塊のような物が魚を一匹、川の中から空中に打ち上げた。魚は目を白黒させながら宙を舞い、再び川の中に着水した。
「どう?調子は?」
リンだった。ユキが散々苦労していることをあっさりこなし、ユキの元へ颯爽と歩み寄る。
「いやそれが全然…。」
なんの成果も出せていないので、ユキはバツが悪そうに目を逸らす。
「魔法をイメージ
したいんだけど、
上手く行かなくて…。」
「風を使ってみたらどう?」
突然の風発言で何が何やら分からず、ユキはポカンとしている。
「ほら、あたしは普段、
風と氷の魔法を
使ってるじゃない?」
「あれは自然現象くくりで
イメージしやすいから、
その組み合わせで
使うようにしてるのよ。」
ペラペラと的確なアドバイスを始めるリン。まさかあの組み合わせにそんな意味があったとは…。と、今まで気付かなかったユキは驚いていた。
「風…風の力…。」
確かに、雪女の力を使うと風も発生することは多い。ならば、氷の力だけ取り除いて風のイメージを残せば、もしかしたら上手く行くんじゃないかと思った。
しかし、今まで上手く行かなかったことが、そう簡単に出来るようになる訳ではなかった。ユキは集中し続けるが何も起きない。
「ちょっと手貸して。」
リンがユキの右手を両手で包み込む。スラリとした美しい指に包まれたユキの手は、魚の方に狙いを付ける。
「あたしが風のイメージの
魔力をあんたに流し込む。
呪文が浮かんだらすぐ
唱えてみて…!」
まさに手取り足取り教えてくれるリン。ユキは嬉しい気持ちになりながら、リンの厚意に応えたいと思った。
すると、リンの魔力が自分の右手に流れ込むのを感じた。今まで感じたことのない感触に、少しくすぐったくなるが、すぐにイメージすることに集中する。
「フロ…ウ…?」
「えっ!?」
リンは突然自分のラストネームを呼ばれドキッとしてしまう。その時。
『パァンッ!!』
ユキの目の前で風の魔力が弾けた。今までウンともスンとも何も起きなかった魔法の訓練中に、初めて目で確認出来るような現象が起きたのだ。
「それ!それよユキ!
今の感覚を忘れないうちに
今度は一人でやってみて!」
「う、うん…!!」
急いで構え直すユキ。魚の方をまっすぐ見ながらさっきのイメージを必死で思い出す。
風の力が右手の中に巻き起こるイメージが湧く。それを人差し指に集中させる。ユキの頭に呪文が浮かぶ!
「…フロウッ!!」
シュパッ!と鋭い音が辺りに響く。何か撃ち出されたようだが、目で確認出来なかった。小川の水面は大きな波紋を作っている。
「で…出来た…?」
魚には当たらなかったが、何かが自分の右手人差し指から撃ち出されるのは感じた。ユキはついに魔法を撃ち出すことが出来たのだ。
「や……。」
「やったじゃないユキ!!」
「あ、ありがとう…!!
リンちゃんのおかげだよっ!」
リンはユキを抱き締めた。自分のことのように喜んでくれるリンにユキは嬉しい気持ちになった。
「さすがあたしは
教え方もエリートねっ!」
一言余計ではあったが…でもその通りでちょっと悔しかったので、ユキは今の発言は聞き流した。
「でも当たってないから…。
まだまだ練習しないと…!」
「うん…!頑張って!
