終わりのない宇宙旅行 5分後に絶望する話。

小糠雨

文字の大きさ
1 / 1

旅の記録

しおりを挟む
本日、私は宇宙船に乗り込み、はるか向こうの星に向けて、発射された。
目指すのは、人類が移住する予定の星で、調査と、サンプルの持ち帰りが主な任務らしい。
どれくらいかかるだろうか。
何ヶ月かなぁ。
クリスマスまでには帰れるかなぁ。

今日は、ほかのメンバーと共に、トランプをして遊んだ。昨日も、一昨日も同じことをしたと思う。明日も、明後日も同じことをするのだろうか。
実に暇だ。

今日は、隕石の衝突を、危ないところでかわした。
ひさびさに、本気を出して行動をしたと思う。



「おい、こんなもん書いてんのか? 面白いか?」
名前も知らない乗組員のうちの一人が、そんなことを聞いてきた。
「船だって航海日誌をつけるだろ?それと同じさ。」
おれはそう答えた。
「でもよ、航海日誌だったらどこどこの海域をどの方角にとか書くじゃねぇか。今どっちへ向かってるよ」
「知らねぇよ」
そんなどうでもいい言い合いをしていた。
「うるせぇよ、若けぇの」
この船の最年長-見たところ70は超えている-がそんな声をあげる。
彼はいま、ヘッドホンのような機器をつけて、地球と交信していた。

「おいお前ら、よく聞けや。今日で出発から10日がたった。あと何日か以内に、コールドスリープにはいれ。だとよ」

「まじかぁ、さみしくなるなぁ」
「寒そうだな。」
そんなことを口々に言い合い、そこで初めてそれぞれの身の上話を始めた。
それまでは名前までも言うことを躊躇っていたんだ。

そんな中、おれは、コールドスリープを起動する役目があったもんだから、その仕事を淡々とこなしていた。

そして、皆が話し終えた頃、ひとり、またひとりとコールドスリープの中に入っていった。

「じゃあ起動するぞ?いいな?」

そんなふうに聞きながら、全員を凍らせていった。

名前も知らない奴ら。
もちろんあの年寄りも一緒だ。

そこにある全ての機械が、順調に作動しているのを確認して、私は通信室に入った。

地球へとコールドスリープの完了を伝えるためだ。

「こちら宇宙船だ。仕事は終わったぞ、俺もコールドスリープに入ってもいいか?」

帰ってきたのは、自動の音声と、ディスプレイに表示されたデータだった。


______________________________


佐藤邦彦   28   強盗殺人   判決:追放
伊藤匠       48   放火殺人   判決:追放
源 隆二郎  78    1家殺人    判決:追放

岩本俊介   24    連続殺人   判決:重追放


______________________________

最後のは、私だった。
この船に乗っている全員が、人を殺したりして、「追放」という罪に決まっていた。
これだけで十分、絶望感に支配された。
報告書はまだ続いた。


______________________________

昇華 元年   死刑の撤廃、それに変わる罪として、追放刑を制定。
罪を犯したものの記憶を1度消去し、そのうえで船にのせる。

昇華 2年    刑の苦しみを無くすため、追放刑対象者は、外からのみ操作可能なコールドスリープを用いて冷凍。
尚、重追放刑に当たるものは、人を苦しめたぶん、多くの絶望が与えられる。

______________________________

つまり、君は、たどり着くことの無い星を目指して、命が持つ限り、進んでくれたまえ。

一言だけ、自動音声では無い人の声がして、通信は打ち切られた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...