そこまで出来たら後は
なんとかなるわっ!」
小さな一歩の積み重ねだが、リン班は着実に成長を続けているのであった。
なかなか次の任務を受けたいという気持ちにはなれなかった。もちろん襲撃されたトラウマというのもあるが、あれから自分たちは成長したのか?その手応えが感じられなかったのだ。
ある時、モエが一人、ローグ先生に頼まれ、教材を運んで廊下を歩いていた。すると、モエは突然背後に気配を感じ、背中がゾクッとして思わず後ろを振り返る。
「…うひゃあっ!?」
「やあ、モエ君。
おやおや…ふふふ。
大丈夫かい?」
背後にいたのはミスティ先生だった。振り返ったら目の前にいたので、モエは驚いて飛び上がり教材を辺りにぶち撒けてしまった。
ミスティ先生は不敵に笑いながら教材を拾うのを手伝ってくれていた。
「す…すみませんっす!」
「いやいや、元はと言えば
私のせいだからねぇ。
ふふふ…あ、そうだ。」
ミスティ先生はダボダボのローブから小さな袋に入った何かを取り出し、両手が塞がっているモエの制服のポケットに突っ込んだ。
「?…な、なんすかこれ?」
「これは魔力が込めてある
植物の種だよ。そうすると
成長が早まったり品質が
良くなったりするのさ。」
「植物の魔法を使う君には
ピッタリの品だと思ってね。
驚かせてしまったお詫びだ。
受け取ってくれ…。ふふふ。」
「あ、ありがとう
ごさいますっす…!」
ミスティ先生はヒラヒラと手を振りながらモエの横を通り過ぎていった。
「植物の種に魔力を…。」
何か閃きそうな気がする…モエは漠然とそんな予感がした。
「んん~っ…!」
ユキは相変わらず寮の裏側にある小川で、魚を生け捕りにする魔法の特訓をしていた。
授業で習った通り、自分が使いたい魔法のイメージを思い浮かべる。魔力の込め方とイメージの条件が整うと、頭の中に呪文が浮かぶ。それを唱えると魔法が発動する仕組みになっている。
だが、ユキは自分が本来使える雪女の力のイメージが邪魔をしてしまい、他の魔法のイメージが浮かびにくくなっていた。
氷の魔法を使おうとすると、雪女の力の方が発動してしまう。
普通の人間以上に魔法を習得する難易度は上がっていたのである。
「駄目だ…何も起きない…。」
ユキは弱気になっていた…すると突然。
『パシュッ』
風の塊のような物が魚を一匹、川の中から空中に打ち上げた。魚は目を白黒させながら宙を舞い、再び川の中に着水した。
「どう?調子は?」
リンだった。ユキが散々苦労していることをあっさりこなし、ユキの元へ颯爽と歩み寄る。
「いやそれが全然…。」
なんの成果も出せていないので、ユキはバツが悪そうに目を逸らす。
「魔法をイメージ
したいんだけど、
上手く行かなくて…。」
「風を使ってみたらどう?」
突然の風発言で何が何やら分からず、ユキはポカンとしている。
「ほら、あたしは普段、
風と氷の魔法を
使ってるじゃない?」
「あれは自然現象くくりで
イメージしやすいから、
その組み合わせで
使うようにしてるのよ。」
ペラペラと的確なアドバイスを始めるリン。まさかあの組み合わせにそんな意味があったとは…。と、今まで気付かなかったユキは驚いていた。
「風…風の力…。」
確かに、雪女の力を使うと風も発生することは多い。ならば、氷の力だけ取り除いて風のイメージを残せば、もしかしたら上手く行くんじゃないかと思った。
しかし、今まで上手く行かなかったことが、そう簡単に出来るようになる訳ではなかった。ユキは集中し続けるが何も起きない。
「ちょっと手貸して。」
リンがユキの右手を両手で包み込む。スラリとした美しい指に包まれたユキの手は、魚の方に狙いを付ける。
「あたしが風のイメージの
魔力をあんたに流し込む。
呪文が浮かんだらすぐ
唱えてみて…!」
まさに手取り足取り教えてくれるリン。ユキは嬉しい気持ちになりながら、リンの厚意に応えたいと思った。
すると、リンの魔力が自分の右手に流れ込むのを感じた。今まで感じたことのない感触に、少しくすぐったくなるが、すぐにイメージすることに集中する。
「フロ…ウ…?」
「えっ!?」
リンは突然自分のラストネームを呼ばれドキッとしてしまう。その時。
『パァンッ!!』
ユキの目の前で風の魔力が弾けた。今までウンともスンとも何も起きなかった魔法の訓練中に、初めて目で確認出来るような現象が起きたのだ。
「それ!それよユキ!
今の感覚を忘れないうちに
今度は一人でやってみて!」
「う、うん…!!」
急いで構え直すユキ。魚の方をまっすぐ見ながらさっきのイメージを必死で思い出す。
風の力が右手の中に巻き起こるイメージが湧く。それを人差し指に集中させる。ユキの頭に呪文が浮かぶ!
「…フロウッ!!」
シュパッ!と鋭い音が辺りに響く。何か撃ち出されたようだが、目で確認出来なかった。小川の水面は大きな波紋を作っている。
「で…出来た…?」
魚には当たらなかったが、何かが自分の右手人差し指から撃ち出されるのは感じた。ユキはついに魔法を撃ち出すことが出来たのだ。
「や……。」
「やったじゃないユキ!!」
「あ、ありがとう…!!
リンちゃんのおかげだよっ!」
リンはユキを抱き締めた。自分のことのように喜んでくれるリンにユキは嬉しい気持ちになった。
「さすがあたしは
教え方もエリートねっ!」
一言余計ではあったが…でもその通りでちょっと悔しかったので、ユキは今の発言は聞き流した。
「でも当たってないから…。
まだまだ練習しないと…!」
「うん…!頑張って!
そこまで出来たら後は
なんとかなるわっ!」
小さな一歩の積み重ねだが、リン班は着実に成長を続けているのであった。
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